38 CONTINUE?

文字数 2,629文字

なら、変えてみせようじゃない。

死ぬ、という私の運命を!

「灰の神」アッシュ・デストラに敗れ、尖塔から落とされたトライブの脳裏に、次々と言葉が浮かんでは消えていく。


重力に従うしかない、意思の通じることのない、ほんのわずかな時間。

このわずかな時間が終われば、敗れた女剣士に待っているのは、死か、それに匹敵するほどの致命的なダメージ。


そして、シナリオマスターの言うことが確かなら、「この物語」はそこで終焉を迎え、アッシュとソフィアだけは元の世界に戻れる。

そして、その目論見通りに「灰の神」に敗れたトライブは……。

ここで……、ここで終わりたくない……。


たとえ……、物語がそうであったとしても……、こんな終わり方は誰も望んでいない……!

エクアニアの国の女王となり、迫り来る「オメガピース」の脅威から国を守り通すことが、この物語の最大の使命だった。


その実力を誰もが認める「剣の女王」が、「オメガピース」から送られる様々な刺客を打ち倒す。

そう、誰もが信じていた。

女王が敗れることなど、誰一人として信じていない……はずだった。



だが、物語のエンディングと、現実は、「灰の神」の前に散る道しかトライブには待っていなかった。

嫌よ……、嫌よ……っ!

トライブは、声に出すことなく、脳裏で必死になって叫び続けた。

間もなく訪れる運命は分かっていたとしても、その終わり方を誰よりも認めたくなかった。



まだ戦いたい。

「灰の神」に、次こそ勝ちたい……。



そう思ったトライブの脳裏に、物語の序盤で告げられた一言が、突然ひらめいた。

パラレルタブレットで再現される物語は、残念だが完璧ではない。

シナリオマスターの俺が作ったシナリオが、登場人物の強い気持ちでねじ曲げられることだってある。

強い気持ち。強い想い。


間もなく地面に叩きつけられるトライブは、自らの強い意思に賭けるしかなかった。


死んで終わるか、死なずに再び立ち上がるか――

トライブ!

リオンと二人のアリスは、尖塔で繰り広げられる「灰の神」とのバトルを、窓から身を乗り出して見ていた。


トライブがパワーを次々と押さえつけられ、アッシュ・デストラの動きに翻弄されていくのを、固唾を呑みながら見つめるしかなかった。


トライブに力が残っている限り、力を一気に爆発させることができる。そのタイミングを待ち続けた。


しかし、女王の本気すら「灰の神」には通用しなかった。

マントを掴まれ、尖塔から投げ出された瞬間、リオンの目から涙すら飛び散った。

あぁ……、これで……、終わりか……。

女王トライブの、短く儚い物語も……!

そんなこと、ないです……。

トライブが宙に舞った瞬間、ガックリと肩を落としたリオンの耳に、モノクロのアリスがそっと語りかけた。

リオンは、声のする方に力なく振り向く。

どうして、そんなこと言えるんだよ……。

トライブは……、トライブはいつか死ぬ運命だったんじゃ……、ないのかよ……。

運命は運命です。


でも、みんなが信じている「クィーン・オブ・ソード」の最期は、きっとこんなはずじゃないです。


何かを達成したところで力尽きて……、最後は女王らしく死んでいく……。

それが、みんなの希望かも知れません。

たしかに……。


それだけは間違っていないと思うよ。


運命に従うなんて、思えば最後の手段なのかも知れないな……。

信じてあげましょう。

再び立ち上がる、ソードマスターの姿を。

トライブの体が地面に叩きつけられたのは、その時だった。
行こう!物語が終わるか終わらないかを確かめるために!

リオンと二人のアリスは、やや早足で城を出て、トライブが落ちたと思われる場所を探す。


リオンの目には、城下町から城へと続く坂道の真ん中に落ちたように思えた。

三人は、まずその場所に向かうことにした。

トライブ!

リオンは、トライブと思われる金髪を見た瞬間、突然走り出した。


いた。たしかにいた。

地面ではなく、何か台座のような物の上に直撃し、そのままうつ伏せで倒れているようだった。

しっかりしろ、トライブ!

いくら運命とは言え、やっぱりこんな終わり方は変だよ……。

リオンは、物言わぬトライブの体を軽く揺らした。

その時、リオンはあることに気が付いた。

あれ……、これって空気でも入ってるのか?

リオンは、思わず首をかしげる。


その時だった。

召使いのアリスが、何かを思い出したようにリオンに歩み寄った。

これ……、トランポリンです。


椅子のアトラクションで失敗したとき用に、小さいサイズのトランポリンを、城の周りにいくつか置いていたんです。

ぐ……、偶然じゃん。

偶然と言っちゃえばそこまでですけど……、みんなのソードマスターを思う気持ちが、この上に導いたんです。


気持ちが……、動かしたんです……。

アリスの言う通りかも知れない。


トライブは、たぶん死んでない……。生きてるんだ!

リオンはそこまで言うと、トライブの体を激しく揺らした。

その目をじっと見つめた。

祈るような気持ちで。

お願いだ!生きててくれ……!

リオンは、トライブが動き出すのを待った。


かすかな呼吸が、リオンの耳に聞こえる。

リオンは、その表情を少しずつ和らげようとするが、それでもトライブをじっと見ていた。



そして、女王の目が――

ここは……。

生きてた……。


生きてたぞ……!

ソードマスター!

召使いのアリス、それにモノクロのアリスもすぐにトライブに向かって走り出した。

体を起こすことはできないが、トライブは目を何度か瞬きさせながら、三人の表情を見つめた。

私は……、生きてる……。


私でも、死ぬって思ってたのに……、みんなの強い想いが運命を変えたのね……。

その通りです。


誰も、あんな終わり方なんて、考えてもいないですから。

そう言ってくれると、助かる……。


また全身に痛みが残るから、この上でしばらく休みたいわ……。

いいよ。


トライブのことだから、もう次に戦わなきゃいけない相手も、分かってるはずだから。

勿論よ。

三人は、トライブを載せた小型トランポリンをそっと持ち上げ、城の横でトライブを休ませた。

尖塔からも見えない、一日の大半が影で覆われるところだった。



そして、トライブを置いたリオンたちは、再び城へと戻ろうとした。

だが、城の入口でリオンは呼び止められる。

この城と「エクアニア173」は、我がオメガピースのものとなった。

お前たちは、城を去るがよい!

王子であるはずのリオンに向かって、何人もの兵士が目を細めていた。

先の鋭い槍を幾重にも向けられたリオンは、一歩、また一歩と後ずさりするしかなかった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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