55 物語のエンディング

文字数 2,570文字

トライブ!

ソフィアが再び叫んだと同時に、敗者の武器が床へと叩きつけられた。

そして、勝者はその武器を、敗者の目に向けてまっすぐに構えていた。


かつてないほどのパワーがぶつかり合った空間に、戦いの終わりを告げる軽やかな風が吹き抜ける。

そして、張り詰めた空気から解き放たれたように、その場に新たな言葉が生まれた。

……私の、……勝ちのようね!

息も絶え絶えに、それでも叫ぼうとするトライブの表情から、少しずつ笑みがこぼれてきた。

「クィーン・オブ・ソード」の一撃が、オルティスの野望を打ち砕いたのだ。


その真下で、バーニングブレードがその輝きを失い、オルティスの体からも赤いオーラが消えていく。

武器を失い、トライブを睨み付けながらも徐々に頭を垂れる、赤い髪の剣士は、やがてその場に跪いた。

あの力を止められるとは……、信じることなど私はできない……。
これが……、私の実力よ……!

するとトライブは、アルフェイオスをゆっくりと上げ、オルティスの頭上で止めた。

そして、オルティスに告げた。

たしかに、バーニングブレードを持ったあなたは、とても強かった。

けれど、今までのあなたを見て、あなたともう一度戦おうとは思わないわ。


オメガピースを邪悪な組織に仕立て上げ、物語の全てを恐怖に陥れる。

私は、あなたを絶対に許すことはできない。

殺すのか、トライブ。

一応、物語の人物だぞ。

オルティスがそう呟いた瞬間、ソフィアがゆっくりとオルティスに近づき、一度うなずいてから告げた。

オルティスは、私の物語を完全に壊した。

そんなオルティスを、登場人物として残すわけにはいかない。


トライブ、いいわよ。

分かった。

トライブは、高く上げたアルフェイオスを一気に振り下ろした。

全身にその一撃を刻まれた一人の剣士は、床に崩れ、そのまま動かなくなった。



その瞬間、ソフィアの目に涙が溜まっていたのを、トライブははっきりと見た。

ソフィア……?

ううん……。トライブ、気にしないで。

ちょっと、いろいろと泣きたくなってきたから。



物語、もう終わりで、いいよね……。

終わり……。

トライブは、ソフィアの一言で軽く息を飲み込んだ。

激しいバトルを繰り広げていて、すっかり忘れかけていたことを思い出したのだ。

オルティスが、こうやって物語から退場した今しか、私たちも物語を終わらせることができないと思う。


トライブがいいなら、終わりにする。

そうね……。


もう、目的もなくなったし、あとはオメガピースが元に戻るのを待つだけだから……、この世界に未練はない。

分かった。

ソフィアがそう言うと、少しずつ冷たくなったオルティスに手を伸ばし、ポケットから白く輝く小さな剣を取り出した。

リライト・ブレード。

これが、物語を終えるための力。

そうね。

私が死ななきゃ終わらない、という運命を変えるための、ただ一つの手段よね。

トライブ、分かってるじゃない!
その時、リライト・ブレードをトライブに渡そうとするソフィアの前に、召使いのアリスが立った。

あのー、シナリオマスター……。


私もこれで、お役御免ですか?

アリスも……、モノクロのほうしか残らない。
えーっ!?
突然、召使いのアリスがじたばたし始めるが、トライブの目がそれをそっと睨み付ける。

アリス。


物語には、始まりと終わりがあるの。

永遠に続く物語は、あっちゃいけないのよ。

はぁい……。


あっ、もしかして最後にやらかすかも知れませんね。

まさか、最後の最後に、またあれ……?

そうなります。


あれを見てください!

召使いのアリスが、廊下の奥を指差した。

ちょうど青い髪の青年が、まるで図ったかのようにトライブたちに向けてゆっくりと歩いているところだった。

アッシュ……、どこ行ってたのよ!

トライブがそう言った瞬間だった。

突然、トライブの視界から、アッシュの姿が消えた。

落ちた……!

アッシュが、廊下の真ん中に作った落とし穴に、まんまとはまったようだ。


それを見るなり、アリスがアッシュに向けて駆けていく。

手には、やはりあのボードを持っていた。

テッテレ~♪

アリス。


物語が終わって帰れるというのに、俺はこんな扱いか……?

だって、ドッキリの候補がいなかったんですもの。

あとのみんながこっち側にいたんで。

なんか、最後の最後まで、この世界のアリスは落とし穴キャラだったようね。

違いま~す!


私は、前にいた私のキャラを、そのまま演じきっただけで~す!

薄々気付いてたわ。

トライブは、アリスに向けて軽く笑うと、すぐに体の向きを変え、動かなくなったリオンの前に進み、中腰になって物言わぬ顔を見つめた。


ソフィアも、ほぼ同時に体の向きを変える。

リオン……。


この世界なら、最後二人でいられると思ったのに……。

たしかに……。


最初会ったときも、最後に……、残念なことになったから……、

えぇ……。


どうして私の目の前で死んでいくのを、二度も守れなかったのかって、自分で思いたくなる。

前向きなトライブでも、そう思いたくなるのね。

そうね……。


力を持つ者として、どうしても避けて通れないことだから。

そう言うと、トライブは軽くうなずいて、ソフィアから渡されたリライト・ブレードを、ゆっくりと目の高さにまで上げた。


白く輝くその剣の先に、トライブはほんのわずかに残った希望を見た。

ソフィアの物語から、元の世界に戻れる唯一の手段を、トライブは口にしようとしていた。

私の作ったトライブの物語が、終わるのね。
俺が作った物語も、本当にこれで終わるな。

トライブは、そのように口にした二人を軽く見て、再びリライト・ブレードを見つめた。



そして、何秒かの空白を挟んで、リライト・ブレードに告げた。

この物語のエンディング条件を、「トライブが負けて死ぬ」から「オルティスが負けて死ぬ」に変えなさい。

その、白く輝く力で。

トライブが、力強くそう言った瞬間、リライト・ブレードがこれまでにないほど強く輝き、やがてエクアニア城の廊下を眩しく照らした。

これが、リライト・ブレードの力……。

リライト・ブレードの光は、次々と広がっていった。

やがて、廊下から順番に静けさを取り戻した。

だがそれは、トライブの運命が変わった後だった。


トライブ、ソフィア、それにアッシュだけが、リライト・ブレードの光よりもさらに眩しい光に包み込まれた。

一度は静けさを取り戻したはずの視界から、再び物語の世界が消えていく。

さよなら……。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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