16 エクアニアに舞い降りたオメガピース
文字数 2,592文字
トライブたちはしばらくの間、モノクロのソフィアの言った言葉の意味を探ろうとした。
だが、いくら考えてもその結論を思いつくには至らなかった。
リオン。
悔しいけど、次の機会に賭けるしかないのかもしれない。
あぁ、そうだな。
シナリオが終わらない以上、これでオメガピースが手を引くとも思えない。
すると、リオンはトライブの隣に立ち、耳元に口を近づけて、小さな声でささやいた。時折、尖塔を撫でる風に乗りながら、その言葉がトライブの耳に響く。
もし、俺がこの物語のシナリオマスターをやるとしたら、相手はこの城にヒントらしいヒントを落としにやって来ると思う。
本当にそうかしら……。
前に、オルティスの居場所のことで、さんざんアリスに振り回されたわけだし、人が作るシナリオなんて所詮単純なヒントしか生み出さないと思う。
トライブの言いたいことは分かるよ。
けれどさ、ソフィアの言葉にここまで深入りするのもまた、事実じゃん。
そう言いながら、リオンはゆっくりと尖塔の入口に向かい、地上に下る階段へと、その足をかけた。
まぁ、そうね……。
ただ、謎の優しい難しいは別にしても、物語だといずれにしても不自然になるのは間違いないわ。
トライブも、やや遅れて尖塔の入口に向かい、リオンと同じテンポで階段を降りていく。
二人の間には、およそ5、6歩ほどの差があった。そのわずかな差を階段をテンポ良く下る音が響く。
トライブ。
それは、言葉を換えるとご都合主義というもの?
そうね。
考えたシナリオ通りになるように、都合よくあるものが登場したりとか、この世界は多いと思うのよ。
アリスの登場シーンとかは、だいたい俺たちに邪魔を入れるところだったりとか。
それは言えるわ。
あとは、さっきソフィアと戦った後、都合よく転送装置が現れて、どうしても乗らないと物語が先に進まないような状況になるとか。
言う通りだよ。
でも、この物語は、変えたいという気持ちだけで動く可能性だってあるだろ。
物語を変えるような強い気持ち、トライブは持っていると俺は思うけどな。
それが事実なら、とうに物語は終わってるわ。
それに私は、自分に強い気持ちがあるなんて意識したこと、そんなにない。
自然に口にしている言葉が、いろんな人に響くだけよ。
リオンが軽く笑いながら言った一言に、トライブは首を軽く横に振りながら返した。
でも、きっといつか、トライブの意思で物語は動く。
俺はそう信じているから。
その時、二人の足音のテンポを乱すように、尖塔の下から駆け足で上がってくる音が二人の耳に聞こえた。
トライブは、階段から思わず身を乗り出して、それが誰かを覗いた。
モノクロの人物だった。
アリスじゃないか!
部屋を探してたんじゃなかったのか?
はい、部屋は見つかったんですけど、おなか空いちゃって……。
つまり、アリスは私たちが食べ物を持っていると踏んでいるわけね。
トライブは、ちょうどアリスと鉢合わせしたリオンを軽く見るなり、軽くため息をついた。
ないわ。
もしあったとしたら、さっきモノクロじゃないアリスに全部取られているわ。
それはものすごく残念です……。
剣の女王は、お菓子一つ持ってないんですね。しくしく。
リオン。
ずっとアリスと一緒にいたら、これは演技だって分かるわ。
本当に辛く悲しいときのアリスは、こんな表情じゃない。
その言葉に反応したのか、アリスは突然泣き真似をやめ、軽く鼻をすする音を発した後で、トライブに笑顔を見せた。
……というのは冗談です。
実は、ソードマスターが思わず驚いてしまう話を持ってきたんです。
もし、それがソードマスターにとってすごいと思ったら、後でお菓子とかくださいね。
約束はできないけど、話は聞いてあげるわよ。
で、私が驚く話というのは何かしら。
モノクロのアリスは、ほぼ口を動かしているだけの小さな声で、しかし真剣な表情を浮かべて言った。
トライブは、耳を澄ませてもその言葉が聞こえなかった。
あんまり大きな声で、答えを言わないで下さい。
もしそれが城下に知れ渡ったら、エクアニアの国はパニックになると思います。
エクアニアが……、パニックになる……。
だからこそ、女王の私が知らないでは済まされない事よ。
もう一度言ってちょうだい。
トライブがやや強い口調でそう言うと、アリスは軽く息を吐き出して、一呼吸置いて再び口を開いた。
アリス。
それは非常にまずいことじゃない。
今にも、オメガピースがエクアニア城に攻め入ってくるわ。
ほら、さっき言ってたようなご都合主義で物語が進むとしたら、トライブ以外のエクアニア城兵をオメガピースの中まで入れようとしないし、今回もまた一人で城までやって来て下さい、とかなるんじゃないかな。
もし、トライブが行動不能になっていたら、その限りじゃないけど。
私が行動不能なんて、そんなこと絶対ないわ。
とりあえず、本当にオメガピースが降りたのか、確認したほうがいいわ。
その時、突然モノクロのアリスが真っ青な表情を浮かべ、リオンの袖を軽くつねった。
行っちゃうの嫌です……!
私だって、自分を追い出した今のオメガピースは許せないんですから……。
アリス。言いたいことは分かるわ。
でも、この国を守るのは、私たちの使命なのよ。
必ず、城に戻ってくるわ。
トライブはそう言うと、アリスに向かって一度うなずき、急いで階段を駆け下りた。
リオンも後から付いてくる。
だが、階段を降りた瞬間、トライブの目に映ったのは、城から見下ろす「オメガピース」の城ではなく、城下に輝きを放つ緑色のオーラだった。
トライブは、転送装置があると思われる地点に向けて賭けだそうとした足を、突然止めた。
緑色のオーラが突然強く輝いたと瞬間、何事もなかったかのように消えていった、
トライブは、消えていく緑のオーラを見つめるしかなかった。
そして、それが完全に見えなくなると、リオンの目を見てはっきりと言った。
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