23 運命を書き換える剣
文字数 3,066文字
そう言えなくもないのよね。
もし、灰の神やオルティスがこのリライト・ブレードを手にしたら、今まで築き上げてきたオメガピースと、人々の生活はそこで終わってしまう。
おそらく、灰の神は異端者の奈落にこんなものがあるなんて気付いてない。
だからこそ私は、リライト・ブレードを手にして、灰の神の野望を打ち砕くのよ。
モノクロのトライブが、右手を力強く握りしめた。
その目の先には、リオンがまだその姿を知ることのない第三のアッシュ、灰の神を捕えている。
きっとモノクロのトライブは、灰の神に勝負を挑み、決着がついた瞬間にリライト・ブレードをかざすのだろう。
モノクロのトライブを見つめるリオンからは、その筋書きがはっきりと読み取れた。
そのためには、まず「異端者の奈落」から這い上がらなければならない。
リオンは、モノクロのトライブに尋ねた。
周期は決まってないけど、モンスターの目覚める音が聞こえるわ。
もうすぐ始まると思う。
3、2、1、と言ったらそこから10分のカウントが始まるわ。
リオンは、私から少し離れたところでモンスターを待った方がいい。
リオンは、モノクロのトライブがギリギリ鉱山の影に入らないところまで移り、ライトニングセイバーを鉱山に向ける。
そのわずか10秒後に、天井のスピーカーから声が響いた。
ミッションスタート、1分前。
ミッションスタート、1分前。
たとえ協力者が来ようとも、戦闘に臨むトライブの目はやや細く、その足は堂々と地面を踏みしめていた。
何度ミッションをクリアできなくても、何も怯えていない。
リオンの目には、そう映った。
そして、ミッションのカウントダウンが始まった。
何も音が鳴ることなく、鉱山の何ヵ所からモンスターがぞろぞろ現れた。
二本足で立つ、見た目はライオンやヘビのような獣。
全て、剣を持っている。
リオンは、すぐさま3体のモンスターに囲まれた。
リオンは、ライトニングセイバーを高く振り上げて振り下ろし、ライオンのような獣の持つ剣を叩き落とす。
その後、立て続けに5体とも相手の剣を振り落とした。
剣を落とされたモンスターたちは、煙でも撒かれたようにその姿を消していく。
どうやら、これでリオンのカウントは5になったようだ。
だが、モンスターたちの攻勢は、これで終わらない。
今度は人間の2倍の高さはあると思われるドラゴンが、立て続けに7体、リオンの前に現れる。
リオンは、この段階で小さく荒い息を吐き出していた。
そして、その前にはガイコツの形をしたモンスターが3匹。
今度は、モンスターから先に攻撃を仕掛けられた。
リオンは、懸命にライトニングセイバーを叩きつけ、その強烈な攻撃で相手の手から剣を落とす。次の瞬間、残りの2体から同時に剣を振り下ろされたが、リオンはすぐに剣を横に向けて攻撃を止め、力ずくで弾き返した。
残り2体の剣を落とすまでも、そう時間はかからなかった。
その後も、リオンの前にモンスターが容赦なく襲いかかった。
だが、体感的に時間がそんな経過していないように、リオンには思えた。
30、40、そしてトライブの最高記録である42を超えてもまだ、与えられた10分は終わらない。
おそらく、二人合わせて60を超えることは間違いない。リオンは、そう確信した。
そうこうしているうちに、リオンの倒したモンスターの数が、ついに56まで達した。
単独で挑むなら、残り4体といったところだ。
登場したのは、先程戦ったガイコツが4体だったが、体がピンク色だった。
明らかにパワーアップしているように見える相手に、リオンはライトニングセイバーを強く握る。
ほぼ同時に襲ってきた4体を、リオンは力ずくではじき飛ばし、ライトニングセイバーを4体の剣に向かって激しく叩きつけた。
倒せば60体クリアということもあり、なかなかしぶとい。
だが、リオンはそこでさらにパワーを集中させた。
剣先が、白く輝く。
白く輝くライトニングセイバーが絶大な破壊力を見せ、ガイコツたちは粉々に砕かれた。
そして、リオンの前から敵は消え、鉱山の穴から出てこなくなった。
リオンは、体を伸ばしてトライブの姿を見つけようとした。
モノクロのトライブは、最後の力を振り絞って、懸命に戦っていた。
だが、時間が迫る。
リオンが60体目を倒して20秒後、スピーカーが終了を告げる。
倒した敵の数、43と60。
一人クリア!
その時、リオンの目の前に、モノクロのトライブが疲れ切った表情でやって来た。
全身で呼吸しているトライブは、見るからにボロボロだった。
そう誓うトライブは、たとえモノクロとは言え、普段から見せる強気の女剣士だった。
リオンは、それを見てかすかに笑った。
だが、その時、リライト・ブレードのケースの中から、パリンと割れるような音が響いた。
リオン。
おそらく、この半分を持ち帰るというメッセージなのよ。
いつか私が「異端者の奈落」から上がってきたときに、二つ合わせれば、運命を書き換える力が湧き上がると思う。
割れたということは、そういうことを意味しているとしか考えられないわ。
リオンは、リライト・ブレードの半分を手に取って、トライブに微笑んだ。
その時、リオンの体がスーッと浮き上がり、その体を包み込むような真っ白な空間が目に飛び込んだ。
次第に見えなくなる、モノクロのトライブ。
「異端者の奈落」の中でも決して自分を見失わないトライブを、リオンは最後まで見続けた。