46 オメガピースの城は常時接続
文字数 2,600文字
シナリオマスターのソフィアが立ち去った後、女王と王子に武器を向けていた城兵たちが何事もなかったかのように頭を下げ、再び持ち場に戻っていった。
エクアニア城に、再び穏やかな時が訪れた。
全て、ソフィアが作ったシナリオ通り、城兵たちが動いた結果かも知れないが。
だが、立て続けに涙を流すことになったトライブの表情は、決して晴れることがなかった。
王室に戻り、ドアが閉まった瞬間、トライブはわずかに天井を仰ぎ、深いため息とともに首の角度を元に戻した。
当然よ。
あの場では言えなかったけど、ソフィアがいなかったら、たぶん今の私の強さはなかったと思う。
それくらい、大事なライバルだった……。
それが、チップを手に入れただけで、簡単に変わってしまうと思うと……。
今度は、リオンがハンカチを渡すことなく、ただじっとトライブの表情を見つめているだけだった。
その中で、トライブは小さくうなずいた。
パラレルタブレットで、夢の世界を物語のように冒険できる。
今まで、それは楽しいことだと思っていたわ。
でも、人が人を動かすとき、そこには思い入れや、時に憎しみだって入ってしまう。
パラレルタブレットの世界は、本当は怖いところなのかも知れない。
トライブは、何度か首を横に振り、声に力を入れて言う。
リオンがうなずいているのが、トライブにもはっきりと分かった。
その時だった。
突然、王室のドアをうるさく叩きつける音が、二人の耳に響いた。
リオンがゆっくりとドアに向かい、扉を開くと、そこに立っていたのはモノクロのアリスだった。
モノクロのアリスは、手に何も持っていない状態でリオンを見つめていた。
モノクロのアリスは、そう言うと大きく息を吸い込んで、声を溜めた。
そして、トライブとリオンの目が同時にアリスを見つめた瞬間、声を吐き出した。
それが違うんですよ。
ず――っと、転送装置が残っているんですよ。
今まで、シナリオマスターの気まぐれみたいな感じで、ソードマスターがここからオメガピースの城に送られたじゃないですか。それが、好きな時に転送装置に乗って行けるってことなんです!
モノクロのアリスは、右手で軽く頭を撫でながら、「オメガピース」の城に入った自慢話を始めようとした。
だが、ほぼ同時にトライブは首をかしげ、すぐに口を開いた。
珍しく一発で動き出したアリスの後ろを、トライブとリオンがやや大股で付いて行く。
だが、案の定アリスは、すぐに歩くスピードを緩め、トライブに声をかける。
リオンがそう言うと、モノクロのアリスは軽く笑った。
だが、このほんのわずかな会話が、まだエンディングを迎えていないトライブの物語に、致命傷とも言える傷をつけていたことを、少なくともこの時のトライブには気付かなかった。