第31話 2月13日 想起

文字数 2,547文字

昨晩のことである。

安酒が齎す心地の良い微醺に、
私はぼんやりとした安堵を感じていた。

それはまるで、
有償の愛情でもって、
有限的に包み込んでくれる風俗嬢のそれのようであった。

そんな中、ふいに連絡が入る。

「ん?誰だ?」

馴染みのガールズバーに戻ってきた、
フタ子という女性からであった。

「出勤していてお腹空いていただけだよー!(わらい)
 今日もがんばる!(わらい)」

この日の朝送ったものに対する返信であった。

しかし、
…かっこわらい、かっこわらい。
何がそんなに面白いのか…。

そして私も再度返事をする。
「そうか、俺もこの後も仕事頑張るよ。
 あまり無理すんなよー」

嘘をついた。
もう家で、風呂にも入り終え、晩酌をしているのだというのに。

なに、理由は簡単だ。
「金がない!」その一言である。

「なんだかなぁ…。」

どう仕様もなく惨めな気持ちになった。

小遣い稼ぎで頑張っている女子大生の応援すら、
今の私には出来ないのか…。と。

はい、すとーーーーーっぷ!
ね、野良猫、すとっぷすとっぷ。
どうも、野良猫ポリスです。

…うっせぇなぁ。感傷に浸ってんだからよぉ。
どうせまた正論でもって俺の心を抉るんだろぉ?

その通ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっり!!!!!



過去をすっかり忘れちまって、
今日明日に活かせないお前にしっかりと思い出させてやる。
まあ、忘れるってことは、ある意味才能だが、
お前の場合は活かされてねぇから持ち腐れだ。

うっせぇえ!!!
なんだってんだよ!!!

岡惚れしていたキャバ嬢、奴さんと宜しくやっていた時、
今よりも給料は少なかった。
だのに、上手く遣り繰りしていたよな?

…あっ、まあ、そうだな。

うんうん。
更に、お前に家族が居た時、
あの内縁の妻だった女性に給料を全て預け、
そこから「お小遣い」という形でお前は金を貰っていた。
それで上手く遣り繰りしていた。よな?

あ、ああ!…そうだった。確かに。

いくらだった?小遣い。

1万5千円。

そう、一月1万5千円だ。
…それが今はどうだタコ助ぇええええええええええええええええ!!!

うっせぇなぁあ!今は野良なんだから仕方ねぇだろ?
淋しいし、金ありゃあ使っちまうんだから。

そうそれだよ!そこ!

…あんだよ。

野良猫、お前が今一番ダメなところは、
性格、じゃなかった、酒癖、じゃかった、女癖…

…お前遊んでんだろ?

まあ聞け、野良猫よ。
お前自身、「どうせ野良猫なんだから」と自棄になっているところだ。

だって、別に無理して彼女欲しくねぇし、
そもそも個人的な意見としてだが、
恋愛のことしか考えてねぇって、
そりゃあ相当人生損してると感じてしまう。

うんうん、お前の意見として、お前の生き方として、
それはそれでいい。
しかしだ、



「それでも淋しいぃいいいいいいいい!!!!」
だの、
「やっぱ恋がしてぇよぉおおおおおおおおおおお!!!」
とか、抜かして、
酔った勢いで刹那的な享楽に溺れてしまっているだろう?

はいはい、そうですよ…。

結句金が無くなり、
元来使うべく時には何もない状況に陥っている、という訳だ。

…で?

なんでだと思う?

知るか!んなもん!

淋しいからだよ。

…ってそのまんまじゃねぇかぁああああああああああああああ!!!

そうだ!そのまんまだ。
お前は家族を持っていた7年間の時間がそのまま止まっちまってるんだ。
だから、マイナス7で31歳としたら、
出来のいいあの後輩と同じ歳となる。



そりゃあ恋もしてぇだろうし、パートナーも欲しいだろう。
おまけにお前は沢山のモノを失っている。
まあ、自分からかなぐり捨てたと言った方が正しいか。
だから余計にその穴を埋めたくなってしまう。

ぴーちくぱーちくうるせぇなぁ!!!

いや、この際言わせてもらう。
誰か一人の女性を本気で好きになれ。

…キャバ嬢でもう懲りてるからもういいよぉ。

違う!夜の女、遊び呆けている女、貪欲な女、
遊ぶには丁度いいそんな女じゃない!



出逢いってのはめぐり逢いだ。
そう、めぐりめぐって来るものだ。



だからだ、お前はそれが来た時にすぐ動けるように、
ちゃんとした準備をしておけ。



いいか、感染症にかかっていないか。

…ん?

ノミやダニがついていないか。

…おい。

そして、避妊手術。

ってホントの野良猫じゃねぇかあああああああああああああ!!!!

あ、あれ?そうだっけ?
…まあいい。
とにかく、心の底から想える人が現れた時の下準備を
ちゃんとしておけってこと。



来月から英会話教室行くんだし、
それ以外にも様々な人たちと交流深めて、
色々な行事に顔出したり。
そんな中で、気の合う女性は出てくるんじゃねぇか?

さぁ~な…。

うん、解らない。
でもな、自分で自分を決めつけて、
自棄になって遊び呆けて、
で、何が残る?そこには虚しさしか残らねぇだろ。
今のお前がそうだろ?…空っぽさ。

…まあ、そうだな。

よしよしよし、少しは解ったか?俺よ。
どうせ俺はこんなもんなんだから、と決めつけて生きるな。
そんなの誰が決めた?お前自身だよ。
ちゃんと前向いて歩め。
未来と栄光は約束されてんだぜ?

ああ、解ったよ。そうだな!

よし!

うん!まずは家にある売れそうな物探して、
売って金作って!
フタ子に逢いにガールズバーに行ってくる!!!!!

…え?

ありがとう俺!
解ったよ!!!
ちゃんと金作って、太客として頑張るよ!!!
よぉおおおおおおおおおおおおおし!!
今日もやるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

…ほんっとこいつ、もうダメだ…
…マジで保健所送りにした方が世のため人のためだな…


ふとそんなことを想起した、
味噌汁が妙に身沁みる、
のどかな昼休みであった。

どんなだよ!マジで猛省しろ!現実から目をそらすな!

うっせぇなぁ。
それではみなさん!
午後もてきとーに頑張りましょうね!
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