20 剣士アッシュの実力
文字数 2,635文字
アッシュの足が猛烈な勢いでトライブに迫る。そして、低い声とともに、その手に持つ剣をトライブのアルフェイオス目掛けて鋭く振り下ろす。
トライブもアッシュに向けて駆けながら、振り下ろされる相手の剣に向け、アルフェイオスを振り上げた。
二人の肩の上で鳴り響く、力の共鳴。
トライブは、やや押されたところでアッシュの剣を力ずくで止めた。
アッシュの剣が命中したところは、柄に近い、最もパワーが伝わる部分だ。
トライブですら、そこまで柄に近いところで攻撃するのは稀だった。
トライブは確信した。
アッシュが、既に相当の剣の実力を持っていると。
女王の目が、より鋭くなる。
トライブは、アッシュの剣を弾き返し、今度はその上から叩きつけた。
そして、剣のぶつかり合う場所を正面に戻す。
だが、トライブの目にモノクロのアッシュが軽く笑うのが飛び込んできた。
正面からアルフェイオスを叩きつけたトライブに、アッシュの剣がほぼ同じパワーでガードする。
普段から相手の動きを読むことに長けているアッシュは、ここでも柄に近いところで攻撃を繰り返していく。
トライブの手にかかる衝撃が、最初は小さくても一気に膨らんでいく。
トライブは、その都度攻撃を跳ね返し、次々と反撃を重ねていくが、なかなかアッシュの力が緩まない。徐々にスピードを上げていくが、アッシュもそれに難なくついていく。
トライブは、交錯した状態から一気に後ろに下がり、やや助走をつけながらアルフェイオスを右上から左下に振り下ろす作戦に出た。
真の黒幕に洗脳されるまで剣士ではなかったはずの相手に、「クィーン・オブ・ソード」が負けるわけにはいかない。
トライブは、アルフェイオスを持つ手にパワーを集めた。
トライブのパワーを爆発させた一撃で、アッシュの剣が一気に下に傾く。
だが、アッシュはそこでも柄に近いところで攻撃を受け、下に傾けた状態で力を拮抗させた。
トライブの手に溢れたパワーが少しずつ弱くなるとともに、今度はじりじりとアッシュの剣がその勢いを盛り返していく。
アッシュが剣を持つ力を一気に高め、アルフェイオスを弾き返す。
そして、剣を正面に向けた状態に戻されたトライブに、アッシュの次の一撃が降りかかろうとしていた。
その時、場の真剣な空気に割って入るように、何者かが息を飲み込む声が包み込んだ。
モノクロのアッシュは、そう言いながら、アリスから差し出された色紙にサインをした。
その時、再び緑色のオーラが輝きを放ち、モノクロのアッシュの前に転送装置が現れた。
転送装置の中に入るモノクロのアッシュの後を追って、トライブ、そしてリオンは転送装置に飛び込もうと駆ける。
距離が短かったぶん、リオンの足がやや先に転送装置に滑り込んだ。
トライブは体ごと転送装置に入ろうとしたが、オーラが体に触れた瞬間に見えない壁を感じ、弾かれてしまった。
その目の前で、無情にも消えていく転送装置、そしてリオン。
緑色の光が小さくなり、その場には何事もなかったかのようにトライブが取り残された。
アリスは、そう言って軽く笑った。
その時、アッシュがトライブの前に立ち、路地裏に来るように手招きをしているのが、トライブの目に飛び込んできた。
アッシュは、じっとトライブを見つめ、一呼吸置く間を開けた。
そして、告げた。
俺も、オメガピースの城でオルティスから聞いただけだ。
シナリオマスターが、本当にその条件をチップに入れたかは分からない。
ただ、それが本当であれば、俺はともかく、お前はこの物語で相当まずい立場に立たされる。
死なない限り、何事もなかったかのように、元通りにパラレルタブレットの世界から抜け出すことができる。
逆に、この平行世界で死ねば、死んだ状態で元の世界に戻される。
それを知ったトライブは、右手にギュッと力を入れた。
トライブは、力強くそう言った。