30 鋭すぎた洞察力
文字数 3,183文字
トライブは、アッシュの剣にアルフェイオスを叩きつけるも、ほぼ同時にアッシュもアルフェイオス目掛けて猛烈なスピードで剣を振る。
激しい金切り音と、相手の剣から繰り出される風を感じたトライブは、そのわずか1秒もしないうちに、アルフェイオスを持つ手に相当の衝撃を感じた。前にモノクロのアッシュと戦ったときのように、アッシュがアルフェイオスの重心を正確に捕えている。
トライブは、じりじりと相手の剣を押しやりたくても、剣と剣がぶつかったところで勢いを止められてしまった。
今度は、トライブがアッシュの剣の勢いを止めた。
だが、勢いよく振りかざしたアルフェイオスが命中したのはは、相手の剣の重心よりもやや外れた場所だった。モノクロのアッシュが、ほんのわずかの時間で、トライブの一撃をうまくかわしたのだ。
その剣が、軽く突き上げられたと同時に、モノクロのアッシュが薄笑いを浮かべた。やや力を入れたトライブの一撃が、アッシュの手にはほとんどダメージを与えていないかのように。
モノクロのアッシュが、剣を下から一気に突き上げ、勢いの止まったアルフェイオスをトライブの手前まで押し返す。そして、剣をすぐさま左右から次々とアルフェイオスに叩きつけた。
最初の一撃を何とか食い止めたトライブだったが、すぐに反対側から攻撃を仕掛けられる。モノクロのアッシュが、トライブの動きが止まりかけた瞬間を見計らって、攻撃の方向を変えていたのだ。
トライブは、矢継ぎ早に繰り出されるアッシュの攻撃を受け止めるのがやっとだ。だが、それもトライブには隙と思えない時間で切り返されていく。
気が付くと、トライブの足は一歩、また一歩と退いては、体の重心を取り戻すしかなかった。
アッシュの素早い攻撃に耐え続けたトライブは、左からの攻撃が見えた瞬間、思わず右にジャンプした。すぐさまアルフェイオスを力強く握る。
「クィーン・オブ・ソード」の手が、本気の一撃を繰り出そうとしていた。
トライブは、全身のパワーを剣に集め、左から容赦なく叩きつけようとするアッシュの剣目掛けて、アルフェイオスを一気に振り下ろした。
だが、その瞬間アッシュの目の動きがアルフェイオスを捕える。
モノクロのアッシュが、猛烈な勢いで剣を突き上げ、トライブの一撃を止めた。アルフェイオスが、ほんのわずかアッシュの剣を押すだけで、それ以上押せない。
トライブの表情が、焦りの色に染まり出した。
すぐさまアッシュの剣が、下からアルフェイオスを叩きつけた。剣を一気に上に持ち上げられたトライブは、正面のガードすらままならない状況だ。
そこに、アッシュのとどめの一撃が襲いかかる。
トライブの胸目掛けて、アッシュの一撃が正面から襲いかかる。剣を突き上げられたトライブは、何とか胸の高さまでアルフェイオスを戻し、手に力を入れて食らいついた。
だが、序盤から力勝負に持ち込まれた女王に、もはや序盤のようなパワーは残されていなかった。体力を消耗し、アッシュの攻撃に耐えるのがやっとだった。
もがき苦しむトライブをよそに、モノクロのアッシュが次の一手に出る。
正面からの攻撃を次々耐えたアルフェイオスに、アッシュの剣が右から襲いかかった。風を切るような強烈な一撃が、アルフェイオスの重心を一気に叩きつけ、トライブは剣を持ったまま左へとよろめいた。
「クィーン・オブ・ソード」は、もはやボロボロだった。
トライブは、それでも細い目でモノクロのアッシュを見続けた。
圧倒的な洞察力で、完璧と言えるほどに相手に打ち勝ってきたスナイパーは、剣を持ったことでより鋭さが増していた。パワーもさることながら、トライブの攻撃に全く動じず、絶妙なタイミングで攻撃を止める。
それが今のアッシュであることを、トライブは認めるしかなかった。
しかし、同時にトライブは、突き上げられるような想いを胸に感じた。
トライブは体の向きを立て直し、再び正面から迫るアッシュに、残された力で立ち向かうしかなかった。パワーの衰えた女王に残されたチャンスはほとんどないが、それでもトライブはそのわずかのチャンスに懸けることにした。
アッシュが解き放つ激しい一撃を、トライブは今度も食い止める。その瞬間、アッシュの剣がわずかながら軽くなったように思えた。
トライブは、ここでアルフェイオスをアッシュの剣に激しく叩きつけた。
相手がほんのわずかに見せた隙を、女王の目は逃さない。
目の前にいるモノクロのアッシュよりも、トライブがほんのわずか冷静になった瞬間だった。
次の瞬間、トライブは全身の神経を集中させ、アルフェイオスを真上から振り下ろした。
轟くような音と共に、アルフェイオスがアッシュの剣の重心を捕える。アッシュが手の力を強めるよりも早く、その手から剣を引き離した。
王室の床に落ちる、アッシュの剣。
冷静すぎる相手に、「剣の女王」は屈することも怯えることもなかった。
その余韻が、バトルを終えた二人の間で響き渡っていた。
激しく呼吸をしながら、トライブはモノクロのアッシュに言葉を返した。
そして、右手をゆっくりと差し出すと、モノクロのアッシュもそれに応えるように右手を差し出し、握手した。
そう言うと、モノクロのアッシュはゆっくりと体の向きを変え、王室の出口へと向かった。出口のドアを開くと、そこには緑色の光に包まれた転送装置が、いつの間にか置かれていた。
その中に、モノクロのアッシュが吸い込まれていく。
トライブは、灰の神を呼ぶという言葉を信じて、ここは転送装置を追おうとはしなかった。
トライブは、リオンの目を見つめながら、軽く微笑んだ。
まだ整わない呼吸を浮かべながら、トライブは来たるべき灰の神とのバトルを思い浮かべてみた。