01 夢は現実になる
文字数 2,794文字
身を切り裂くような強い風が、エクアニアの大地で吹き荒れる。
その風をもものともせず、剣を持った一人の男が、城の尖塔に立ち、黒いマントを翻しながら叫ぶ。
女剣士トライブは、集まった群衆の前に出て、右手に剣を携えながらその男を睨み付けていた。
さぁ、愚かなる民よ!聞け!
エクアニア城は、我がコバルト軍により落ちた!
今日からこの地は、我々が支配する!
民よ、せいぜい我々に従うがよい!
ほう……。
この期に及んで、まだ抵抗する女がいるとはな……。
沈めっ!
鋭い刃が、猛スピードで迫ってくる。
これまで数多くの強敵の挑戦を退けてきたトライブだったが、剣を振ろうとしているのに体が動かない。
締め付けられるような迫力だけが、トライブの目の前に漂っていた。
トライブの意識は、迫力に飲まれ、かき消されていった。
視界から消えていく剣。
目の前が真っ黒になる。
そして、入れ替えに聞こえるのは、トライブの名前を呼ぶ声……。
トライブは、目をこすって、改めて見つめているのがアリスだと確かめた。
ふぅとため息をついて、トライブはベッドから身を起こした。
トライブは、「オメガピース」兵士棟の6階から見える、澄み切った青空をちらりと見た。
エクアニアも、青空が広がっていることを予感させるような、透き通った空気を携えて。
アリスがそう言うと、突然何か思い出したように押し入れに走った。
トライブがその動きを追おうとした時、アリスは何かを手に掴んだ。
違いますよー。
たしか、私の記憶が間違いじゃなければ、シナリオを作る人は強制的に向こうの世界に行きますけど、物語を監督する以外のアクションを一切起こせないんです。
だから、もしソードマスターがシナリオを書いたら、自分で戦えなくなるじゃないですか。
パラレルタブレット。
それは、思い浮かんだ夢を実際に体験できる、不思議なタブレット。
簡単な展開を記録したチップを差し込んで、タブレットの画面を凝視すれば、その展開が終わるまで夢の世界を体験できる。
しかし、それは夢のようなツールであり、裏を返せば危険なツールでもあった。
トライブは、アリスの表情から嫌な予感しかしなかった。
そして、一度部屋のドアを出たアリスが、ゆっくりと入ってきた。
アリスの声に促されるように、トライブはパラレルタブレットをじっと見つめた。
タブレットから白い光が浮かび上がり、トライブの視界をじわりじわりと狭くする。
それでも、トライブに苦しさは感じない。
そして、次の瞬間、白い光の向こうに、見覚えのある故郷の風景が飛び込んできた。
「剣の女王」トライブが見た、仮想エクアニア。
その時はまだ、トライブの知る光景が広がっていた。