36 灰の神アッシュ・デストラ 降臨

文字数 2,728文字

はっきり言って、アリスの作ったダンジョンは、違う意味で怖かったわ。
トライブは、明らかに人数の倍以上は用意されている仕出し弁当を囲み、こう切り出した。ほぼ同時に、リオンがうなずいたのが、はっきりとトライブに見えた。
さっきも言ってたように、変な生物が落ちてきたからですか?

そうじゃなくて、いかにも発想が15歳の女の子ぽいところよ。


大人でも嫌がるものを、たくさんダンジョンの中に散りばめてて、私がよく行く洞窟とか塔とはまた違った怖さがあった。

たしかに、トライブの言う通りだよ。

俺も、子供の頃そんなダンジョンを作りたいと思ってたから、実際にルーファスの近くの洞窟に入ったらギャップを感じちゃったよ。

そうですか……。


でも、楽しくなかったですか?

全然。


限りなく0点に近いわ。

えーっ……。

次々と箸を進める召使いの表情に、焦りの色が漂った。

リオンもほぼ同時にうなずき、アリスの表情が再び曇る。

そもそも、楽しいダンジョンなんて世の中そうそうあるわけじゃないんだし、トライブが辛口の評価をするのも無理はないよ。
ちなみに、リオンさんはどう思ってたんですか?
時間が経つにつれて嫌になった。それだけ。
はぁ~い……。

そこまで言って、召使いのアリスは食べることに集中し始めた。


全くしゃべっていないモノクロのアリスが、既に弁当一人前食べ終えていて、それに付いて行こうと、召使いのほうも張り切って食べる。

ここは城であり、フードファイトの会場ではないとだけ言っておく。

せっかく出前が来たんだし、俺たちもとりあえず一人前食べるか。

えぇ……。


ところで、リオン。

トライブ、どうした。

一口しか食べてないのに、なんか気になることでもあったのか?

さっき戦ったバーニングブレード、私のアルフェイオスよりもずっと破壊力があって……、不思議な力が働いているとしか思えないのよ。

俺もそう思った。


剣にしては、手にする前から力が溢れ出ているような気がして、まるで生命体のように思えて仕方がない。

生命体……。


たしかに、そう言えなくもないわ。

もし、そのエネルギーを発しているとしたら、持ち主か、マインド・デストラクションをした相手方……。

私ですかー?

モノクロのアリスが、突然会話に割り込み、トライブとリオンは軽く笑った。

モノクロのアリスのほうは、さっきトライブが戦っているときに、何かおかしな力を感じなかった?


例えばさ、ほら、力を吸い取られているとか。

そんなことはなかったと思います。


私が居眠りをしたふりをしてれば話は違いますが……。

なるほどね……。


そうなると、剣にあれだけの力を与えれているのは、内に秘められた魂。

そして、突き動かす何か。

そう考えると、既にバーニングブレードの力を操って、オメガピースを乗っ取り、そしてその剣を操る、第三のアッシュなんてものすごく強いことになるな。

それは言われなくても分かってるわ。


でも、私の方が実力的には絶対上よ。

たとえ登場人物であろうと、少し前まで剣ではなく銃で戦っていたことに変わりはないのだから。

そうトライブが口にしたとき、彼女の目に召使いのアリスが薄笑いを浮かべているのが飛び込んできた。

先程のような赤いオーラは発していないが、召使いのアリスは何かを隠しているかのように、時々思い出し笑いを浮かべていた。

あのー、ソードマスター?
どうしたのよ。
もしかして、ここがどういう場所か知っててその話をしているんですか?
どういう場所って……、アリスの作ったレストランなわけでしょ。

ホント、そうですか?


おそらく、ここに連れて行かれる前に、誰かにミッションって言われていたと思うんですよねー。

灰の神か!

トライブとリオンは、召使いのあまりにも唐突な言葉に、思わず息を飲み込んだ。

登場人物としての存在ゆえ、シナリオマスターによって動かされている可能性が高いものの、それを差し引いても、この部屋の中に緊張が走るのを二人は察した。

たしかに、私たちはミッションを与えられてない。

せいぜい、あのダンジョンから脱出するだけという、当たり前の行動をしているにすぎないのよ……。


ということは、まさか……。

はい、そのまさかです。


ここにスイッチがあって、そのスイッチを押すとソードマスターの座っている椅子が、西側の尖塔に吹き飛びことになっています。

その先にいるボスから、城を守ってください。


と、シナリオマスターから手紙を頂きましたー。

ちょ……っ、この椅子をどうやって尖塔まで飛ばすのよ!

下の床が昇降装置になってます。

だから、カタツムリをここから真下に落とすようなマネができなかったんです。

そう言いながら、召使いのアリスが何かを探す仕草を始めた。軽く立ち上がって探すが、目的としているものは出てこない。


その様子を見ながら、リオンが軽く笑った。

探してるの、これだろ。

スイッチが床に落ちてたから、怪しいと思って拾っておいたんだ。

あ……。ここでもドジやっちゃった……。

悔しがる召使いに、リオンは床噴射スイッチを高く持ち上げながら、軽く笑った。

しかし、はしゃいでいる最中に、リオンは小指でスイッチを押したように感じた。

あ、押しちゃった。
リオンがやるとは思わなかっ……!

トライブがそこまで言った瞬間、トライブの座っている椅子が突然床ごと吹き飛び、何故か開いている天井へと吸い込まれていった。

まるで、カゴのないエレベーターに乗っているかのような恐怖に、トライブはついに目をつぶった。


やがて、明るい光がトライブのまぶたを照らし、トライブはゆっくりと目を開きかけた。

その時、聞き覚えのある声がトライブの耳に響いた。

どうやら、この場所にやってきたようだな。エクアニアの女王、トライブ。
誰よ……っ!

エクアニア城の尖塔の上に放り出されたことを知ったトライブは、四方八方を見渡しても姿が見えない、その声の主を懸命に探した。


そして、トライブは背後から声が聞こえたことを察し、体を180度回転させる。そこに、全ての終わりを告げるような、先程よりも激しく輝く赤いオーラが空中に漂っていた。

アッシュ……。


違う、灰の神……。

トライブの目は、少しずつはっきりするシルエットを追いかけた。


10秒、20秒とにらみ合う時間が続く。


そして、30秒待ち、ついに赤いオーラの中からその正体が姿を現した。

俺は灰の神、アッシュ・デストラ。


今日、俺はエクアニアを手に入れる。

そしてこの場所が、お前の最期の地となるだろう。

灰の神……。

トライブは、椅子から立ち上がり、尖塔の広い場所まで歩みを進める。

引き抜いたアルフェイオスが、早くもアッシュ・デストラのほうに向けられていた。


「クィーン・オブ・ソード」が、バーニングブレードを携えた「灰の神」に、いま勝負を挑もうとしていた。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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