31 うるさいドアノック

文字数 2,507文字

トライブがモノクロのアッシュと激闘を繰り広げた後、その日の午後から夜にかけてはトライブの回りで何か事件が起こるようなことはなかった。


ただし、「オメガピース」の城は相変わらずエクアニア城の目と鼻の先にあり、トライブはテラスから、いずれ訪れなければならない城を何度も見た。


夕暮れが迫る頃、トライブがテラスへと向かうと、そこには先にリオンがいた。

リオン……。

さっきから見ないと思ったら、こんなところにいたのね。

あぁ……。

さっきまで城下をぶらぶらしていたけど、全然物語が先に進まないようで、ちょっと寂しくなってきたんだ。

そうね……。

そうは感じないけど、一応ここは物語の世界なんだし……。

一応、だね……。


あくまでも俺は、物語の主人公、つまり女王を守らないといけない立場。

だから、何かあれば、一緒に戦わないといけないのかなって思った。

今日は全然ダメだったけど。

リオンだって、強い剣士よ。

トライブは、その瞬間リオンの首が軽く横に振られるのを目にした。

そして、首の動きを終わたリオンが、先程とややトーンを変えつつ、トライブに告げた。

話は変わるけどさ……、さっきモノクロのアッシュが言ってた、ミッションって何だろう……。


灰の神を呼ぶとか言ってたみたいだけど。

私も気になる。


灰の神とバトルするだけだと、全然ミッションにならないような気がするわ。

もしかしたら、私たちの行った場所に、シナリオマスターが何かを仕掛けるのよ。

行った場所と言っても、この城とか城下とかぐらいしかないじゃん。

そうよね……。


こんな時に想像するだけムダかも知れないけど、この城に何か秘宝が眠っているとかかしら。

どういう秘宝だと思う?

それは……。


使ったら、私とアッシュとソフィアが元の世界に戻れる、不思議なアイテムとかいいかも知れない。

そ……、それはいいかも知れないね。

リオンも。その方がいいじゃない。

私の物語が終われば、設定とかも全部リセットされるだけだし、オメガピースの城がこんな間近に迫ってくる時代も終わるわ。そして、晴れてリオンがエクアニアの王になる。

そうだけど……、やっぱり終わって欲しくないかな……。


トライブだって、灰の神を倒してから戻りたいだろ。

それは勿論よ。この物語が絶対に通らないといけない道だもの。

そう言うと、トライブはテラスに前のめりになり、徐々に闇に包まれていく「オメガピース」の城をじっと見つめた。


その横で、リオンがポケットからトライブに見えないように、リライト・ブレードを取り出し、やや細い目でそのかすかな光に見入っていたことは、トライブには分からなかった。

……。

モノクロのトライブが、「オメガピース」の城の底から這い上がってくるまで使うことのできない、リライト・ブレードは、二人の剣士の間を道標のように照らしていた。



完全に暗くなると、先にリオンが王室へと戻っていった。

続いて、トライブが戻っていった。

結局、夜に入っても何も起こらなかった。



翌朝、朝の光が差し込むよりもずっと前に、トライブとリオンはドアをバンバン叩く音で起こされることとなった。

あさーーっ!

壁時計は、まだ5時を回ったところだ。

時間帯を考えても、モノクロかカラーの、どちらかのアリスの声であることを、トライブは瞬時に悟った。


眠い目をこすりながら、トライブは王室のドアをゆっくりと開いた。

おはようございますっ!ソードマスターっ!
朝から元気ね、アリス。

ドアの先に見える外の景色は、遠くの方に夜明けを告げる薄い光が見えるほかは、まだ夜の域を脱していないようだ。


そのような中で、部屋にやってきたモノクロのアリスは、朝の太陽のように元気な表情を浮かべていたのだった。

当たり前です!


だって、この城に一大レストランができているんですもの!

それは、間違いなくアリスが行きそうなところじゃない。



……ちょっと待って。いま、アリスどこと言ったの?

この城の中です。

アリス……。


一応、ここの城の主は私よ。

私に勝手に、城の一室をレストランに変えないで欲しいわ。

いえ、私がやったんじゃありません……。


さっき、深夜の廊下を歩いて回っていたら、昼間と壁の形が全然変わっていて、遠くの方にお菓子の山が見えたんです。

けれど、その山は、巨大な穴の向こうです。まるでダンジョンみたいなものを、城の中で見てしまったんです。

トライブは、アリスの話を聞きながら、眠そうな目を再びこすり息を飲み込んだ。

前日、あれだけ脳裏によぎった「ミッション」という言葉が、いま再びトライブは頭に思い浮かべた。

きっと……、灰の神に言われて、一夜のうちにこの城をダンジョンに変えてしまったのよ。考えたら、怖い話よ。
それ……、もう魔術じゃねぇか?
ようやく起き上がったリオンが、一度あくびを浮かべながらトライブたちに近づく。だが、トライブはリオンを軽く見つつ、モノクロのアリスに言葉を返した。

きっと、アリスの言うように灰の神が絡んでいるのかも知れない。

でも、私は中心人物が違う人だと思うわ。

じゃ……、じゃあ、誰なんですか?

もう一人のアリスよ。

一応、召使いということになっているほうのアリス。

あり得るな……。

アリスは食べ物が絡んだら仕事が早いし、その気になれば誰にも知られずにダンジョンを作りそうな気がするわ。


実際、私はこの世界でアリスの作った穴に二回も落ちているのだから。

トライブの仮説に、リオンもモノクロのアリスもはっきりとうなずいた。モノクロではないアリスのほうが、行動が読めなかった。

なぁ、トライブ。

たとえアリスが作っているとしても、俺はこのダンジョンに挑む価値はあるかも知れない。

やっぱり、そこにミッションを重ねるわけね。

もしかしたら、その先に灰の神がいるかも知れないわけだし。

私は私で、クリアした後のお菓子目掛けてレッツゴーです!

結局、ドアを叩いたのはそれが目的というわけね。


分かった。着替えが済んだら、すぐに出るわ。

俺も、一緒に行って女王を守るんだ!

それから二人の剣士が着替えと身支度を済ますまでに、ほとんど時間はかからなかった。トライブもリオンも剣を持ちながら、少しずつ白くなってくる空に見守られ、モノクロのアリスの後を付いていった。

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登場人物紹介

トライブ・ランスロット


25歳/17代目ソードマスター

男性の剣豪をも次々と圧倒する女剣士。軍事組織「オメガピース」では、女性初のソードマスター。相手が隙を見せたときに力を爆発させるパワーコントロールと、諦めを許さない熱いハートで強敵に立ち向かう。その強さに、「クィーン・オブ・ソード」と称されるほど。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。トライブの最大の親友で、最大のライバル。ソードマスターになるため、実力で上回るトライブに常に対抗心を燃やす。富豪の令嬢で、クラシックをはじめとした音楽が好き。

リオン・フォクサー


21歳/9代目ソードマスター

地元ルーファスで自ら率いる自警団「青い旗の騎士団」で活躍し、「オメガピース」でもソードマスターの座をつかみ取る。力でグイグイ押していくパワー型の剣士。ソードマスターの時に謎の失踪を遂げた、とされているようだが……。

アリス・ガーデンス


15歳

「オメガピース」ではトライブのルームメイトで、銃使い兼魔術師。お菓子ばかり食べ、何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。トライブが送られたパラレルワールドのシナリオを作った張本人。

オルティス・ガルスタ


年齢不詳/20代目ソードマスター

「悪魔の闇」を打ち破った者は願い事を叶えることができる。その言い伝えに身を投じ、世界の支配者になろうとする邪悪なソードマスター。パワーやスピードは歴代ソードマスターの中で最高レベル。

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