24 示された交換条件

文字数 2,777文字

あら、もう戻ってきたの?

リオンの視界が開けると、そこは先程見た隠し部屋だった。

床が上昇したような感じではなかったので、赤い扉の向こうに出ることはないだろうと思っていたが、リオンが戻ってきた場所は、まさにモノクロのソフィアの目の前だった。

あぁ。

モノクロのトライブと会ってきたけど、あれはなかなか大変なミッションだよ。

ミッション……?


トライブも、「異端者の奈落」に行ってそれをやってるってこと?

モノクロのソフィアは、リオンの返事をやや理解できないような表情で、言葉を返す。


そもそも、モノクロのソフィアには、トライブが「異端者の奈落」に送られた事以外、何も知らされていない。そのことに、リオンはすぐに気が付いた。

あぁ、やってる。


けれど、それはトライブをオメガピースの野望から遠ざけるためにやってるんだろ。

トライブだって、ちゃんと正義を貫いているのに、異端者扱いしているんだ。

正義?


私たちの正義は、私たちが決めたことだけよ。

つまり、オメガピースの正義に合わないトライブを……、ということになるんだな。

そういうこと。



それにしても、リオン。

せっかくもてはやしたのに、なんか戻ってきたらいっそう私たちに恨みを抱いているようね。

ここは、オメガピースの一員として、楽しく行きましょ。



私の目を見て。

モノクロのソフィアは、そう言って右手を差し出した。

そして、リオンの目をじっと見つめている。



年上であるソフィアのまじまじとした視線に、リオンの目線は釘付けになる。

リオンは、次に何を言おうとしていたかすら忘れ、モノクロのソフィアの「誘い」に取り込まれていく。

あ……、なんか許せない……って、ほどじゃないなぁ……。

そう、いい感じ。


リオン、当ててあげましょうか。

どうして、さっき私たちの側につかなかったのかを。

分かるのか、それが……。

勿論、分かるわ。


絶対に変えることのできない、私たちの運命を変える力を、「異端者の奈落」で手に入れた。

そうじゃないの?

リオンは、表情に出すことなく心の中で返事をした。

図星だった。


いま、この段階で左手をほどくか、手の平を上に向けてしまえば、モノクロのソフィアにリライト・ブレードの存在がバレてしまう。

リオンは手を震わせないように意識するも、どうしても目だけは左手に向かいかけてしまう。



そして、ついにリオンは諦めた。

ソフィアの言う通りだよ。


「異端者の奈落」で偶然手に入れた、運命を変える力。

このクリスタルの剣は、その証だよ。

わー、すごーい!
リオンが左手の手のひらを上に向け、ゆっくりと手をほどくと、輝かしいリライト・ブレードの半欠片が、光り輝いていた。

やっぱり。


だから、私たちに強気なことを言えたってことね。

まぁね。


でも、この剣はあげない。

俺には、俺なりの正義があるからさ。

リオンは、この段階で確信した。

「オメガピース」じゅうの兵士たちに、リライト・ブレードが狙われることを。



だが、モノクロのソフィアは少し考えるしぐさを見せた後に、ゆっくりとリオンに近づき、一度首を縦に振った。

運命を変える力、リオンが使えばいいじゃない。


ただし、今から私が言う交換条件を呑んでくれれば。

交換条件?

そう。


リオンが、エクアニアの王になること。

そして、王になったあかつきには、「オメガピース」と同盟を結び、ともに正義と平和に満ちた国を作り上げていくこと。

それはできない。


俺たちが支えるべきエクアニアの主は、トライブだから。

リオンは首を軽く横に振って、モノクロのソフィアにたてつく。

そう……。


でも、考えて。

今のリオンなら、トライブに勝てると思うけど。


ミッションを二人同時にやって、リオンだけが帰ってきたわけだから。

それはそうだな……。


けれど、それだけで俺の方がトライブより強いということにはならないと思うよ。

そう言うのね……。


でも、考えて。

トライブを倒さない限り、いつになってもリオンは王子を演じなきゃいけないの。

終わりのないストーリーに、ずっと縛られることになるの。

その運命は、変えたいでしょ?

トライブを倒さない限り……。


それは、どういう意味なんだ。

簡単なことじゃない。


この物語は、トライブが死ぬことで終わるの。

シナリオマスターが、エンディングの条件をそうしちゃったんだから。

リオンの目の前が、一瞬真っ白になった。

肩をすぼめ、目線をやや斜め下に下げた。

ウソだろ、と小声で言いかけようとさえした。



だが、数秒も経たないうちに目線を元に戻し、モノクロのソフィアの目を再び見つめた。

分かった。


その運命には従わなきゃいけないようだね。

そして、俺自身の運命を打ち砕く。

リライト・ブレードの力で。

そう。もう答えは見えているじゃない。


エクアニアに戻ったとき、リオンがしなければいけないのは……。

そう言うと、モノクロのソフィアは右手を高く上げて、一人の兵士に何かを合図した。その兵士は、胸のポケットからスプレーのようなものを取り出し、モノクロのソフィアに渡した。

トライブと戦って勝ち、とどめを差すこと。

分かってるじゃない。

その意思を持続させるために、少しだけ色のついてないスプレーをかけておくわ。

モノクロのソフィアは、リオンに軽くスプレーを吹きかけ、かすかに微笑んだ。

それと同時に、リオンの目に緑色の光が飛び込んできた。

さぁ、リオン。

元の世界に戻る時間よ。


トライブの目の前に戻るように、転送装置を動かしてあると思う。

分かった。

気を付けて。


この物語を終わらせ、あなた自身の運命を変えるのよ。

ここからは、あなたの物語なんだから。

リオンは、緑色のオーラの向こうに見えなくなりかけた、モノクロのソフィアを最後まで見ていた。

その表情は、笑っていた。



エクアニア城に朝の光が差し込んだ。

トライブは、王室の隣にあるベッドルームを、アルフェイオスと一緒に出て、視界の広いテラスから新しい一日の始まりを眺めていた。

オメガピースの城は、朝になってもあの位置にあるのね……。


リオンは、いつ帰ってくるのかしら……。

その時、トライブは緑色の光が目に飛び込むのを感じた。

光の気配で後ろを振り返ると、その光の中から転送装置が現れた。

リオン……?

トライブはやや早足で、転送装置に向かう。

中にいたのは、予想していた通りリオンだった。



だが、リオンは既にライトニングセイバーを手に持って、トライブをじっと見つめていた。

そして、こう言い放った。

トライブ。


どうやら、俺と勝負をする時がやって来たな。

勝負……。


リオン、どうしちゃったのよ?

どうしたもこうしたもない。


俺は、トライブが死ぬという、この物語が定めた運命に従う!

そして、いつまでも王子のままという、俺自身を変えるんだ!

リオン……、まさか……。

トライブは、一瞬で嫌な予感を抱いた。それでほぼ間違いなかった。


エクアニア城のテラスを舞台に、ソードマスターどうしのバトルが始まろうとしていた。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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