54 オルティス・デストラとの死闘

文字数 3,004文字

つべこべ言うな!

オルティス・デストラが、後ろにジャンプし、再び廊下に出た。


追うようにして、トライブも廊下に出る。

二人の剣と刀が、今にも動き出そうとしていた。


そして、二人の足は同時に地を蹴った。

はああっ!

トライブは、オルティス・デストラよりも一足早く、アルフェイオスを手前からバーニングブレード目掛けて振り上げる。

一方のオルティス・デストラも、迫ってくるアルフェイオス目掛けて、赤々と輝く刀を力いっぱい振り下ろす。

これが、破滅の力だ!

トライブは、アルフェイオスをバーニングブレードに懸命に叩きつけた。

だが、叩きつけた瞬間、それが壁になる。

オルティス・デストラの放つ、並大抵ではないパワーが、女王の一撃をも押さえつけてしまった。


ほんの数秒で、剣を持つトライブの右手に痛みが襲う。

アルフェイオスも、じりじりと手前に押し戻されていく。


だが、すぐにトライブはアルフェイオスを手前に引き、すかさず上からバーニングブレードに叩きつけた。

今度は、バーニングブレードがわずかに下に傾いたように、トライブの手には感じた。

バーニングブレードを甘く見るな!

次の瞬間、オルティス・デストラがバーニングブレードをやや強く握りしめ、一度は傾きかけた刀を一気に振り上げ、アルフェイオスをトライブの手前に追いやった。


そして、そのままかなりのスピードで、バーニングブレードを右からアルフェイオスに叩きつけた。

動きが早い!

オルティス・デストラの素早い攻撃が襲ってきた瞬間、トライブはアルフェイオスを持つ手に、さらに力を入れた。

相手の勢いのまま、剣を左に傾けられることだけは食い止めた。


そして、トライブもオルティス・デストラに呼応するように、懸命にアルフェイオスを振る。

力と力が、二人の間で次々とぶつかり合った。

張り詰めた空気をも裂くような高い音が、廊下に小刻みに響く。

まだまだよっ!

20回、30回と襲いかかるバーニングブレードを、トライブは次々と跳ね返しては、逆に相手の刀にアルフェイオスをぶつけていった。


だが、徐々にトライブがオルティス・デストラのペースに耐えきれなくなる。

防戦一方になったトライブの前に、バーニングブレードの激しい一振りがかざされた。

……っ!

均衡していたかのように見えたバトルは、再びオルティス・デストラに勢いが傾いた。

右に押し流されたアルフェイオスを、トライブは正面に戻しかけるが、そこにオルティス・デストラが真上から刀を叩きつける。


トライブは、アルフェイオスを力強く握りしめるも、オルティス・デストラの力強い一撃がその手に襲い、耐えられなくなる。

相手の刀に流されるように、アルフェイオスの剣先が下に傾いた。


そこに、トライブの右からバーニングブレードが迫る。

お前に……、勝ち目はない!
だっ……!

オルティス・デストラの一撃で、トライブの右足にまでその衝撃が伝わる。

瞬く間に、トライブの足がふらつく。

左足は何とか持ちこたえているが、アルフェイオスをまともに構えることもままならない。

私は……、それでも耐えてみせる!

トライブは、再び襲いかかった一撃を、力ずくで食い止めようとした。

だが、右手と右足に、またしてもバーニングブレードの圧倒的なパワーが痛みとなって伝わる。


相手の刀の圧倒的なパワーを前に、トライブがどれほど強くアルフェイオスを握りしめても、その衝撃から逃れることができない。

「剣の女王」の力でさえ、バーニングブレードに桁違いとも言える差をつけられていた。


そして、トライブが考える間もなく、オルティス・デストラがこれまでよりもはるかに力強く、バーニングブレードをアルフェイオスに叩きつけた。

だはっ……!

トライブの全身に、激しい痛みが駆け抜けていった。

その一振りに投げ出されるように、トライブは城の廊下に背中から叩きつけられた。

トライブ!


負けないで!絶対……っ!

部屋の中で戦況を見守っていたソフィアが、思わず叫ぶ。

だが、トライブにはその叫びもほとんど耳を通らない。


トライブはただ、オルティス・デストラを細い目で見つめるだけだった。

それはもはや、ボロボロの体でなすすべもない「剣の女王」の姿だった。


その目と鼻の先で、オルティス・デストラがバーニングブレードを振り上げ、床に崩れ落ちたトライブに振り下ろす。



その時、トライブの脳裏に、言葉が次々と思い浮かんだ。

それも、いくつかの言葉があちこちから響くかのように。

いま、絶対に倒せないような強敵を倒せるとしたら、トライブしかいない……。

お前には、誰にも持っていないような実力がある。

本気を見せたとき、それは桁違いのパワーとなって現れる。

「剣の女王」の力、信じてるよ。

次々と襲いかかる、言葉の渦。

それは、これまで何度となくトライブを救ってきた支え――。


いま、トライブを支える誰もが、勝利を信じている。

女王の肩書きを持つ、最強の女剣士が、このまま終わるはずがない。


そして、最後に魂が叫ぶかのような言葉を、トライブは思い浮かべた。

諦めたら、「剣の女王」はそこで終わる!

トライブの右手は、何かに動かされたかのように、アルフェイオスを強く握りしめ、上から振り下ろされたバーニングブレードを目掛け、その剣を力強く降った。

仰向けに投げ出された状態から、トライブは最後の力を振り絞り、バーニングブレードを弾き返す。

すぐさま、背中に重心をかけ、素早く立ち上がった。


その目の前で、とどめを刺しきれなかったオルティス・デストラが、睨み付けるようにトライブを見る。

その体で、何ができる!

辛くも立ち上がったトライブだが、ほぼ一方的なバトルに耐え抜いた体は、あちこちで悲鳴を上げていた。

肩で呼吸をし、右足には未だに衝撃が残る。


それでも、圧倒的な力の差を承知でオルティス・デストラに挑もうと、怯むことなくその場を踏みしめる姿は、まさに「剣の女王」だった。


そして、トライブは自らを一気に奮い立たせた。

私は、まだ力尽きたわけじゃない!

トライブの足が、再び床を蹴った。

同時に、オルティス・デストラの足も、トライブに向けて一気に駆けだした。


今度こそとどめを刺そうと、バーニングブレードを大きく振り上げ、トライブの剣と命ともども叩き落とそうとする、オルティス・デストラ。

その一撃を砕くように、トライブもアルフェイオスを激しく振り上げた。

はああああっ!

トライブの肩ほどの高さで、アルフェイオスがバーニングブレードを叩きつけ、そのパワーでじりじりと持ち上げていく。

わずかながら、オルティス・デストラがアルフェイオスの力に翻弄され始めた。


ほんのわずかな隙。

全身の力を消耗しかけたトライブが勝負を決めるには、今しかない。

トライブは、かすかに動きが止まったバーニングブレードの重心を目掛けて、アルフェイオスを激しく突き上げた。

なっ!

この一撃で我に返ったオルティス・デストラが、すかさずバーニングブレードを下に向け、そこから振り上げようとしていた。一度は見せかけた隙など、最初からなかったかのように。


その動きを目で読んだトライブは、それでもなお、全身に残されたパワーを右手に集め、渾身の力でアルフェイオスを相手の刀に振り下ろした。

はああああああっ!

「クィーン・オブ・ソード」の最後の力が、いま解き放たれた。


それは、物語の世界の崩壊を止められる力となるのか――。

それとも、「剣の女王」が力尽き、「神」の前に跪くのか――。



勝負は、決した。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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