14 世界はソフィアの手の中にある

文字数 2,819文字

エクアニア城の尖塔には、いつできたか分からないボックスが置かれていた。

そのボックスからは緑色のオーラが溢れだしている。

どうやら、天空の城からの言葉にあった「オメガピースへの転送装置」とは、このことを言うようだ。


トライブはその前に立ち、軽く息を吸い込む。

リオン、私は必ずオメガピースに打ち勝つわ。
打ち勝つというか、オメガピースの黒幕に勝つってことだよね。

えぇ。


どこまで暴けるか分からないけど、できるところまではやってみる。

分かった。


トライブの力、信じてるよ。

そう言ったリオンは、珍しく微笑んでいた。

転送装置は一人しか入れない狭さで、さすがのリオンも強引に入ろうとはしないようだ。


トライブは、ゆっくりとボックスの中に足を踏み入れる。

その瞬間、緑色の光がトライブを包み込む。

その光は暖かく、体がスーッと溶けていくような感触だ。


尖塔、エクアニアの城下、そしてリオンの姿。

周りの景色が何もかも、暖かい光の中に消えていく。

そして、体がゆっくりと上昇していくように、トライブには思えた。



1分くらい経っただろうか。

トライブの頭上から声が響いてきた。

ようこそ、この世界のオメガピースへ。
ソフィア……?

流れるような髪が、緑の光の奥から見えてきた。

それは明らかにソフィアのものだった。


だが、トライブにはその髪が茶髪ではなく、モノクロに見えたのだった。

トライブ。

やっぱり、ここにやってきたようね。

トライブの目の前から、緑色の光が徐々に消えていく。


「オメガピース」の建物にはないはずの、厳かな雰囲気が、トライブの目に見える景色から漂ってくる。

気が付くと、トライブは絨毯を踏みしめていた。

赤を基調に、黄色の模様が描かれた絨毯だ。絨毯の間とも言うべきなのか。


そして、ほぼ同時に、目の錯覚かと思われたソフィアの髪の色も、本当にモノクロであることが分かった。

つまり、現れたソフィアは、探しているソフィアではなく、この世界に元々存在するモノクロのソフィアだったということだ。



トライブは、アルフェイオスを握りしめ、モノクロのソフィアを睨み付ける。

えぇ……。


ソフィア。

正義と平和を愛してきたはずのオメガピースが、どうしてこんなことになってしまったのよ。

オメガピースの力で、この世の中全てを私たちのものにする。

上がそう決めたの。

私たちだって、それに逆らうことはできない。

それ、オメガピースが黒幕に乗っ取られているだけじゃない。

目を覚ましなさいよ!ソフィア!

目は覚まさない。


むしろ、今の一言で私の闘争心に火が付いた。

モノクロのソフィアは、ゆっくりとストリームエッジを引き抜き、一歩、また一歩とトライブに近づく。


普段から、事あるごとに勝負をしている二人だが、この時ばかりはまるで別次元の決闘でも始まるかのような雰囲気が、絨毯の間に溢れだしていた。

トライブ。今の世界は私たちの手にある。


そして、その秩序を乱す者は、この剣で切り捨てなければならない。

バーニングブレードの名のもとに。

バーニングブレード……。またその言葉を聞いたわ。


分かった。

私が、オメガピースの挑戦、受けて立つ!

トライブは、剣を持つ手に力を入れ、右足を力強く踏み出した。
はっ!
野望のために鍛え上げた、私を甘く見ないで!

トライブは、絨毯の上をソフィアに向かって勢いよく迫り、剣と剣がぶつかるところでアルフェイオスを力強く振り下ろす。


だが、その一撃をソフィアは軽くかわし、アルフェイオスを追撃するような態勢で、上からストリームエッジを叩きつけた。

アルフェイオスの剣先が、激しい衝撃とともに絨毯すれすれまで落とされた。

……っ!
まだまだっ!

ソフィアは、下に傾いたアルフェイオスからストリームエッジを離し、トライブの胸を目掛けて一気に振り下ろした。


だが、「クィーン・オブ・ソード」の異名を持つトライブに、焦りの色はなかった。

すぐにアルフェイオスを突き上げ、胸すれすれのところでストリームエッジの動きを止める。そして、キリキリと音を立て、ソフィアの攻撃を突き放した。

なかなかやるじゃ……ないっ!

今度は、攻撃を突き放されたソフィアが、再びストリームエッジをアルフェイオスに激しく叩きつける。

トライブの手に強い衝撃が走るが、トライブはすぐに剣を打ち返す。


かなりのスピードで、小刻みに剣をぶつけ合うトライブとソフィア。

だが、徐々に「剣の女王」のパワーがソフィアの剣を押していく。



その時、ソフィアが苦し紛れの表情を見せ、その表情を解き放つかのように力を発した。

せいっ!
はああっ!

パワーを爆発させたソフィアに、トライブもパワーで応戦する。

お互いの手に、衝撃が伝わる中、トライブは一気に剣に力を入れた。

はあっ!
……っ!

トライブの一撃とともに、ソフィアの手からストリームエッジが引き離され、赤い絨毯に落ちていった。

モノクロのソフィアが、絨毯に膝をつけてトライブに跪いた。

私の負けね……。

トライブ、やっぱりモノクロ姿でも、強すぎるわ……。

えぇ。剣を持てば、私は誰よりも本気になれるのよ。


ソフィアからは、やっぱりモノクロに見えるのね。

モノクロに見える。

ソフィア。


別に会うつもりはないけど、この世界の私はどうしているのよ。

今のあなたと同じよ。

誤った正義感を盾に、私たちの野望を邪魔しようとしているわ。

まだ行動は起こしていないみたいだけど、剣士たちの一部でその機会を探っている。

ソフィアは、地下に人差し指を向け、「この世界の」トライブの居場所を告げた。

トライブは、軽くうなずいた。

分かった。


あと、もう一つ聞いていい?

答えられる範囲なら。
オメガピースを裏で操っているのは、誰なのよ。
誰と言われても、私にはうっすらとしか分からない。
そのうっすらというのでもいいから、教えてちょうだい。

黒幕はアッシュと聞いているわ。ただ、それだけじゃないとだけ言っておくわ。

なるほどね……。


できれば、そのアッシュと会わせてほしいわ。

いくらトライブの願いでも、それはできない。

ちゃんと、時間が来たらトライブの前に姿を現すんじゃない?

トライブは、淡々と話すソフィアの言葉に、思わず息を飲み込んだ。

時間が来たら、ということは明らかに新しいシナリオがあるということだ。


トライブ自身に関わる、新しいシナリオの存在。

それは、パラレルタブレットの暴走ではないということを裏付けた。

いったい、誰がこのシナリオにさせたのよ……。

トライブ。それは簡単な話よ。


世界は、私の手の中にあるのだから。

どういうことよ……。

それも、じきに分かることだと思う。


トライブ。

ここではシナリオは動かないわ。

今は、この場所から立ち去った方がいい。

ソフィアがそう言うと、トライブの目の前に突然、先程見たような転送装置が現れ、すぐに緑色の光がトライブを包み込んだ。


トライブは何かを言おうとしたが、もはや声にならなかった。

「オメガピース」が、トライブの視界からゆっくりと消えていく。



それは、あたかも作り出された筋書きのように。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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