31 うるさいドアノック
文字数 2,507文字
トライブがモノクロのアッシュと激闘を繰り広げた後、その日の午後から夜にかけてはトライブの回りで何か事件が起こるようなことはなかった。
ただし、「オメガピース」の城は相変わらずエクアニア城の目と鼻の先にあり、トライブはテラスから、いずれ訪れなければならない城を何度も見た。
夕暮れが迫る頃、トライブがテラスへと向かうと、そこには先にリオンがいた。
トライブは、その瞬間リオンの首が軽く横に振られるのを目にした。
そして、首の動きを終わたリオンが、先程とややトーンを変えつつ、トライブに告げた。
そう言うと、トライブはテラスに前のめりになり、徐々に闇に包まれていく「オメガピース」の城をじっと見つめた。
その横で、リオンがポケットからトライブに見えないように、リライト・ブレードを取り出し、やや細い目でそのかすかな光に見入っていたことは、トライブには分からなかった。
モノクロのトライブが、「オメガピース」の城の底から這い上がってくるまで使うことのできない、リライト・ブレードは、二人の剣士の間を道標のように照らしていた。
完全に暗くなると、先にリオンが王室へと戻っていった。
続いて、トライブが戻っていった。
結局、夜に入っても何も起こらなかった。
翌朝、朝の光が差し込むよりもずっと前に、トライブとリオンはドアをバンバン叩く音で起こされることとなった。
壁時計は、まだ5時を回ったところだ。
時間帯を考えても、モノクロかカラーの、どちらかのアリスの声であることを、トライブは瞬時に悟った。
眠い目をこすりながら、トライブは王室のドアをゆっくりと開いた。
ドアの先に見える外の景色は、遠くの方に夜明けを告げる薄い光が見えるほかは、まだ夜の域を脱していないようだ。
そのような中で、部屋にやってきたモノクロのアリスは、朝の太陽のように元気な表情を浮かべていたのだった。
いえ、私がやったんじゃありません……。
さっき、深夜の廊下を歩いて回っていたら、昼間と壁の形が全然変わっていて、遠くの方にお菓子の山が見えたんです。
けれど、その山は、巨大な穴の向こうです。まるでダンジョンみたいなものを、城の中で見てしまったんです。
トライブは、アリスの話を聞きながら、眠そうな目を再びこすり息を飲み込んだ。
前日、あれだけ脳裏によぎった「ミッション」という言葉が、いま再びトライブは頭に思い浮かべた。
それから二人の剣士が着替えと身支度を済ますまでに、ほとんど時間はかからなかった。トライブもリオンも剣を持ちながら、少しずつ白くなってくる空に見守られ、モノクロのアリスの後を付いていった。