08 失踪は突然に
文字数 2,500文字
結局、アリスは双眼鏡を持ったまま城じゅうを駆け回り、30分ほどして戻ってきた。
息を切らして入ってくるアリスに、トライブは普段と変わらない表情で言った。
アリスは、メモを取り出してトライブに見せた。
そこには173という数字が書かれてあった。
アリスは、ややおどおどしながらも、もう一度173という数字をトライブに見せた。
それを見て、トライブはゆっくりとうなずく。
「エクアニア173」というのは、文字通りエクアニアの国と城を守る173人の兵士のことで、そのほとんどが剣を持って戦う兵士だった。
近年は兵士の数にそれほど変化はないが、それでも兵士の数に増減があった場合、この「エクアニア173」というのも兵士の人数に合わせて、呼び方が変わっていくとのことだった。
むしろ、その名称を知らずに数を一人一人数えさせたリオンのほうが無知だった。
リオンは、そこまで言って軽く笑った。
女王や王子まで兵士たちと一緒に戦うことは、今のところないと思ったからだ。
そのリオンの表情を、アリスがやや首を上げて覗き込んだ。
その時、突然王室に続く廊下を駆ける音が聞こえた。
トライブとリオンが、王室の扉に顔を向けた瞬間、その扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは、トライブが全く見たことのない一人の兵士だった。
えっと……、自分含めて172人でした。
はい。
エクアニアには城兵しかいないし、特に外に出る命令を受けてないのに、172人しか兵士がいないんです!
「エクアニア173」が揃いません。
入ってきた兵士は、相当慌てている様子だ。
欠けているその一人が、あまりにも名の知られている兵士なのかも知れない。
嫌な予感が次第にトライブを襲う中、アリスが腕組みを始めた。
はい。
自分が一人一人数えたときも、ソフィアの姿が見えなかったのです。
ソフィアは、この世界でトライブが最初に出会ったとき、エクアニア城兵屈指の剣の実力を持つ、と紹介された。
少なくとも、任務の時は肝心なところを守るという役割がありそうな兵士なのだろう。
そのソフィアが、突然いなくなってしまった。
兵士が慌てているのも無理はなかった。
ほどなくして、王室に兵士長がやってきた。
王室のドアが開いたとき、兵士長も青ざめた表情になっているのがトライブの目に飛び込んできた。
トライブ女王!失踪の話は、既に兵士たちの間で話題になっています。
エクアニア城兵最大の一大事です!
はい……。
いま、何人かの城兵で手分けして探していますが、ソフィアが見つかったという話はありません。
そう言うと、兵士長は急いで王室を出た。
王室は、再び女王と王子と召使いだけになった。
その時、アリスがトライブのところに駆け寄ってきた。
そして、軽く耳打ちしてトライブに告げる。