40 孤独の女剣士を見る展望室
文字数 2,806文字
転送装置から、再びアッシュ・デストラが現れるかも知れない、とトライブはかすかに口にした。
だが、トライブの予感とは裏腹に、転送装置の光は徐々に強くなり、呆然とその光を見つめるリオンに触れようとしていた。
リオンが、トライブを何度か見つつ、迫り来る緑色の光をちらちらと気にしている。
その中で、トライブは首を横に振った。
明らかに、リオン一人を目掛けて飲み込もうとしている、転送装置の光に、トライブとリオンは手を繋ぎ、ゆっくりと向かった。
手を繋いでいたからか、モノクロのアッシュと初めて遭遇したときのように、トライブが一人だけ弾かれることはなかった。その不思議な光は、やがてトライブをも城の前から次の場所へと、その身を包み込んだ。
転送装置で運ばれている間も、ずっとリオンの手を握りしめていたトライブは、リオンの手に不思議なぬくもりを感じていた。
アッシュ、シナリオマスター、それにモノクロの姿で見える人を除けば、トライブの目に見えるのは全て登場人物だった。シナリオマスターが生み出した、一人のキャラクターに他ならなかった。
隣にいるリオンは登場人物のはずなのに、登場人物の手にこれほどまでのぬくもりを感じた。それは、トライブにとってどこか運命的なものを感じさせる瞬間でもあった。
リオンとは、10年後の世界でも、最後までバラバラに行動してしまった……。
戦おう、って約束したのに、それを叶えることすらできなかった……。
だから、今こうして手を繋いでいられるのが不思議で仕方ないのよね……。
そうこうしている間に、トライブとリオンを載せた転送装置は、「オメガピース」の城の中と思われる場所に辿り着いた。
二人の回りから、徐々に緑色の光が消えていくと、トライブは左右に目を動かした。その横で、リオンがやや低い声で呟いた。
じっとリオンを見つめながらトライブは、少しも表情を変えなかった。
それを見て、リオンは軽く頭を撫でた。
突然、リオンが部屋の奥に青白い光を見つけ、トライブにその光を指差した。
その青白い光は、転送装置の放つ緑色の光と比べれば非常に弱く、注意しなければ肉眼でも分からないほどの淡い光だった。
トライブは、先頭に立ってその光の示す場所に、ゆっくりと歩く。
1メートル、また1メートルとその距離を縮めるにつれ、トライブの目にその光の正体がはっきりと分かるようになった。
リオンにそう言われたトライブは、もう一度窓を見た。
たしかに、その窓はトライブの肩の高さではなく、足首の高さで外を照らしていた。
そして、その窓の向こうに、褐色の鉱山の頂上があるのが、トライブの目に留まった。
そう言い終えると、リオンが窓の前まで進み、中腰になりながら窓の外を見つめた。
数秒後、リオンが思わず息を飲み込んだ。
トライブは、リオンに誘われるままに窓を覗き込んだ。
その瞬間、トライブの目に、モノクロに映る女剣士の姿が飛び込んできた。
眼下に見えるモノクロのトライブは、もはやボロボロの姿になっていた。
リオンがその存在を知っていることを考えれば、モノクロのトライブは最低でも1日半以上はこの「異端者の奈落」に閉じ込められていることになる。
それだけ長い時間戦い続けたことのないトライブは、思わず窓から目を反らし、リオンを見る。
トライブは、軽く目を細めながら、窓を再び見た。
10分が経過し、今回もモノクロのトライブの挑戦は失敗に終わったようだ。
その時、部屋の奥からドアが開く音が聞こえた。