43 私はまだ終わってなんかいない
文字数 2,659文字
両手で体重を支えているのに、手にも足にも力が入らない。
モノクロの自分自身の死を前に、立ち上がる気力すら失われていた。
その時、トライブの背後からゆっくりとした足音が聞こえた。
だが、今のトライブには、その足音の主が誰なのか、顔を上げて見ることもできなかった。
分かるよ、その気持ち。
でもさ、ここで止まってても、意味ないじゃん。
それに、普段のトライブだったら、こんなショックからすぐ立ち直れると思うよ。
トライブは両手の力で立ち上がり、リオンの姿を確認する。
そのままリオンの体に、ばっと飛びついた。
トライブはたまらず、目に残った涙をリオンの服に流した。
一人残された中でどうすることもできなかった、その悔しさをリオンに伝える、今のトライブができる数少ない手段だった。
そんなトライブに、リオンが小さく微笑む。
トライブは、ようやくリオンから離れ、やや見上げるようにリオンの表情を見る。
目が合ったと同時に、リオンがゆっくりと口を開いた。
そして、心の中で泣いているのを見せないようにして、そっとリオンに告げるのだった。
リオンが小さくうなずくのを見て、トライブはガラスの向こうに見える祭壇の間をじっと見た。
灯は点されているが、動かなくなったモノクロのトライブの他は、誰もいなかった。
その時、不意にリオンがトライブに話し掛けた。
緑色の光は徐々に大きくなり、二人の思った通りにその光が二人を包み込んだ。
ガラスの向こう側に見える景色が、徐々に光に閉じ込められていく。
そして、再びその光の先に見えた景色は……。
トライブの目には、大きなトランポリンがうっすらと飛び込んできた。
緑色の光が混ざって、周辺の景色をはっきりと見ることはできないが、トライブの命を救ったと言っていいトランポリンだけは、鮮明に覚えていた。
トライブがそう言ったときには、緑色の光よりも、その周りの景色がはっきりと見えるようになった。
そして転送された場所は、トライブの言う通り、「オメガピース」の城に送られる前と全く同じ場所だった。
トライブは、転送装置から大きな一歩を踏み出した。リオンもその後に続く。
そのままゆっくりと坂を上り、城の入口が見えるところまでやって来た。
城兵たちの目にトライブの姿が入った瞬間、城兵がみな一斉に剣をトライブたちに向ける。
それを見て、トライブはアルフェイオスを手にしたまま立ち止まる。
うるせぇ!
俺たちは、この世界を支配する強い者に従うだけだ!
エクアニアは、オメガピースに従ったんだ。
だから、城を壊されずに済んでるんだ!
これ以上言うと、女王と言えども命はない。
もっとも、灰の神に敗れた女王には、威厳なんて何一つないからな。
城兵たちは、いつの間にかトライブが存在するかのように話を進めていた。
だが、今のトライブにそれを気にする余裕はなかった。
2対172の勝負をしなければいけない。それだけだった。