51 神は神のままで
文字数 3,003文字
転送装置から解き放たれる緑色の光をも飲み込むように、その中から一筋の赤いオーラが浮かび上がる。
その手に携えるは、赤々と熱が放たれるバーニングブレード。
トライブたちの目が、その剣に向けられたと同時に、転送装置から一人の青年が現れた。
トライブは、その姿をはっきりと浮かべた瞬間、アルフェイオスをアッシュ・デストラに鋭く向けた。
すぐ横で、リオンも剣を出そうとする。
トライブは、リオンをほとんど振り返ることなく言い、再び視線をアッシュ・デストラに向けた。
尖塔の上で力の差を見せつけられた相手に、剣を持つトライブの手からは、今にも力が溢れそうだ。
だが、アッシュ・デストラは、転送装置から二歩飛び出したところで、バーニングブレードをやや下に向け、トライブをじっと見つめたまま立ち止まった。
アッシュ・デストラが、低い声のまま、トライブに言葉を返す。
時折リオンが曇ったような表情を浮かべる中、トライブは足を動かすことなく、じっとその返事を待っている。
もし、お前が先に死んで物語が終われば、ソフィアの作った設定はそのままで終わる。
そのとき、パラレルタブレットも、リライト・ブレードも、それにバーニングブレードやマインド・デストラクションといった設定も、全てなくなる。
そう思っている奴がほとんどだ。
だが、このオメガピースで頂点にいるのは俺だ。
俺が神となり、憎い奴を消し去って、物語を終えることができる。
幸い、ソフィアもそこにいるわけだからな……。
トライブがそう言った瞬間、トライブとリオンの剣が、これまでよりもまっすぐにアッシュ・デストラに向けられた。
対するアッシュ・デストラも、ついにバーニングブレードをトライブたちに向け、その口元を緩めるように軽く笑った。
アッシュ・デストラの足が、エクアニア城の廊下を力強く踏み、トライブに向けて一気に攻め込んできた。
トライブは、リオンに向けて一度うなずき、アッシュ・デストラからやや遅れて足を踏み出した。
バーニングブレードを高く上げ、正面から攻め込んでくるアッシュ・デストラに、まずトライブがまっすぐ駆けていく。力強く振り下ろされるバーニングブレードを食い止めようと、アルフェイオスをやや上に傾けながら手前に引く。
そして、アッシュ・デストラの腕が動いた。
力強く叫びながら、トライブはバーニングブレード目掛けて、アルフェイオスを突き上げる。
だが、振り下ろされるバーニングブレードのパワーとぶつかった瞬間、トライブの右手にも一気に痛みが走る。
じりじりと下に傾けられるアルフェイオスを、トライブはじっと見つめ、跳ね返すタイミングを見計らう。アルフェイオスを握る力を高めるにつれ、振り下ろされた時の衝撃が和らいでいく。
そこに、トライブの右からリオンが迫ってきた。
アッシュ・デストラの目がリオンに向くが、リオンの持つライトニングセイバーが一足先にバーニングブレードを叩きつける。
アッシュ・デストラが、バーニングブレードを軽く引き、やや高く上げて一気に振り下ろす。
リオンも、ライトニングセイバーをアッシュ・デストラの腕目掛けて振り上げた。
高い金切り音とともに、力と力がぶつかるが、アッシュ・デストラのパワーは全く衰えていない。
その時、二人が手元に集中する隙を見計らって、トライブは力いっぱいアルフェイオスを振り下ろした。
だが、アッシュ・デストラの目が、瞬き程度の時間、トライブに向いた。
次の瞬間、アッシュ・デストラがバーニングブレードを横に引き、リオンのライトニングセイバーを真横から一気に叩きつけた。
そして、リオンがよろけた一瞬の間に、攻め込んできたトライブの勢いをもその剣で止めたのだ。
懸命に防戦するトライブ。
だが、トライブが剣に力を入れる直前に、アッシュ・デストラの渾身の一撃がアルフェイオスに迫る。
アッシュ・デストラの攻撃に、アルフェイオスの芯を捕えられた。
震えるような衝撃が、トライブの全身を駆け回った。
「クィーン・オブ・ソード」が、「灰の神」を前に、再び意識を失いかける。
アルフェイオスを持つ力が、一気に消えていきそうだ。
トライブは、数秒で意識を取り戻し、アッシュ・デストラを見る目を細める。
アルフェイオスを強く握ろうと、力を入れた。
その時には、もはやバーニングブレードがトライブの目前に迫ってきていた。
アッシュ・デストラのパワーが、再びトライブの全身を駆け巡った。
声も出せないまま、トライブは思わず目を閉じた。
そして、体勢を戻せないまま、トライブは三たび横からバーニングブレードをアルフェイオスに叩きつけられた。
強い衝撃を立て続けに受けた「剣の女王」は、床に投げ出された。
剣を何とか離さなかったものの、全身の衝撃がなかなか消えない。
女王の力は、アッシュ・デストラに全く通用しないことが、証明されているかのように。
しかし、次の瞬間、再び立ち上がろうとしたトライブの目に、ほんのわずかライトニングセイバーが映る。
リオンが、その手に持った剣を輝かせ、一気に振り下ろそうとしていたのだ。
リオンに振り返ったアッシュ・デストラが、ほんのわずかのタイミングでリオンの本気の一撃を止められなかった。
真っ正面から斬りつけられたアッシュ・デストラの手から、バーニングブレードが床に落とされ、続いてアッシュ・デストラも廊下に叩きつけられた。
再びアルフェイオスを強く握りしめようとしていたトライブの目に、リオンの勝ち誇ったような表情がはっきりと浮かんだ。
バーニングブレードがうっすらと消えていき、アッシュ・デストラの体から赤い光が消えていく。
「灰の神」は、力を失ったのだ。