07 女王と王子と召使いの城
文字数 2,550文字
こうして、王を失ったエクアニアに、新たな女王が誕生した。
「クィーン・オブ・ソード」と呼ばれてきたトライブが、このエクアニアで文字通り「剣の女王」として国のトップに立ったのだ。
トライブが城の人に聞いてみても、ここまで強い王はいなかったという。
他国との戦に、王自らが出撃することはなく、城で指揮監督に当たっていた。
しかし、次に戦になった場合、女王トライブが自ら出た方がいい、とも同時に言われた。
だが、トライブには一つだけ引っかかっていた言葉があった。
「世界を救えるのは、あなたしかいません」という、物語の世界ではありきたりな言葉。
仮にこれがパラレルタブレットで作られたシナリオだとしたら、エクアニアに何かしらの危機が訪れそうなにおいすらする。
トライブは、リオンの待つ王室のドアを開いた。
キラキラと輝くシャンデリアに照らされる、トライブには大きすぎる玉座。
そこにつながる、埃ひとつない赤い絨毯。
落ち着いた雰囲気を持つ静かな王室は、新たな女王の誕生を祝っているようだった。
トライブが玉座に座ろうとすると、部屋の隅で待っていたリオンが軽々と駆けてきた。
トライブと違って、リオンは元々エクアニアには何もゆかりがなく、オメガ国内のルーファスという街で仲間同士で自警団「青い旗の騎士団」を作り、街の危機を撃破してきた。
肩書きが重くなるのを感じるのは、トライブ以上に違いなかった。
それは分かるけど……、年齢がそのまま21歳なんだし、せめて「エクアニア王立騎士団のトップ」とか、そんなリオンぽい肩書きにしたほうがいいと思う……。
それにしても、さっきから兵士ばかり見ているような気がするけど、ここの兵士って何人いるのかしら……。
その時、突然王室のドアをノックする音がトライブの耳に聞こえた。
そして、トライブが口を開くが早いか、そのドアは何の躊躇もなく開いた。
扉の向こうにいたのは、見覚えのある少女だった。
トライブは、そう言いながらも、少しだけ首をかしげた。
アリスがもし、役として召使いになっているのであれば、少なくともリオンが王子と紹介されたときから、召使いとして振る舞っていなければならない。
その場合には、トライブにとっては新たな物語が始まったことになる。
ところが、実際は全く召使いのように見えなかった。
そこで可能性として高いのは、あの時点で新しい物語に変わったわけではなく、パラレルタブレットで作られた物語の、ただの延長にいると解したほうが自然だった。
アリスの召使いも、この世界で何度も見てきているドッキリに近いものなのかもしれない。
勿論、アリスが意図的に演技していなければ、の話だが。
だが、アリス本人は首を横に振らなかった。
それどころか、王室の収納庫まで走り、双眼鏡を取ってきたのだった。
ただのルームメイトから、王室の中でも上と下の関係になったトライブとアリス。
その関係を、アリスが少しでも受け入れているように思えた。
王室の窓から、黙々と兵士の数を数えているアリスを見て、トライブは思いが確信に変わった。
アリスは、一つの方向から数え終えると、次の方角に向けて出て行った。
トライブはリオンを呼び、王室の外に漏れないような声で話した。