49 この物語を守るために
文字数 2,840文字
オルティスに逃げられたトライブは軽く息をつき、床でぐったりしているソフィアへと体の向きを変えた。そして、ソフィアの前までやってくると、中腰になり、未だ苦しい表情を浮かべるソフィアの顔を見つめた。
戦闘中からほとんど開けていなかったソフィアの目が、少しの間を置いてやや広くなった。
ようやく目を開いたソフィアの瞳は、言葉にできない気持ちを訴えているようだった。
傷さえ痛まなければ、今すぐにでもトライブに抱きつこう。そう思っているように、少なくともトライブには見えた。
そこまで言ったソフィアは、ゆっくりと体を動かし、オルティスの刀で切り裂かれた傷をかばいながら起き上がった。
トライブの手が、起き上がったソフィアの肩をギュッと掴むと、ソフィアは突然目線を下に向け、一度だけ首を横に振った。
ソフィアが、そこで一呼吸置く。
トライブは、今にも涙が溢れそうな顔のソフィアを、そっと見守っていた。
ソフィアは、その先に言葉を言おうとするも、そっと口を閉じ、3秒ほど間を置いてトライブに抱きついた。
ついに、ソフィアの目から涙がこぼれ、それがトライブの体を潤していった。
二人はしばらく抱きしめ合った。
やがてソフィアの目から感情が全てこぼれ落ちると、ようやくソフィアはトライブの体から離れた。
その時だった。
ここまでじっと二人を見守っていたリオンが、ゆっくりとした足取りで二人の前に立った。
少なくとも、オルティスのあの言葉をはっきりと聞いていたリオンとトライブには、どうしてリライト・ブレードの力が発動しなかったのかが全く分からなかった。
二人が思わず顔を見合わせる中、ソフィアは少し考えて、小さな声で言った。
そう。
もともと、このシナリオの最後に待っているのは、トライブの死。
オルティスはきっと、早くエンディングに行こうとしていたから、トライブをその場で消したかった。けれど、それだと運命が変わったことにならない。
リオンがポンと手を叩いたとき、その場にいる三人が同時にうなずいた。
この、決して広いとは言えない祭壇の間に漂っていた重い空気が、トライブたちの前から消えていきそうだった。
気付いたかどうかは分からないわよ。
でも、何となくは分かった。
もし、リライト・ブレードでエンディングの条件を書き換えることができたとすれば、私はこの世界から元に戻れる。
勿論、アッシュ・デストラやオルティスと決着をつけないといけないけど、そこで私はこの物語を終わらせることができるかも知れない。
リオンが軽く笑おうとしたその時、ソフィアがゆっくりと立ち上がり、トライブの真横までやって来るとトライブに耳打ちした。
トライブは、ソフィアに向かって小さくうなずいた。
そして、すぐにリオンに体の向きを変えた。