11 オメガピース 乗っ取られる
文字数 2,739文字
世界を救って欲しい。
トライブにとっては、「オメガピース」最強の剣士として、その依頼は何度も受けている。
だが、そのうちの半数は、トライブにとって全く敵にならないような相手が黒幕で、時として世界を救うという言葉の重さだけが一人歩きすることもある。
トライブは、モノクロのアリスの次の言葉を待った。
リオンの一言で、嫌な予感がトライブを襲う。
トライブは顔の向きをアリスのほうに戻し、一度うなずく。
そこらへんは、ちょっと分からないです。
まず乗っ取られたのは銃のセクションで、私は真っ先に戦力外と言われて、オメガピースから追い出されてしまいました。
きっとライフルマスターは、今頃戦力としてやつらの下についていると思います。
それが、そうじゃないんです。
私が、部屋の中で一人でお菓子を食べているとき、上の部屋から変な声が聞こえてきたんです。
二人ぐらい、ライフルマスターの部屋に入ってきて……、世界を変えないかとか言ってきて、すぐにライフルマスターが返事をして……。
で、数分後に部屋にライフルマスターがやって来て、私をオメガピースから追い出したんです。
間違いなく、グルです。
ただ……、せめて本当の黒幕が誰かだけ、ライフルマスターから教えて欲しかったです。
誰が、オメガピースを乗っ取ったのか……。
誰が、冷静なライフルマスターをそこまで変えてしまったのかと……。
トライブは、ようやく全てを理解して、うなずいた。
オメガピースから追い出された以上、アリスがその内部にいるはずのトライブに声を掛けられず、エクアニアにもう一人のトライブがいると知り、ここまでやってきたということになる。
はい……。
城の中にソードマスターがいると聞いて、城に入ったんですが……、遠くにもう一人のアリスを見つけて、ヤバいと思って逃げたんです。
前にソードマスターからもらったネックレスが、たまたまポケットに入っていたので、それでヒントになるかな、と思って。
なるほど……。
登場人物としてのアリスを、城の中で見てしまったから、私たちをこうするしかなくなったわけね……。
つまり、あのネックレスはソフィアのしていたものではなく、私がアリスにあげたもの……ということになるわけね。
トライブは、アリスにプラチナのネックレスを渡した覚えがなかった。
だが、この世界でのトライブは、もしかするとアリスに高価な装飾品まで渡している可能性が否定できない。
そう考えたトライブは、唇をギュッとかみしめた。
アリスは、ようやく納得した表情でうなずき、リオンに向けて咄嗟に右手を差し出した。
トライブをはじめとした登場人物から、この世界にもともといた人間を見ると白黒に見える。逆に、この世界にもともといた人間から、物語の登場人物を見てもやはり白黒に見える。
つまり、同じ側の人間でしか、色のついた状態で見られないということになる。
だが、アリスの次の一言で、その単純な結論は覆されることとなる。
アリスは、リオンを見ながらはっきりと言った。
リオンは、思わず赤面した。
トライブは、軽く笑うリオンを一目見て、洞窟の出口に体の向きを変えた。
ソフィアどころではなくなってしまった。
洞窟から出たとき、世界が一変している可能性も、今のトライブには否定できなかった。