05 エクアニアの運命は決した
文字数 2,554文字
オルティスの足が軽やかに地上に着き、両者の刃が一直線に並ぶ。
トライブは目を細め、相手に闘志をむき出しにする。
トライブが「悪魔の闇」後の世界秩序を決するために、激闘を繰り広げた相手。
オルティスを間近で見るだけで、トライブの全身にあの時の記憶が蘇ってきた。
城の窓から、そして城下から多くの人々が見つめる中、トライブとオルティスの足が同時に大地を蹴る。
二つの剣先が徐々に接近するにつれ、剣がより激しく風を切り裂く。
そして、互いの刃が射程距離にまで近づいた瞬間、トライブはオルティスの刀に狙いを定め、アルフェイオスを上から下に一気に振り下ろした。
トライブが剣を振り下ろすのを待っていたかのように、オルティスは落ち着いて刀を上げ、その強靱な刃でアルフェイオスを受け止めに入る。
力と力が激しくぶつかり合うが、オルティスのガードが堅い。トライブはオルティスの刀をわずかに下に傾けたところで、両者の刃が均衡した。
オルティスはアルフェイオスをあっさりと振り切って、刀をオルティスの右に引き、トライブの腰目掛けて一気に回す。
トライブは剣を反らされた反動で、わずかにバランスを崩す。
それでも、「剣の女王」の鋭い目は、決してオルティスの刀から離さない。
迫ってくるオルティスの刀に向け、トライブはすぐさまアルフェイオスを突き出し、刀が身に当たる寸前でオルティスの勢いを止める。
トライブは、オルティスの一撃を弾き返すと、すぐさまオルティスの刀にアルフェイオスを力強く叩きつける。
オルティスが次の攻撃を迷いかけたわずかなタイミングを、トライブは見逃さない。
トライブの立て続けの攻撃が、少しずつオルティスの刀のガードを崩していく。
だが、オルティスもすぐに体勢を戻す。
正面からオルティスの刀を叩きつけようとしたトライブの攻撃を力ずくで止め、3連続のヒットを許さなかった。
トライブのアタックを弾き返すなり、オルティスはトライブの右腕目掛けて刀を振り下ろした。
トライブも迫り来る刀を察し、腕を手前に引いたが、オルティスのスピードの方がわずかに勝る。
次の瞬間、トライブの右腕に、激しい衝撃と裂けるような痛みが走り、アルフェイオスを持つ右手にも痛みが襲いかかる。
トライブは、閉じかけようとした目を何とか開け、オルティスの次の攻撃をその目で感じた。
トライブは、そう言い聞かし、気持ちを集中させる。
右腕の痛みをはねのけて、アルフェイオスを持つ右手に力をグッと入れた。
そして、立て続けに襲いかかってきたオルティスの刀を、トライブはアルフェイオスで止め、力ずくで押していく。
追い詰められたときに見せる、不屈の闘志。
それが、「剣の女王」トライブの最大の強さと言っても過言ではなかった。
トライブの力強いアタックが、次々とオルティスの動きを翻弄する。
トライブの見せる本気のパワーは、オルティスに反撃の糸口すら与えない。
トライブは、二度、三度とオルティスの刀を叩きつけ、すかさずアルフェイオスを真上に上げた。
トライブの手がこの日一番のパワーを感じると同時に、オルティスの刀は使い手から引き離され、鈍い音を立てて地面に落ちていった。
トライブは、宿敵への勝利を思わず叫んだ。
だが、その時トライブは、周囲の何もかもが一瞬だけ止まったのを感じた。
オルティスも、それ以外に見える者も、そしてトライブ自身も。
何もかもストップしたかのようだった。
1秒ほどの間を置いて、何事もなく動き出す。
集中し過ぎたのか、何か錯覚を起こしているかも知れない。
トライブはその時はそう感じていた。
後に、それが誤りであると気付くまでは――。
トライブがそう呟くと、その目の前でオルティスがゆっくりと刀を拾い上げ、鞘にしまった。
そして、オルティスがトライブの目をじっと見た。
オルティスは城に背を向けて、ゆっくりと城下に向かって歩き出した。
時折トライブに振り返りながら、オルティスはその姿を少しずつトライブの視界から消していった。
コバルト団とか言ってたオルティスを倒したわけでしょ。
もうすぐ、私のために作られた物語が終わるのよ。
で、その用なんだけど、さっき刀で突き刺さったエクアニア王を死なせないように、アリスの魔術を使って欲しいのよ。
トライブは、一度降りた坂を再び駆け上がり、エクアニア城へと急いだ。
ほんの10分ほど前に刀で突き刺された王は、今まさに蘇生できるかどうかの瀬戸際の時間だった。
城に入るなり、オルティス撃破の感謝をされるが、トライブは軽く首を縦に振っただけで、狭い階段を伝って尖塔へと急いだ。
何十段、いや何百段もの石の階段に、アリスは途中でついてこられなくなり、歩き出した。トライブも足の痛みを意識し始めた頃、ようやく外のまぶしい光が見えてきた。
だが、トライブがそう叫ぶ先には、何人もの兵士が何かを取り囲んでいる光景が見えた。
狭い尖塔にトライブが入ると、誰かがふるい落とされてしまいそうな勢いだった。
トライブは階段を上りきると、その取り囲んでいる中をじっと見つめた。
先程見た姿の男性が、その輪の中で目をつぶって横たわっていた。