26 理由も言わずに
文字数 2,515文字
トライブの目に、茶髪をなびかせる女剣士の姿が飛び込んできた。
その姿が少しずつ大きくなり、やがてトライブにはその表情、顔つき、そしてその全てがソフィアだと分かった。
トライブは、ソフィアの目を見る。その視線の先で、ソフィアは静かに言った。
トライブは、リオンを横目に見ながら言った。
リオンが、ソフィアに見えるようにかすかにうなずく。
ライトの光に照らされながら、リオンの体がところどころ白く輝く。
無色透明で、見た目には分からなかったはずのスプレーが、くっきりと映し出されたのだ。
この物語の設定上、無色透明のスプレーはオメガピースの技術じゃないと作れない、ということになっているの。
そして、オメガピースに入隊した人はみんなそのスプレーを浴びている。
つまり、リオン。あなたはオメガピースの一員ということ。
トライブは、ソフィアに体を向け、やや細い目でソフィアをじっと見た。
だが、ソフィアも落ち着いた表情でトライブに返す。
リオンが口を挟んだが、ソフィアは全く後ずさりしない。
そして、ソフィアは首を横に振り、しばらく間を置いた後に、静かに言葉を返した。
ソフィアは、そこまで言うと回れ右して、トライブたちの前から立ち去った。
二人は懸命にソフィアを呼び止めようとするが、その言葉に振り向かない。
トライブは、小さいため息をつき、リオンに向けて静かに言う。
その時、リオンが何かを思い出したようにトライブに尋ねる。
トライブは、そう一言だけ言い残し、王室に足を向けた。
朝の光が差し込んでいたはずのエクアニアの空には、今にも雨が降りそうな薄暗い雲が広がっていた。
トライブとリオンがほぼ同時に王室に入ると、モノクロのアリスがその中にいた。
入ってくるのに気が付いたのか、モノクロのアリスが慌てて何かを赤い絨毯の下に何かを隠したのが、トライブの目には見えた。
すぐに、モノクロのアリスのもとへと歩み寄った。
アリスがおどおどしながら、赤い絨毯の上に倒れ込んで、その下に置いたものを懸命に隠していた。
それでも、トライブとリオンは両手両足を掴んで持ち上げ、その隙に赤い絨毯をバッと持ち上げた。
その瞬間、トライブの背筋が凍った。
トライブは、絨毯の下からタブレットを取り出した。
ただのタブレットではなかった。
トライブが元の世界で見たようなデザインのパラレルタブレットだったのだ。
トライブの手がかすかに震えた。