51 神は神のままで

文字数 3,003文字

やっぱり、ここにお前がいたようだな。

転送装置から解き放たれる緑色の光をも飲み込むように、その中から一筋の赤いオーラが浮かび上がる。


その手に携えるは、赤々と熱が放たれるバーニングブレード。

トライブたちの目が、その剣に向けられたと同時に、転送装置から一人の青年が現れた。

アッシュ・デストラ……!

トライブは、その姿をはっきりと浮かべた瞬間、アルフェイオスをアッシュ・デストラに鋭く向けた。


すぐ横で、リオンも剣を出そうとする。

こ、これがアッシュ・デストラか……。
えぇ……。

トライブは、リオンをほとんど振り返ることなく言い、再び視線をアッシュ・デストラに向けた。


尖塔の上で力の差を見せつけられた相手に、剣を持つトライブの手からは、今にも力が溢れそうだ。



だが、アッシュ・デストラは、転送装置から二歩飛び出したところで、バーニングブレードをやや下に向け、トライブをじっと見つめたまま立ち止まった。

トライブ。

この前は、運良く死を免れたと言ってよい。


だが、今度はそうはいかない。

本気で、私の命を奪うということね。

平たく言えば、そうだ。


だが、俺には今にもお前の命を奪わなければならない理由がある。

理由……。


話しなさいよ。

あぁ。


お前が死ねば、この物語は終わる。

それと同時に、俺は灰の神としてオメガピースと全世界をこの手にできる。

アッシュ・デストラが、低い声のまま、トライブに言葉を返す。

時折リオンが曇ったような表情を浮かべる中、トライブは足を動かすことなく、じっとその返事を待っている。


もし、お前が先に死んで物語が終われば、ソフィアの作った設定はそのままで終わる。


そのとき、パラレルタブレットも、リライト・ブレードも、それにバーニングブレードやマインド・デストラクションといった設定も、全てなくなる。

そう思っている奴がほとんどだ。


だが、このオメガピースで頂点にいるのは俺だ。

俺が神となり、憎い奴を消し去って、物語を終えることができる。


幸い、ソフィアもそこにいるわけだからな……。

アッシュ・デストラ、何を企んでいるんだ……!

企みというか、そうなる運命だ。


そう、俺はこの物語を終わらせて、永遠に「灰の神」として生き続けるのだからな!

そうはさせないわよ。


私だって、この物語の主人公らしく終わりにさせたい。

元の世界に戻りたい!

そのためには、あなたの野望を止めないといけない!

つべこべ言うな、トライブ。


オルティスが動き出してるんだ。

奴に、全ての主導権を握られる前に、俺はこの物語を終わらせなければならない。

やっぱり、オルティスが動き出したか……。

リオン、大丈夫よ。


私たちで二人倒せばいいんだから。

勝って、この物語を終わりにするわ。

トライブがそう言った瞬間、トライブとリオンの剣が、これまでよりもまっすぐにアッシュ・デストラに向けられた。


対するアッシュ・デストラも、ついにバーニングブレードをトライブたちに向け、その口元を緩めるように軽く笑った。

どうやら、そこまで言っても、俺との勝負を諦めないようだな。

しかも、二人でかかってくるとは……。


なら、いい。

二人ともども、この剣で始末するまでだ!

アッシュ・デストラの足が、エクアニア城の廊下を力強く踏み、トライブに向けて一気に攻め込んできた。


トライブは、リオンに向けて一度うなずき、アッシュ・デストラからやや遅れて足を踏み出した。

リオン、行くわ。
分かった!

バーニングブレードを高く上げ、正面から攻め込んでくるアッシュ・デストラに、まずトライブがまっすぐ駆けていく。力強く振り下ろされるバーニングブレードを食い止めようと、アルフェイオスをやや上に傾けながら手前に引く。


そして、アッシュ・デストラの腕が動いた。

剣を真っ二つにしてやる!
はあああっ!

力強く叫びながら、トライブはバーニングブレード目掛けて、アルフェイオスを突き上げる。

だが、振り下ろされるバーニングブレードのパワーとぶつかった瞬間、トライブの右手にも一気に痛みが走る。


じりじりと下に傾けられるアルフェイオスを、トライブはじっと見つめ、跳ね返すタイミングを見計らう。アルフェイオスを握る力を高めるにつれ、振り下ろされた時の衝撃が和らいでいく。


そこに、トライブの右からリオンが迫ってきた。

アッシュ・デストラの目がリオンに向くが、リオンの持つライトニングセイバーが一足先にバーニングブレードを叩きつける。

とりゃっ!

……っ!


おのれ……!

アッシュ・デストラが、バーニングブレードを軽く引き、やや高く上げて一気に振り下ろす。

リオンも、ライトニングセイバーをアッシュ・デストラの腕目掛けて振り上げた。


高い金切り音とともに、力と力がぶつかるが、アッシュ・デストラのパワーは全く衰えていない。

その時、二人が手元に集中する隙を見計らって、トライブは力いっぱいアルフェイオスを振り下ろした。



だが、アッシュ・デストラの目が、瞬き程度の時間、トライブに向いた。

敵は、お前だ!
……っ!

次の瞬間、アッシュ・デストラがバーニングブレードを横に引き、リオンのライトニングセイバーを真横から一気に叩きつけた。

そして、リオンがよろけた一瞬の間に、攻め込んできたトライブの勢いをもその剣で止めたのだ。


懸命に防戦するトライブ。

だが、トライブが剣に力を入れる直前に、アッシュ・デストラの渾身の一撃がアルフェイオスに迫る。

終わりだ!
だっ……!

アッシュ・デストラの攻撃に、アルフェイオスの芯を捕えられた。

震えるような衝撃が、トライブの全身を駆け回った。


「クィーン・オブ・ソード」が、「灰の神」を前に、再び意識を失いかける。

アルフェイオスを持つ力が、一気に消えていきそうだ。

このまま負けるわけには……っ!

トライブは、数秒で意識を取り戻し、アッシュ・デストラを見る目を細める。

アルフェイオスを強く握ろうと、力を入れた。


その時には、もはやバーニングブレードがトライブの目前に迫ってきていた。

無駄だっ!

アッシュ・デストラのパワーが、再びトライブの全身を駆け巡った。

声も出せないまま、トライブは思わず目を閉じた。


そして、体勢を戻せないまま、トライブは三たび横からバーニングブレードをアルフェイオスに叩きつけられた。



強い衝撃を立て続けに受けた「剣の女王」は、床に投げ出された。

剣を何とか離さなかったものの、全身の衝撃がなかなか消えない。

女王の力は、アッシュ・デストラに全く通用しないことが、証明されているかのように。



しかし、次の瞬間、再び立ち上がろうとしたトライブの目に、ほんのわずかライトニングセイバーが映る。

リオンが、その手に持った剣を輝かせ、一気に振り下ろそうとしていたのだ。

スパークリングフラッシュ!

リオンに振り返ったアッシュ・デストラが、ほんのわずかのタイミングでリオンの本気の一撃を止められなかった。

真っ正面から斬りつけられたアッシュ・デストラの手から、バーニングブレードが床に落とされ、続いてアッシュ・デストラも廊下に叩きつけられた。

こ……、こんな形で俺が負けることになるとは……。

俺たちを、なめるな!

こう見えたって、俺たちはソードマスターなんだからな!

再びアルフェイオスを強く握りしめようとしていたトライブの目に、リオンの勝ち誇ったような表情がはっきりと浮かんだ。


バーニングブレードがうっすらと消えていき、アッシュ・デストラの体から赤い光が消えていく。

「灰の神」は、力を失ったのだ。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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