09 ソフィアをさがしに

文字数 2,567文字

エクアニア城兵屈指の実力を持つ女剣士ソフィアの失踪で、城下がざわついている中、アリスが何かをひらめいたような表情を浮かべて、トライブに言った。

もし、ソードマスターの言っていた嫌な予感を確かめたいのなら、2階の217号室に行きましょう!

217号室?


もしかして、さっきアリスがとんでもない茶番をやっていた部屋のこと?

茶番と言わずに、ドッキリと言って下さいよー!


話を戻します。

おそらくエクアニア王は、その217号室でオルティスに捕らわれ、尖塔でやられちゃったんですよ。そうなると、217号室にオルティスが来たということになるんです。

でも、それでオルティスがソフィアにまで手を出した、ということにならないよね……。

たしかに、王子の言う通り、ソフィアさんには直接結びつかないかも知れません。

でも、私たちが城で王の行方を捜していたときには、オルティスがいるような感じがしなかったのだから、オルティスが私たちと入れ替えに城に入ってきて、尖塔に向かう途中でエクアニア王とソフィアさんを……、ということになると思うのです。

アリスは、そこまで言い切ると、ふぅとため息をついた。アリスは、トライブとリオンの出方をうかがっているようだ。

たしかに、尖塔で事件が起きるまでの時間を考えると、アリスが言ったその線もないとは言えないのよね……。


でも、アリス。これには無理があるわ。

無理……ですか?

ソフィアは、私と戦ったときも、あくまで門を守る剣士という位置づけだったのよ。

あれだけエクアニアの危機とか言って、城下への入口を堅くしたのだから、ソフィアは私に負けた後も、あの場所にいると思う。

つまり、城下への門にいる、ということになるのか……。

そういうこと。


そして、オルティスが門を破って城まで入ってきたのだから、ソフィアはその場所でオルティスと戦って、負けてオルティスを通すことになった。

オルティスが入ってきたのに城下が騒がなかったのは、オルティスが城下の人たちを口封じしたから……、と考えるとちょうど合うのかも知れない。

そうじゃないと、騒ぎ立てるだろうからね。


……って、アリス!勝手に王室を出たらいけないよ!

とりあえず、私の説を確かめに行ってきまーす!

王室のドアが開き、また閉じた。


ソフィアがオルティスによって殺された。

大っぴらに言葉にしたくもなかったはずの可能性が、アリスとのやりとりの中で少しずつ現れてしまったことに、トライブはため息をつかなければならなかった。

私の説のほうが、どこにも矛盾はないと思う。

アリスはきっと無駄足になると分かったから、王が残したシフォンケーキを食べに行っただけだと思う。

そうかなぁ……。

リオンは、なんかまた別の考えを持ってそうね……。
別の考えというか……、俺、オルティスが城にやってきて、王の命を奪ったということを知らないんだよね……。

王が殺されたのは、ほんの何時間か前のことよ。

それに、リオンは私が尖塔の上で王の亡骸を見ているときに、ちょうど尖塔を駆け上がってきたじゃない。

それも、トライブに言われて初めて知ったよ……。

トライブは、リオンの言葉にほんのわずかだけ首をかしげた。


王が殺されたことによって、トライブが新たな女王になったところまでは知っているが、それ以前に「この世界で」何があったのかを、リオンは何も知らない。


リオンの落ち着いた表情が、トライブには逆に奇妙としか思えなかった。

とにかく、この数時間の間で、いろいろおかしいことが起こりすぎている。

それの説明がつくまで、もう少し時間がかかりそうね……。

その時、アリスと思われる走り方で廊下を駆けてくる足音が、二人の耳に入った。

王室のドアが勢いよく開いた。

ソードマスター!

たい!へん!ですっ!

アリス、今度は何が起こったのよ……。
217号室に入ろうとしたら、他の兵士が使っていて、元々その人の部屋だから出てけ、と言われました。
アリスがあの部屋で仕掛けたドッキリが終わったから、もともといた兵士が戻ってきたんでしょ。

そうじゃないんです。

もともと、あの部屋は空き部屋だから、私が王にドッキリを仕掛けられたんです。

あの部屋が他の兵士の部屋だったら、王は許してくれなかったと思うし、ソードマスターも怒ると思うんです。

つまり、アリスはあの部屋に行って、何も食べられずに帰ってきたわけだ。

はい……。


でも、ただではいかないのが私です。

そう言うと、アリスは握りしめていた左手をゆっくりと広げ、トライブに見せた。

そこには、プラチナのネックレスのかけらがあった。


トライブは、それを数秒見て思わず息を飲み込んだ。

これ、ソフィアがよくプライベートで使っているネックレスよ。

ちょうど首に合う長さで、一つ一つのパーツもこういう感じで作られている。


きっと、ソフィアは私を追いかけたときにネックレスが切れて、誰にも言わずにプラチナの原石を探しに行ったと思うの。

洞窟の中にはモンスターが潜んでいることもあり、武器や防具、それにアクセサリー類を鍛冶屋が作ろうとしても、その材料を取るのはあまりにも困難な冒険になるケースが多かった。

剣士をはじめとした冒険者が材料を取ってきて、初めて鍛冶屋がアイテムを作れるようになるのだ。


そのため、大量に材料が手に入った場合を除いて、鍛冶屋は専らその冒険者のためにアイテムを作ることになる。つまり、冒険者の使うネックレスが切れて、また新しいネックレスを作ってもらう場合には、自らが新たに材料を手に入れないといけなくなる。

トライブ。

とりあえず、原石を探しに行く前に、一度城下の鍛冶屋を当たった方がいいと思う。

本当にソフィアが、新しいネックレスを求めに来たのかを。

ソフィアは、性格的にそんなことをしないと思う。

じゃあ、これからソードマスターは洞窟に行ってくるのですか?

勿論よ。

やっぱり、ソフィアは私が見つけに行かなきゃいけないと思うの。


今は、それ以外に国にそこまで危機は起こってないし、ソフィアを見つけに行くほうがいいと思う。

トライブ、俺も行くよ。
女王に何かあったらいけないし。
じゃあ、私と二人ね。
久しぶりのエクアニアの洞窟、私も楽しみだわ。

アリスは、お留守番。
まぁ、しょうがないですね。
トライブは、リオンを連れて王室のドアを開いた。
輝くアルフェイオスが、トライブの旅立ちを祝福していた。
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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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