06 物語が終わらない!?
文字数 2,803文字
トライブの目に映ったのは、エクアニア王の無残な姿だった。
オルティスの刀で首を斬られたようで、もはや呼吸すらしていない。
やや遅れて入ってきたアリスも、尖塔の上で横たわった王を見るだけで、膝をガクガク震わせながら、王の亡骸をじっと見つめるだけだった。
アリスは、魔術に関しては初心者だったが、呼吸さえしていればほんのわずかでも治癒する力がある。
だが、息の根が絶えた者を蘇らせることは、どんな高度な魔術でも不可能だった。
オルティスから国を守ることはできた。
だが、国を司る王は、戦いの前にオルティスの手によって、その存在を絶やされてしまった。
フラグ――。
アリスが「オメガピース」兵士棟で夜更かししてアニメを見ている時、よくこの言葉を使う。
トライブも、アリスの口から何度この言葉を聞かされたか分からない。
そしていま、アリスから漂う空気がまさに「フラグ」感であるように、トライブには思えた。
トライブ・ランスロット様!
世界を救えるのは、あなたしかいません!
どうか、「クィーン・オブ・ソード」として、エクアニアの女王になって頂けませんか?
トライブは、ほんのわずかな可能性に賭けていた。
「トライブは女王になりました、めでたしめでたし」で物語が終わるということを。
トライブは、まだエクアニア城下町のどこかにいると思われるアッシュを、尖塔の上から探した。
すると、アリスが尖塔に続く階段を、突然指差した。
程なくして、アッシュが尖塔に姿を現した。
だが、普段落ち着いた表情で歩いてくるアッシュが、この時ばかりはどこか困惑したような顔色になっていた。
アッシュがそう言いかけた途端、アッシュの後を追うように、一人の兵士がゆっくりと尖塔に入っていこうとした。
だが、王の亡骸を見つけて元々騒然となっていた尖塔に、もはや入るスペースはなかった。
トライブは、アッシュとアリス、それに数人の兵士を連れて階段の中に入った。
すると、階段を軽々と上がってくる音がトライブの耳に響いてきた。
トライブの心の中で、嫌な予感は確信に変わった。
ここで新キャラが登場してしまうと、物語は続くしかない。
すると、トライブのところに先程の兵士が近づいてきた。
紹介が遅れましたが、リオン・フォクサー王子は、女王に匹敵する凄腕の剣士です。
必ず、女王の力として国を守ってくれることでしょう。
トライブはそう言うと、アリスとアッシュを手招きして、階段を急いで駆け下りた。
そして、尖塔の下まで降りてくると、アッシュの目をじっと見ながら言った。
故障ではないだろうな。
俺が物語を終わらせようとした後に、エクアニア女王という設定が出てきているし、何よりもリオンが出てきているからな。
故障だとしたら、俺が考えた以上に物語が進むわけがなく、元の世界にあるパラレルタブレットが修復されるまで、俺たちは何も新しい展開がなく、平行世界で普通に暮らすことになる。
エクアニアを救うという物語は、終わりそうで終わらなかった。
そして、トライブとアッシュは、理由も分からないまま平行世界に閉じ込められてしまった。
これから始まるのは、物語の続きなのか。
それとも、新たな物語なのか。
トライブは、エクアニアの女王として、現状を切り開くしかなかった。