18 もう一人のアッシュ
文字数 2,655文字
アッシュが、モノクロのアッシュと出会っていることなど全く知ることもなく、リオンはトライブに話しかけた。
トライブは、「オメガピース」の城が降り立った方角を見つめたまま、静かに首を横に振った。
リオンは、そこまで言いかけて口を閉じた。
言いかけの言葉は、トライブにもはっきりと聞こえていた。
まぁ、それに近いこと。
シナリオマスターの座が奪われたと、俺たちには嘘を言っておいて、実はアッシュが今も全てを動かしている。
で、転送装置が無理やりやってきたのも、全てアッシュのシナリオ通り、ということ。
それが真実だとしたら、笑えねぇけどな……。
どうなのかしらね……。
ただ、リオン。
まだ確かじゃないけど、ソフィアはこうも言ってたのよ。
黒幕はアッシュと聞いている。
さすがに、本人を目の前にしてそれは言えなかった。
けれど、ここまで来ると、その言葉を信じるしか他に道はないのかも知れない。
リオンのため息が、転送装置の戻ってこない大通りを駆け抜けていった。
一方、「オメガピース」の城ではモノクロのアッシュの手が、アッシュを立て続けに触り続ける。
それでもアッシュは、時間が経つにつれて、何かがおかしいことに気が付くようになった。
体に何も起こらない。
腕も足も、顔の形も、そして魂でもさえも、今はまだ正気だった。
マインド・デストラクションと呼ばれる現象は、何も起こっていないようだ。
モノクロのアッシュは、そう言うと、鋭い目で右斜め後ろを睨んだ。
目の合図と同時に、とうてい扉と思えないような、分厚い黄金の壁がスルスルと動き、その中から赤い髪の剣士が現れた。
オルティスは刀を持つことなく、ゆっくりとアッシュに近づく。
アッシュは銃を構えようとしたが、その動作をすぐに止め、オルティスの言葉を待った。
アッシュは、オルティスをやや睨み付けるような表情で言った。
しかし、オルティスはその表情を一蹴するように、軽く笑ってみせた。
あぁ、そういうことだ。
その3人目のアッシュというのが、灰の神。
バーニングブレードの名のもとに、この世界を我々オメガピースのものにする、唯一絶対の存在なのだ。
もっとも、登場人物でないお前に、そんなことを語っても、意味はないが。
オルティスは、アッシュにだけ聞こえるよう、小さい声で言葉を続けた。
時折、薄笑いを浮かべながら。
アッシュは、モノクロのアッシュに言われた瞬間、唇をギュッとかみしめた。
その時、アッシュの目の前に緑色のオーラを発する転送装置が現れてきた。
そして、ゆっくりとアッシュに近づき、その身を包み込んでいく。