14 世界はソフィアの手の中にある
文字数 2,819文字
エクアニア城の尖塔には、いつできたか分からないボックスが置かれていた。
そのボックスからは緑色のオーラが溢れだしている。
どうやら、天空の城からの言葉にあった「オメガピースへの転送装置」とは、このことを言うようだ。
トライブはその前に立ち、軽く息を吸い込む。
そう言ったリオンは、珍しく微笑んでいた。
転送装置は一人しか入れない狭さで、さすがのリオンも強引に入ろうとはしないようだ。
トライブは、ゆっくりとボックスの中に足を踏み入れる。
その瞬間、緑色の光がトライブを包み込む。
その光は暖かく、体がスーッと溶けていくような感触だ。
尖塔、エクアニアの城下、そしてリオンの姿。
周りの景色が何もかも、暖かい光の中に消えていく。
そして、体がゆっくりと上昇していくように、トライブには思えた。
1分くらい経っただろうか。
トライブの頭上から声が響いてきた。
流れるような髪が、緑の光の奥から見えてきた。
それは明らかにソフィアのものだった。
だが、トライブにはその髪が茶髪ではなく、モノクロに見えたのだった。
トライブの目の前から、緑色の光が徐々に消えていく。
「オメガピース」の建物にはないはずの、厳かな雰囲気が、トライブの目に見える景色から漂ってくる。
気が付くと、トライブは絨毯を踏みしめていた。
赤を基調に、黄色の模様が描かれた絨毯だ。絨毯の間とも言うべきなのか。
そして、ほぼ同時に、目の錯覚かと思われたソフィアの髪の色も、本当にモノクロであることが分かった。
つまり、現れたソフィアは、探しているソフィアではなく、この世界に元々存在するモノクロのソフィアだったということだ。
トライブは、アルフェイオスを握りしめ、モノクロのソフィアを睨み付ける。
モノクロのソフィアは、ゆっくりとストリームエッジを引き抜き、一歩、また一歩とトライブに近づく。
普段から、事あるごとに勝負をしている二人だが、この時ばかりはまるで別次元の決闘でも始まるかのような雰囲気が、絨毯の間に溢れだしていた。
トライブは、絨毯の上をソフィアに向かって勢いよく迫り、剣と剣がぶつかるところでアルフェイオスを力強く振り下ろす。
だが、その一撃をソフィアは軽くかわし、アルフェイオスを追撃するような態勢で、上からストリームエッジを叩きつけた。
アルフェイオスの剣先が、激しい衝撃とともに絨毯すれすれまで落とされた。
ソフィアは、下に傾いたアルフェイオスからストリームエッジを離し、トライブの胸を目掛けて一気に振り下ろした。
だが、「クィーン・オブ・ソード」の異名を持つトライブに、焦りの色はなかった。
すぐにアルフェイオスを突き上げ、胸すれすれのところでストリームエッジの動きを止める。そして、キリキリと音を立て、ソフィアの攻撃を突き放した。
今度は、攻撃を突き放されたソフィアが、再びストリームエッジをアルフェイオスに激しく叩きつける。
トライブの手に強い衝撃が走るが、トライブはすぐに剣を打ち返す。
かなりのスピードで、小刻みに剣をぶつけ合うトライブとソフィア。
だが、徐々に「剣の女王」のパワーがソフィアの剣を押していく。
その時、ソフィアが苦し紛れの表情を見せ、その表情を解き放つかのように力を発した。
パワーを爆発させたソフィアに、トライブもパワーで応戦する。
お互いの手に、衝撃が伝わる中、トライブは一気に剣に力を入れた。
トライブの一撃とともに、ソフィアの手からストリームエッジが引き離され、赤い絨毯に落ちていった。
モノクロのソフィアが、絨毯に膝をつけてトライブに跪いた。
ソフィアは、地下に人差し指を向け、「この世界の」トライブの居場所を告げた。
トライブは、軽くうなずいた。
トライブは、淡々と話すソフィアの言葉に、思わず息を飲み込んだ。
時間が来たら、ということは明らかに新しいシナリオがあるということだ。
トライブ自身に関わる、新しいシナリオの存在。
それは、パラレルタブレットの暴走ではないということを裏付けた。
ソフィアがそう言うと、トライブの目の前に突然、先程見たような転送装置が現れ、すぐに緑色の光がトライブを包み込んだ。
トライブは何かを言おうとしたが、もはや声にならなかった。
「オメガピース」が、トライブの視界からゆっくりと消えていく。
それは、あたかも作り出された筋書きのように。