第17話 2月5日 夜深の煌めき

文字数 2,632文字

「や、ややや、やっち、や、やっちっち、
 やち、やっちまっ…」

…たぁ?

昨晩のことである。
20時前まで残業し、その後にこの懺悔録を更新。
そして帰ろうかと思ったのだが、

今の会社へと誘ってくれた(実質拾ってくれた)
友人から飲みの誘いを受けたのだ。

彼とはかれこれ12~3年の付き合いになり、
何を隠そう、彼に彼の奥さんを紹介したのはこの私なのだ。
(…嫌われてはいるが)

彼とは一度大喧嘩をし、2年ほど連絡を取っていなかったのだが、
私の方から連絡をし、また付き合いを再開した。

仲が悪かったが一周回って仲良くなったお笑いコンビ。
そんな感じの関係なのである。

話を戻し、その彼に飲みを誘われ、
か、かかか、金ぇ?と思ったのだが、
ここで伝家の宝刀、〇払いの登場だ!

何でも特定の加盟店には居酒屋もあり、
そこで〇払いが使用可能となっているのだ!

「店ぇ俺で決めて良いか?行こうぜ!」

よし、決まりである!
ありがとう!〇払い!!!
※筆者は特殊な訓練を受けております。
 皆様は決してマネしないで下さい。

飲みがメインの私たちは軽いつまみで済む。
そしてそのチェーン店は酒がとにかく安かった!
有難い!
一人頭2千円ちょっとで、しかも〇払い。

心優しい相棒は現金で私に半分以上の3千円をよこしてくれた。

〇払いで会計を済ましたので、実質3千円のゲットである!

…おい、莫迦、来月それ支払うんだよ。
いい加減その発想やめろぉおおおおおおおおお!!!!!

23時も回り、そろそろ開こうかと互いに家路に就いた。

帰りの電車の中、私は酷く高揚していた。
「この3千円でワンセット行ける!」と

って莫迦ぁあああああ!!!
もうホント莫迦ぁああああああああああああああ!!!!
病気ですからぁああああああああああああ!
お前、ほんっと病気ですからぁあああああああ!!!

そしていつものガールズバーの店長へ
店内の塩梅を聞こうとL〇NEを開いてみた。

「るんるん♪ るんる…、あ、あれ?
 店長、いねぇ。
 んんんんんんんんんん???」

様々な機能があるらしいが、
そもそもそんな機能を使いこなせるほど
私は文明に感化されていない。
(ただの機械音痴のオッサンなだけだろタコ!)

ブロックだかバロックだか知らんが
そんな設定をした覚えもない。

だのに、店長がいない…!?

「あっれぇえええええええええ?
 あ、ああ!」

きっと彼とのやり取りであろうそれを発見するも、
アイコンが消えている。
…何故だ。

困惑しながらも、とりあえずそれを開いてみると…

「退会しました」

「え?」

「退会しました」

「うえぇぇえええええええええええええええええええ!?」

事件?事故?携帯の紛失、故障?
深まる謎!未知の冒険!
…そして、禁断のロマンス。

とにかく名探偵野良猫はことの真相を探るべく、
夜の街へと向かうのであった!
じっちゃんの名にかけて!

…おいおっさん。
お前…
ただガールズバー行きてぇだけだろ莫迦!
ほんと莫迦!マジで莫迦!!!
もぉおおおおおおおおおおおおう!
はぁ~、天国のじいさんも泣いてるよ…
お前の煩悩が迷宮入りしろタコ!!!

てへっ♪

可愛くねぇぞ中年野良猫ジジイ!!!

幸か不幸か、私の住むマンションの帰り道に
そのガールズバーはあったのである…。

…つーか引っ越せ。飲み屋街通って帰宅なんて
自制の利かないお前には無理だ…。

そして私は店先で客引きをしている
いつものボーイのもとを訪れた。

「どうも~、お疲れ様です。」
「ああ!あつさん!お疲れ様です。」
「…あのさぁ、店長なんだけど…」

ボーイは一瞬顔を引きつらせるが、
ゆっくりとその重い口を開き、

「…はい、あのぉ、店長、…飛んじゃいました。」

そう私にゆっくりと語り掛けたのだ。
って、え?飛ぶ?飛ぶぅうううううううううううううう!!!??

同じテンションのままに私も答えた。

「え?えええええええええええええええ!?」
「…はい。」

少し間を置き、互いに一呼吸入れ、

「そっかぁ、んじゃあ、ヒゲさんが店長やってるかんじ?」
「ですねぇ。あの方が今店長やってますねぇ。」

なぞ、やり取りをした。

ヒゲさんとは、そのガールズバーの店長補佐、
副店長といった存在の人だ。

「…んじゃあ、とりあえず、フリーで。
 とびっきり可愛い子付けて!」
「はい!かしこまりました!」

ってやっぱり入るんじゃねぇかよぉおおおおおおお!!!!
帰れよ莫迦ぁあああああああああああああ!!!
頼むよ俺ぇええええええええええええええええ!!!!!

そして店内に入るや否や、ヒゲさんが私を迎えてくれた。

「おおおお!あつさん、いらっしゃい!」
「…聞いたよヒゲさぁん。」
「ほんっと参っちゃうよぉ。飛ぶのはダメだってぇ~。
 もういい大人なんだしさぁ。」
「うん、まぁそうだよなぁ。」
「ああ、ゴメンゴメン!愚痴ちゃって。
 どうぞごゆっくり楽しんでいってください。」
「…うん、ありがとうございます。」

…何とも言えない気持ちだった。
酔いも急に覚め、飲んでも酔わない。

私が人付き合いが苦手で、
友人知人が乏しいという事実には
それ相応の事由があった。

私自身が他人を拒んでいるのだ。

故に、どんな形であれ、
どこの誰であれ、
私が心を許せる相手、という意味で
店長は、とても貴重な存在であった。

女の子には気づかれぬよう、
いつも通りやり過ごす野良猫。

どれほど経ったのであろうか、

「あつさん、そろそろお時間ですが?」
ヒゲさんは私の席へと赴いた。

いつもと違い、悍ましいほどに、
緩やかな時の流れだった。

「ゴメンね、ワンセットだけど。俺けーるよ。」
「いえいえ!いつもありがとうございます!
 でもさぁ…、あっ、A子ちゃん、もう下がって大丈夫だから。」
 
ヒゲさんは敢えて女の子に席を外させた。

大きな声で話せる内容ではない。

私も気を使い、小声で彼と言葉を交わした。
そして、彼とエレベーターを降り、
別れを告げた。

「なぁんだかなぁ…。」

結句、やっちまったと言えばやっちまったのだが、
いつもと違く、自分としてはそこまで笑えない、
そんな夜深に煌めく帰り道であった。
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