03 門を守る者・ソフィア
文字数 2,806文字
エクアニア城兵屈指の剣の実力を持つ女、とはソフィアのことだった。
これもまた、一人の登場人物とは言え、「オメガピース」では永遠のライバルと言うべきソフィアの登場に、トライブの目が細くなる。
戦わなければならない展開のようだ。
トライブは、これまで何度も強敵を打ち破ってきた剣・アルフェイオスの剣先をソフィアに突き出す。ほぼ同時に、ソフィアも自らの剣・ストリームエッジをトライブに向ける。
門を守っていた兵士たちは左右に散り、女剣士二人に十分なバトルスペースが残された。
トライブの右足が力強く大地を蹴り、剣を上に掲げながらソフィアに向けて突き進む。
ソフィアもやや遅れて、受け止める姿勢を作りながらトライブに迫る。
トライブは、ソフィアの剣に向けて力強いカーブを描きながら、アルフェイオスを振り下ろす。瞬時に、ソフィアも剣を持つ手に力を入れ、振り下ろされるアルフェイオスを受け止めに入る。
二人の間でも、これまであまり聞いたことのないような激しい金切り音。
そして、剣と剣の間でせめぎ合う、激しいパワー。
トライブはそれ以上押せなくなったと感じると、すぐさまアルフェイオスを軽く離し、ソフィアの剣に立て続けにぶつける。だが、ソフィアの剣はなかなか引かない。
ソフィアの剣が、トライブの右によけられた。トライブも、それに合わせて体の重心を右に傾けようとしたが、それより一歩早くソフィアの腕が動き出し、その剣をアルフェイオスに命中させた。
トライブの右腕に、強い衝撃が走る。わずかながら、アルフェイオスが勢いで流されていく。
だが、トライブもそこで右手にグッと力を入れた。
この程度の衝撃なら、何百回、何千回も耐えている。そう言い聞かせ、ソフィアの剣の勢いを止める。
左に流されたアルフェイオスを、トライブはパワーで正面に戻し、ソフィアの剣に先程よりも激しく叩きつける。今度はソフィアも打ち合うように剣を動かし、二人の間で小刻みに剣が交錯する。
二人のパワーもスピードも、ほぼ互角。
だが、平行線を辿りかけたバトルを、「剣の女王」がたたみかける。
トライブは剣を持つパワーを一気に高め、数十秒続いていたリズムに付け入るように、ソフィアの剣を叩きつける。その衝撃に、ソフィアが剣をわずかに手前に引いた。
パワーが一瞬だけ弱くなった証拠だ。
その瞬間、トライブは剣に全神経を集中させた。
トライブは、渾身の力でアルフェイオスをソフィアの剣に振り下ろす。
激しい音が二人の間に鳴り響き、ソフィアの手から力が消え、アルフェイオスの力を受けるがままに、ソフィアのストリームエッジが勝負の大地に落ちていく。
一瞬でも隙があれば、一気にパワーを爆発させる。
それが、「クィーン・オブ・ソード」トライブの勝利を、誰もが確信する瞬間だった。
ソフィアが門の右側に移り、他の兵士たちと並ぶと、トライブはようやくエクアニア城下町に入ることを許された。
トライブが一歩中に踏み入れると、門の前の物々しい雰囲気とは打って変わって、国の富が溢れるような、美しい景観が広がっていた。
きれいな水をたたえる川。
街に彩りを与える花や植物の数々。
国中から集められた様々な作物や工芸品が並ぶ店。
人々の笑い声。
それらはまるで、今まさに国で抱えているはずの不安を、せめて壁の中だけは感じさせないようにトライブには思えて仕方がなかった。
ほ、本当だ!
今や世界でその名を知らない者はいないとまで言われる、剣の女王がここに……!
門の前でソフィアと戦うことになるのは、あくまでもアッシュの考えたシナリオ。
トライブはそう考えながら、自分の名を呼ぶ城下の一人一人に手を振った。
人々の表情は、トライブがこの後ここで何をするのかを気にする様子ではなかった。
城下を歩きながらも、トライブはやや疑問を感じずにはいられなかった。
もともと夢から生まれた設定とは言え、簡単に最終目的地まで辿り着いてしまう。
何も起きないのが、逆に怖い。
おそらく、トライブが城に着いた時点で次のイベントが起きてしまい、戦い、城を守りきる。
そうなるのが、もはや見え見えだった。
結局トライブは、何事もなく城の前までやってきた。
夢で見た、城の占拠を宣言する尖塔が、この場所からはっきりと見える。
トライブは、城をしばらく見上げた後、再び城の入口に向けて歩き出した。城は小高い丘の上にあり、トライブの立っていた場所から10mほど高いところに入口がある。
だが、いよいよ坂にさしかかり、トライブの行く手に多少の雑草が生えている道になったその時、トライブは突然足下に力を感じなくなった。
また、坂道に落とし穴が埋め込まれていた。ほんの1時間前に落とされたトライブは、慎重に歩いていたつもりだったが、それでも巧妙な土のトリックに騙された。
もはやトリックアートと言うべき仕掛けに他ならなかった。