48 賭けに出たオルティス
文字数 2,846文字
トライブの足が、一足先に祭壇の間を蹴る。
アルフェイオスの剣先をやや右に向け、刀を構えるオルティスに向け、一気に剣を振る作戦に出た。
だが、オルティスはかすかに笑い、足を動かすことなく刀だけを構えていた。
トライブは、やや力を入れてアルフェイオスを振るが、オルティスが体の向きをすぐに変え、真っ正面から止められる。
わずかながらトライブが押したものの、すぐにオルティスが刀を強く押し出すと、トライブの持つアルフェイオスがじりじりと手前に戻されていった。
そして、トライブの手がオルティスの力を感じなくなった瞬間、オルティスの刀がアルフェイオスの真上から振り下ろされる。
トライブは、オルティスの攻撃に臆することなく、アルフェイオスを振り上げる。
剣と刀が激しい音を立てて、トライブの肩の高さでぶつかり、力が拮抗する。
そして、すぐにトライブはアルフェイオスを軽く引いて、オルティスの刀目掛けて再度下から叩きつけた。
オルティスが、押しやられた刀の向きをすぐに戻し、さらに下から叩きつけようとしたトライブに強く振り下ろした。
これまでとは比べものにならないほどのパワーが、トライブの右手を襲う。
上を向いていたアルフェイオスの剣先は、オルティスの力のままに斜め下に傾けられてしまった。
トライブは、剣の向きを戻しかけるが、容赦なくオルティスの次の攻撃が降りかかる。
トライブは、迫る刀を追いながら、アルフェイオスを強く振り上げた。
かなりの力で振り下ろされたオルティスの刀を、トライブは何とか食い止める。
トライブの右腕がかすかに振動を見せ、そこから一気に力があふれ出す。
「剣の女王」は、本気のパワーを今まさにその右手に集めていた。
一撃を食い止められたオルティスが、ほんのわずかに力を緩めたのを、トライブの手は見逃さなかった。
右手に滾るパワーを踏み台に、トライブはアルフェイオスを、オルティスの刀に向けて一気に叩きつける。
女王の見せたパワーに、オルティスの刀は一気に顔の前まで押しやられた。
再び刀を元に戻そうとするオルティス。
それでも、トライブはオルティスの動きを止めるかのように、今度は真横からアルフェイオスを叩きつけ、オルティスの刀を横になぎ倒した。
トライブの目に映るオルティスは、もはやボロボロだった。
最後の一撃を放つタイミングは、今しかない。
トライブは、剣を持つ右手に、さらに力を入れた。
だが、よろけかけたオルティスが、何かに気付いたように、視線をトライブから反らした。
視線の先にいたのは――リオンだった。
オルティスが、物陰に隠れて戦闘を見ていたリオンに、気が狂ったように飛びかかる。
ライトニングセイバーを手にしてはいたものの、全く準備ができていないリオンは、オルティスの右手に首筋を掴まれ、さらに首の前に刀の先を突き出した。
一気にとどめを刺そうと力を入れていた「剣の女王」の表情が、突然曇った。
一歩でも動けば、リオンが攻撃されてしまう。
トライブは、アルフェイオスをオルティスに向けたまま、一歩も動くことができなくなってしまった。
体スレスレまで刻まれたポケットの中から白い光が溢れだし、その輝きとともにリライト・ブレードの欠片が祭壇の間の床に落ちていった。
そして、瞬く間にオルティスが拾い上げた。
トライブは、アルフェイオスを正面に突き出したまま、動くことができなかった。
最後の一撃に出ようとしても、手の届く場所で起きてしまった悪夢を前に、足が動かない。
そう言いながら、オルティスは拾い上げたリライト・ブレードの欠片に、モノクロのトライブから奪い取った残り半分を、トライブに見えるように重ね合わせる。
二つの白い光は、一本の剣になった瞬間、さらに強く輝き、祭壇の間を目映く照らした。
再び一本の姿に戻った目映い剣を前にしては、これまで数多くの強敵を倒し続けてきた「クィーン・オブ・ソード」でさえも無力だった。
歯を食いしばるだけで、何も動けないトライブに向かって、オルティスは半分笑いながら言った。
その場にいる全ての人間が、その視線をリライト・ブレードに注いだ。
その白い光が一層激しくなった瞬間、トライブはその場で立ち竦み、リオンはその場で頭を抱え、ソフィアはかすかに目を開け、そしてオルティスはただ笑うだけだった。
女王のパワーは、オルティスの策略を止めることができなかった。
その光が、女剣士トライブの終わりの時を告げる。
その瞬間を、待つしかなかった。
だが、そのまま1分が経ったとき、オルティスの舌打ちがその場の雰囲気を再び動かした。
オルティスは、リライト・ブレードを何度も上下させてみた。
それでも、それ以上光が強くなることはなかった。
すぐに、オルティスの表情が険しくなる。
その様子を、トライブは見つめ、再び剣を強く握りしめた。
トライブの足が、ついに前に出た。
しかし、次の瞬間、オルティスが高くジャンプし、先程ソフィアに傷をつけた場所に移ったのだ。
そして、そこには予め逃げ道として用意していたしか思えないような、転送装置があった。
トライブの呼びかけも空しく、オルティスは緑色の光の中に吸い込まれていった。
後には、戦いが始まる前に漂っていた静けさだけが残された。