48 賭けに出たオルティス

文字数 2,846文字

はっ!

トライブの足が、一足先に祭壇の間を蹴る。

アルフェイオスの剣先をやや右に向け、刀を構えるオルティスに向け、一気に剣を振る作戦に出た。


だが、オルティスはかすかに笑い、足を動かすことなく刀だけを構えていた。

はああっ!
そうきたか……っ!

トライブは、やや力を入れてアルフェイオスを振るが、オルティスが体の向きをすぐに変え、真っ正面から止められる。

わずかながらトライブが押したものの、すぐにオルティスが刀を強く押し出すと、トライブの持つアルフェイオスがじりじりと手前に戻されていった。


そして、トライブの手がオルティスの力を感じなくなった瞬間、オルティスの刀がアルフェイオスの真上から振り下ろされる。

……上から来る!

トライブは、オルティスの攻撃に臆することなく、アルフェイオスを振り上げる。

剣と刀が激しい音を立てて、トライブの肩の高さでぶつかり、力が拮抗する。


そして、すぐにトライブはアルフェイオスを軽く引いて、オルティスの刀目掛けて再度下から叩きつけた。

なかなかやるな……。


だが!

オルティスが、押しやられた刀の向きをすぐに戻し、さらに下から叩きつけようとしたトライブに強く振り下ろした。

……っ!

これまでとは比べものにならないほどのパワーが、トライブの右手を襲う。

上を向いていたアルフェイオスの剣先は、オルティスの力のままに斜め下に傾けられてしまった。


トライブは、剣の向きを戻しかけるが、容赦なくオルティスの次の攻撃が降りかかる。

動きが速い……っ!

トライブは、迫る刀を追いながら、アルフェイオスを強く振り上げた。

かなりの力で振り下ろされたオルティスの刀を、トライブは何とか食い止める。


トライブの右腕がかすかに振動を見せ、そこから一気に力があふれ出す。

「剣の女王」は、本気のパワーを今まさにその右手に集めていた。

はあああっ!

一撃を食い止められたオルティスが、ほんのわずかに力を緩めたのを、トライブの手は見逃さなかった。


右手に滾るパワーを踏み台に、トライブはアルフェイオスを、オルティスの刀に向けて一気に叩きつける。

女王の見せたパワーに、オルティスの刀は一気に顔の前まで押しやられた。

やるな……!

再び刀を元に戻そうとするオルティス。

それでも、トライブはオルティスの動きを止めるかのように、今度は真横からアルフェイオスを叩きつけ、オルティスの刀を横になぎ倒した。


トライブの目に映るオルティスは、もはやボロボロだった。

最後の一撃を放つタイミングは、今しかない。

トライブは、剣を持つ右手に、さらに力を入れた。



だが、よろけかけたオルティスが、何かに気付いたように、視線をトライブから反らした。

視線の先にいたのは――リオンだった。

……っ!
リオン、覚悟っ!

オルティスが、物陰に隠れて戦闘を見ていたリオンに、気が狂ったように飛びかかる。

ライトニングセイバーを手にしてはいたものの、全く準備ができていないリオンは、オルティスの右手に首筋を掴まれ、さらに首の前に刀の先を突き出した。

リオンに何するのよ!

お前が動かなければ、殺すつもりはない。

アイテムを奪うまでだ。

まさか……!

一気にとどめを刺そうと力を入れていた「剣の女王」の表情が、突然曇った。

一歩でも動けば、リオンが攻撃されてしまう。


トライブは、アルフェイオスをオルティスに向けたまま、一歩も動くことができなくなってしまった。

や……、やめろ……!

リオン。


お前が、私の野望に重要なアイテムを持っていることくらい、最初から分かっていた。

さぁ、私に渡せ。リライト・ブレードの欠片を……!

オルティスが、そのアイテムの名を口にした瞬間、その場に横たわるソフィアが、苦し紛れに叫ぶ。

リ……オン……!


取られたら……終わりよ……!

分かった……。


オルティス!

俺は、お前に運命を変えられたくなんかない!

ほう……。抵抗する気か。


なら……。

リオンの首すれすれのところに突き出していた刀を、オルティスが軽く引いたかと思うと、間を置かずにその刀をリオンのポケット目掛けて振り下ろした。
私には、その光が見える!
……っ!

体スレスレまで刻まれたポケットの中から白い光が溢れだし、その輝きとともにリライト・ブレードの欠片が祭壇の間の床に落ちていった。

そして、瞬く間にオルティスが拾い上げた。

取られた……っ!

トライブは、アルフェイオスを正面に突き出したまま、動くことができなかった。

最後の一撃に出ようとしても、手の届く場所で起きてしまった悪夢を前に、足が動かない。

さすがのお前も、こうなってしまった以上、どうすることもできないようだな。


おとなしく死を待っているだけか?

そんなことなんて……、ないわよ……!


オルティス……、卑怯すぎるわ!

卑怯……?


これも、実力の差と思考力の差だ。

そう言いながら、オルティスは拾い上げたリライト・ブレードの欠片に、モノクロのトライブから奪い取った残り半分を、トライブに見えるように重ね合わせる。


二つの白い光は、一本の剣になった瞬間、さらに強く輝き、祭壇の間を目映く照らした。

終わりだ、トライブ・ランスロット……。


今、私がこのシナリオを書き換える……!

……っ。

再び一本の姿に戻った目映い剣を前にしては、これまで数多くの強敵を倒し続けてきた「クィーン・オブ・ソード」でさえも無力だった。


歯を食いしばるだけで、何も動けないトライブに向かって、オルティスは半分笑いながら言った。

聖なるリライト・ブレードの光よ、トライブをこの物語から抹殺し、我がオメガピースに希望をもたらせ!
終わった……。

その場にいる全ての人間が、その視線をリライト・ブレードに注いだ。


その白い光が一層激しくなった瞬間、トライブはその場で立ち竦み、リオンはその場で頭を抱え、ソフィアはかすかに目を開け、そしてオルティスはただ笑うだけだった。



女王のパワーは、オルティスの策略を止めることができなかった。

その光が、女剣士トライブの終わりの時を告げる。

その瞬間を、待つしかなかった。



だが、そのまま1分が経ったとき、オルティスの舌打ちがその場の雰囲気を再び動かした。

効かない……。

どういうことだ……。

オルティスは、リライト・ブレードを何度も上下させてみた。

それでも、それ以上光が強くなることはなかった。


すぐに、オルティスの表情が険しくなる。

その様子を、トライブは見つめ、再び剣を強く握りしめた。

何も起きなかったようね。


今度こそ、とどめを刺すわ!

トライブの足が、ついに前に出た。


しかし、次の瞬間、オルティスが高くジャンプし、先程ソフィアに傷をつけた場所に移ったのだ。

そして、そこには予め逃げ道として用意していたしか思えないような、転送装置があった。

リライト・ブレードだけでは、お前を消し去ることができないようだな。


だが、私にはさらに強い武器がある。今度はそれで、お前を本当に消し去るまでだ。

待ちなさい!

トライブの呼びかけも空しく、オルティスは緑色の光の中に吸い込まれていった。

後には、戦いが始まる前に漂っていた静けさだけが残された。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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