13 ソフィアの声
文字数 2,656文字
登場人物が、その世界に生きている本人に触れたら、登場人物の魂が崩壊してしまう。
その言葉を聞いたモノクロのアリスは、思わず血の気が引いたような表情になり、アッシュの肩をギュッと掴んだ。
かたや、登場人物のアリスも、それを初めて聞くかのようにその場に立ち止まり、アッシュにじっと視線を寄せているようだった。
アッシュは、はっきりと分かっているように、短めに言った。
トライブや「二人」のアリスも、少しだけ納得したように首を縦に振った。
リオンは、慌てて自身の発言を取り消した。
トライブは、そんなリオンをやや細い目で見つめる。
以前、一緒に冒険をしたときも、リオンが重大な一言をさらっと言っていたからだ。
だが、逆にトライブを細い目で見つめていたのは、リオンではなくアッシュだった。
トライブ。
分かっていると思うが、お前と俺だけは特に気を付けないといけない。
もし壊れるようなことがあったら、元の世界に戻った後もそのままになってしまう。
だから、俺のシナリオではお前がこの世界のトライブと会わないようにしているわけだ。
アッシュの声は、普段にも増して低く、しかしどこか気が気でないようなものだった。
トライブは、元の世界のパラレルタブレットに起きていることを、アッシュがまだ解明していないように思えた。
トライブは一人の城兵を呼び、モノクロのアリスを連れて空き部屋を探しに行った。
召使いのアリスも、召使いとして再び城の中へと戻っていった。
だが、二人のアリスがトライブの視界から消えかけた瞬間、トライブの耳に聞き慣れた声が響いた。
トライブ。
それは不可能なことよ。
エクアニアものとも、私たちが粉々に破壊する!
トライブは、聞き覚えがありすぎるくらいのその声に、思わず左右と背後を見た。
だが、新たな人物の登場はなかった。
戸惑いの表情を浮かべるトライブに、リオンが真横に立ってこう告げる。
その時、青空も覗いていたエクアニア城の上空が、ドームで覆われたように真っ黒になった。
トライブは、真上を見上げた。
エクアニア城のミニチュア版にも見えるような城が、上空を旋回している。
トライブは、真上を見る。
慣れ親しんだはずの「オメガピース」の建物ではなかった。
そのとき、上空を旋回する城から声が響き渡った。
私たちは、オメガピース。
このエクアニアを、我が傘下に収めるためにやってきたわ!
トライブは、左右に軽く首を振ってアッシュを探した。
だが、その姿はどこにもなかった。
その声は、やはりソフィアのものに他ならなかった。
だが、ソフィアの居場所は、上空にある「オメガピース」からだった。
トライブは、嫌な予感しかしなかった。
それは、エクアニア城兵であるはずのソフィアが、灰の神に乗っ取られた「オメガピース」に奪われてしまったということ。
そして、この世界のソフィアと出会っているかもしれないということを。
その時、上空の城から再び声が鳴り響いた。
トライブがそう望むのなら、すぐに会わせてあげる。
エクアニア城の尖塔に、オメガピースへの転送装置を置いたから、トライブ一人で来なさい。
トライブは、やや大股で尖塔へと向かった。
リオンもその後を付いていく。
エクアニアを守る、「剣の女王」の戦いがいま始まる。