第7話 1月29日 駅前のアレ

文字数 1,982文字

昨日行った自身の客観的観測から導き出したことは、

「俺は淋しい中年男」

という現実である。

当たり前だ。
世界タイトルをディレクションしたり、リードしたりしたことは
飽く迄過去の話であって、今はしがない大手の下請けでしかない。

役職も無く、彼女はおろか、胸を焦がす相手さえおらず、
挙句の果てには借金まみれで金も無い。

こんな38歳のどこか凄いのだ。

そう私はただの淋しい中年男なのだ。

…あれ、なんだろ。
…やべぇ、自分で書いてて腹立ってきた。

んなわけねぇ!俺は最高だ!
絶対ぇにめげねぇし、
胸を焦がすような恋だっていくらでもしてやる!

一発当ててタワマンでモデル崩れの天使のようなアバズレ共と
乱交パーティーしまくって取っ捕まってやる!

…いや、最後はダメだろ。
うん、クスリ、ダメ!ぜったい!

さてさて、御託はこれくらいにして本題へと入ろう。
まず生きる上で大事なことは、
今のありのままの自身を受け入れる、ということだ。

そして、その生きる、という行為の中で最も大事なこととは

「生きるということにいかに飽きないか」

ということである。

って何かの本で読んだが、これには同感だ。

俺はこんなにも恵まれているのに、
人間の性なのか、自身の矮小さなのか、
(うん、きっと矮小さであろう。
 俺はちっぽけで弱虫で淋しがり屋で甘えん坊な
 気持ちの悪い38歳中年なのだから)

どこか現状に飽きてしまっていることが
色に惑溺してしまっている、
大きな要因の一つではないかとも推測できる。

よって、俺は…

英会話教室に通う!

…いやいやいや、笑わないで。
これマジ。
…頼む、笑わないでくれ。

安いし、ひと昔前に悪名高かったとこだけれども
今は運営会社も変わって結構評判いいみたいだし、
時間も仕事帰りにちょいと寄れる感じで、
何よりも安い!

しかも無料で体験レッスンが受けられるというのだ!
無料だぞ!無料!

金の無い俺には願ったり叶ったりだ。
…しかし。

「本日はどうでしたか?」
「いやぁー!楽しかったっす!」
「それは良かった!では、いつから入学を希望で?」
「再来月っす!(きりっ」
「え?」
「え?」

ってなりそうな予感はするが…
いや、きっとなるだろうなぁ。
でもまあいっか!今は金ないし!

どこまでも図太い俺だから問題なし!
そもそも体験してみて詰まらなかったら
他の学校を探すだけで、
こうじゃなくてはいけない、
なんて拘りもないし。

しかし、なぜ俺が急に英会話教室なんだ?
と怪訝に思うだろう。
どうせ俺のことだから、金髪の姉ちゃん目当てで、
何て思われても仕方のないことなのだが、

「純粋に英語を話せるようになりたい」

という目的があるのだ!

これは今後の制作においてのワンステップであり、
詳細を語れば、自身でインディーゲーム
(会社には属せずに、個人や複数人で制作するゲームのこと)

を制作した際、自身の声で海外の人間へプレゼンを行いたい、
交渉をしたい、という野望から生じたものなのである。
(そもそも通訳雇うの高ぇし、そこらへんは吝嗇なもんで
 自分で出来ることは極力自分でやりたい)

全部が全部そうとは言わない。
だが、今のゲーム業界に、
というか企業に対し、さほど期待はしていないのだ。

上に伺い立てて、おべっか使って、稟議通して、などなど。

でもまあ、考えてもみれば当たり前の話だ。
会社の金を使って創りたいものを創らせて頂くなど、
まず有り得ない話なのだから。

また、何度も言うように、業界自体、
諸々の上層部の連中が研究という研究を怠り、
結句、向上心もないままに保身に走っている、という事実も、
制作や技術力の減退に繋がっているのだ。

それに関しては恒常性の維持、ホメオスタシス、
何て言葉があるくらいなのでどうとも思っていない。

しかしだ、俺はそんな人間たちと共に物を創りたくなんてない。
単純に、詰まらねぇからだ。
だったら自分の力で自分で創ればいい。
ただ、それだけのことなのだ。

その先だった下準備の一環として、英会話を学ぶのである。

これは珍しく純粋な気持ちであるし、
そうしようと思い立ってからというもの、
色々と滾る意識も否めない。

要するに、新しいことにチャレンジする俺、ハァハァしてきたぜ!
という精神状態なのである。

いやぁ~みなぎってきた!
体験レッスン後に興奮しちゃって、
ガールズバーに行かないように気をつけなくちゃ!

みなさんも是非新しいことにチャレンジしてみてくださいね!

…って、お前のような万年発情中年野良猫に言われたくねぇし、
そもそもみんな無駄遣いせずに自己投資してるわタコ助!

自重しろ!莫迦!
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