33 これが少女の作ったダンジョンか

文字数 2,736文字

やっぱりここ、使われなくなった部屋を無理やりいじったものだよな。

そのようね。


足下はぐちゃぐちゃしてるし、電気は抜かれてるけど、壁の作りは城の一室ぽい気がするわ。

トライブとリオンは、トイレと思われる場所から左に進む。

電気がついていない分、リオンの持つライトニングセイバーから放たれるわずかな光が頼りだ。


10メートルほど進んだだろうか。

不意に、トライブの耳に水のしたたる音が聞こえてきた。

雨漏り……?

そんなはずないだろ……。


だって、この上は普通に部屋じゃないか?

上が部屋でも、配水管に穴を開ければ、水を落とすことはできるわ。


でも、奇妙な音ね。

音というか、リズムがすごくおかしいような気がする。


水が続けて落ちて、その後また止まるような感じじゃね?

言われてみれば……。


とても自然に落ちる音とは思えないのよね。

そう話している間に、トライブは水が落ちてきていると思われる場所の前に立った。

足下には巨大な水槽が置かれているものの、溢れそうなところまで水が溜まっている。


そして、リオンの言っていた通り、ピチョン、ピチョンと10秒ほどしたたり落ちた後に、全く水が落ちてこなくなる時間が5秒ほど続いているのだった。

やっぱり、人工的に水を落としているとしか思えないわ。


そんな装置、アリスが作るとは思えないのに……。

きっと、灰の神かソフィアが、アリスをごはんで釣ったんだと思うよ。

そんなことしないと、こんなおかしなダンジョンなんて作れないし。

そうね。


とりあえず、水漏れを何とかしないと、この水が溢れだしたら城に迷惑かかるわ。

トライブ、剣士兼、女王兼、水漏れ修理業者みたいじゃん。

そこまで大がかりなことはしないわよ。


ここに空の水槽があるから、上に一つ置けばいいじゃない。

後はアリスと専門の人にやってもらうわ。

トライブは、すぐさまもう一つの水槽を先程まで水の溜まっていた水槽の上に置いた。

そして、軽く笑ってみせた。

これ、本当にダンジョンかよ。

城の中にこんなの作るなんて、よっぽどのことよ。

たしかに、壁とか階段とか、そういうものはできないけど、部屋の中にあるいろんなものを使って、アリスはアリスなりになんとか……。

ん?どうした、トライブ。

トライブは、突然立ち止まった。右足で、わらとは違う何かを踏んだような気がして、思わず目を丸くした。


次の瞬間、トライブは息を飲み込んだ。

こ、これ……、巨大なアリよ……!

えーーっ!?


お……、俺、こんなところ嫌だ!

リオンが思わず声を上げた瞬間、巨大なアリはトライブを避けて、リオンに向かってジャンプした。

トライブは、後ろからアルフェイオスをかざすも、暗闇の中で動き回る巨大アリに命中させるのは難しかった。

リオンのほうに行ったわ!

えっ?マジ?


……うわあああああっ!

巨大アリが、怯えるリオンの前で立ち止まり、小さな舌を出している。

まるで、リオンという名のおいしい蜜でもあるかのように、巨大アリがリオンをじっと見つめている。


そして、リオンはついに決断した。

スパークリングフラッシュ!

リオンは、手に持つライトニングセイバーを一気に輝かせ、アリが迫ってくる方向に一気に振り下ろした。


だが、アリは逃げるのが速い。振り下ろしたライトニングセイバーが、床に手応えを感じた。

どうやら、床に大きな穴を開けてしまったようだ。


そして、その穴から巨大アリがするすると落ちていく。

ふぅ……。


黒い虫を下に落とした……。

てっきり、まともに攻撃するのかと思ったじゃない。

よっぽど、リオンは巨大な虫が苦手なのね。

まぁね。

大きいモンスターは全然怖くないけど、気持ち悪い生物はってあまり好きじゃないんだ。


てか、アリスだから、ダンジョンにアリの巣を入れたというのもあるかも知れないけど。

その時、次の一歩を踏み出したトライブは、床が妙に柔らかいことに気付いた。

リオン、そこから離れた方がいい。

床が抜けるわ!

床が……、抜ける……?


分かった。

そう言って、リオンはトライブのいる方に飛び上がった。

トライブが息を飲み込むのがリオンの目に入ったが、反射神経で決めた動きに逆らうことができなかった。


そして、リオンはトライブの目の前に着地した。

二人の立っている床が重さに耐えられなくなったのは、その瞬間だった。

リオン!つかまって!
……っ!

リオンが真っ二つに切り裂いた床が、一瞬にして崩れ落ちる。

足場を失ったリオンに、トライブはすぐに手を伸ばし、その右腕を掴んだ。

いま、持ち上げるから……!

トライブは、リオンを懸命に持ち上げる。

だが、いくら剣で鍛え上げた腕とは言え、同じく剣士のリオンを、トライブが片手で持ち上げるのは厳しかった。少しでも重心を前に傾ければ、トライブともども落ちてしまう。

はああああっ!
ぐっ……!

トライブは、力を振り絞って、ようやくリオンを床の上に載せた。

戦ったわけではないのに、肩で呼吸するトライブに、リオンが肩を軽く叩く。

ありがとう、トライブ。

アリと一緒に落ちなくてよかったよ。

そうね……。


それにしても、またゴールまでの間に穴が開いてしまったわ。

また、道具を置いてるとかじゃないよな……。

そうリオンが言った瞬間、トライブは柱の陰にハシゴを見つけた。

長さにして、穴をゆうにふさぎそうなハシゴだった。

とりあえず、ハシゴを見つけたから、向こう側にかけましょ。

分かった!


えいっ!

リオンがハシゴを穴の向こう側目掛けて降ろす。ここはうまくハシゴをかけられたようだ。


すぐに、トライブとリオンはハシゴを渡り、さらに続くダンジョンの奥へと足を踏み入れた。通路の先にあったのは、なにやら広い部屋のようだ。

この部屋だけ、向こう側の壁が遠くに見える。

もしかしたら、ここは使っていない広間かも知れないね。

そのようね……。


でも、どこ見ても、その先の通路が見当たらないのよね……。

リオン、もう一度剣で照らして。

分かった。

リオンが、ライトニングセイバーをより強く輝かせて、部屋の四方八方を探る。

そして、その光が一周しかけたその時、リオンが何かに気付いたようだ。

この部屋だけ、部屋の蛍光灯が抜かれていない……。


もしかしたら、スイッチを押せば電気がつくんじゃないかな。

スイッチ、これのこと?

トライブは、手を伸ばした先にあるスイッチを、一気に全て押した。

すると、リオンの剣が照らした蛍光灯が一斉に光を放ち始めた。

ダンジョンから、普通の空き部屋に変わったね……。

そうね……。


でも、出口が見えないことに変わりないわ。

トライブは、蛍光灯に照らされた部屋を隅々まで見た。

だが、肝心のドアの手前に鉄格子が貼り付けられており、ドアノブに手を触れることもできなかった。

出口がない……。
本当に……?

その時だった。

二人の頭上で、何かが落ちてくるような音が轟いたのだ。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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