36 灰の神アッシュ・デストラ 降臨
文字数 2,728文字
次々と箸を進める召使いの表情に、焦りの色が漂った。
リオンもほぼ同時にうなずき、アリスの表情が再び曇る。
そこまで言って、召使いのアリスは食べることに集中し始めた。
全くしゃべっていないモノクロのアリスが、既に弁当一人前食べ終えていて、それに付いて行こうと、召使いのほうも張り切って食べる。
ここは城であり、フードファイトの会場ではないとだけ言っておく。
モノクロのアリスが、突然会話に割り込み、トライブとリオンは軽く笑った。
そうトライブが口にしたとき、彼女の目に召使いのアリスが薄笑いを浮かべているのが飛び込んできた。
先程のような赤いオーラは発していないが、召使いのアリスは何かを隠しているかのように、時々思い出し笑いを浮かべていた。
トライブとリオンは、召使いのあまりにも唐突な言葉に、思わず息を飲み込んだ。
登場人物としての存在ゆえ、シナリオマスターによって動かされている可能性が高いものの、それを差し引いても、この部屋の中に緊張が走るのを二人は察した。
はい、そのまさかです。
ここにスイッチがあって、そのスイッチを押すとソードマスターの座っている椅子が、西側の尖塔に吹き飛びことになっています。
その先にいるボスから、城を守ってください。
と、シナリオマスターから手紙を頂きましたー。
そう言いながら、召使いのアリスが何かを探す仕草を始めた。軽く立ち上がって探すが、目的としているものは出てこない。
その様子を見ながら、リオンが軽く笑った。
悔しがる召使いに、リオンは床噴射スイッチを高く持ち上げながら、軽く笑った。
しかし、はしゃいでいる最中に、リオンは小指でスイッチを押したように感じた。
トライブがそこまで言った瞬間、トライブの座っている椅子が突然床ごと吹き飛び、何故か開いている天井へと吸い込まれていった。
まるで、カゴのないエレベーターに乗っているかのような恐怖に、トライブはついに目をつぶった。
やがて、明るい光がトライブのまぶたを照らし、トライブはゆっくりと目を開きかけた。
その時、聞き覚えのある声がトライブの耳に響いた。
エクアニア城の尖塔の上に放り出されたことを知ったトライブは、四方八方を見渡しても姿が見えない、その声の主を懸命に探した。
そして、トライブは背後から声が聞こえたことを察し、体を180度回転させる。そこに、全ての終わりを告げるような、先程よりも激しく輝く赤いオーラが空中に漂っていた。
トライブの目は、少しずつはっきりするシルエットを追いかけた。
10秒、20秒とにらみ合う時間が続く。
そして、30秒待ち、ついに赤いオーラの中からその正体が姿を現した。
トライブは、椅子から立ち上がり、尖塔の広い場所まで歩みを進める。
引き抜いたアルフェイオスが、早くもアッシュ・デストラのほうに向けられていた。
「クィーン・オブ・ソード」が、バーニングブレードを携えた「灰の神」に、いま勝負を挑もうとしていた。