第30話 2月12日 理性と本能

文字数 2,723文字

「たっだいまぁ~!!!!」





…元気に叫ぶほどに虚しさは増す!

「おかえりなさい」と言ってくれる相手がいるという、
そんなことさえ奇跡だったのだ、と、
そう思い知らされる今日この頃である。

「さぁ~てと、ひとっぷろ浴びて、晩酌でもすっかな!」

私は帰宅時、
寒空の下、さすがに玉子だけでは心許ない、と、
スーパーで鶏むね肉3枚入りを1パック、(グラム49円!神!)
いつもの激安八百屋で缶詰と韓国海苔を購った。
合計で700円(現金)ちょいの出費となるが、
毎日の弁当や健康を思えば、背に腹はかえられない。

鶏むね肉一枚を半分に、それを一日とすれば、
これで6日分の弁当になる。

それといつもの、じゃがたまにんじんきゃべつ。
うん、バッチリやんけ!!!
よしよしよし、問題なさそうだな!!!

…おい野良猫。
…お前がフタ子に飲ませたドリンク一杯1千2百円すっけどな。

あ~れぇ~?空耳かなぁ~???

…あいつ、ガブガブそれ3杯飲んでたからな。





…3杯+タックス、
これだけでお前が午前中に狂喜乱舞した、
メ〇カリから入金された売り上げ金よか高ぇからな…

うるせいうるせいうるせぇえええええええええええええいいい!!!
一貫何百円もする高級寿司よりも母親のおにぎり!
プライスレス!!!
一つ数千円もする高級焼肉より家族で食べるバイキング!
プライスレス!!!
一人何万円もする高級ディナーコースより大切な人と過ごす一時!
プライスレス!!!
そんなもんだろ世の中!!!!
値段が全てじゃねぇんだぞぉおおおおおおおおおおお!!!!

…ほぉ~う、
じゃあ言わせてもらうがな中年野良猫よ。
フタ子の高級ドリンク3杯よりも同僚との激安生ビール一杯!
プライスレス!!!
こっちじゃねぇのかタコ助!!!
お前の言ってること逆ですからぁああああああああああああああああ!!!



…さぁ~てと、お風呂お風呂♪

あ!逃げやがったなちくしょう!!!


「価値っていったいなんなんだろ…」
最近良く思うことだ。
斜陽と言っても未だに数十億円、数百億円と稼ぐスマホゲーム市場。
「ガチャ」と呼ばれるランダム性の高いギャンブルでもって、
データを販売する。
その電子データ、触れもしなければ実体もないそれに、
数十万円、数百万円とかける人々。

美味さなんてほんの数倍程度なのに、
何百倍もの値段を出してまで購う酒。
そしてそれを愛飲する人々。結句小便になるだけなのに。

そして、未来なぞ無い不毛な女性との関係、
所謂インスタンスでコンビニエンスな恋愛ごっこに、
数万円と消費する私。…記憶も曖昧なままに。

「なぁ~んだろなぁ~。
 でもまあ、食い物や生きる上で必要不可欠な物の
 有難みは解っているし、まあいっか!」

散財はしても、食べ物を粗末にすることだけはない。
それだけは揺るがない。
生きるためには、食わなければならない。
そう、どんな状況であっても生き抜いてやる。


風呂を済ませ、一人晩酌を始める私。
「ふぃ~…んめぇ~…。
 風呂上りは沁みるなぁ~。」

おい、野良猫。

ん?なんじゃい!
今まったりしてるんだからほっとけよ。

昨晩さ、フタ子から連絡きたろ?

…う、うん。

ぷぷぷっ。なんてきた?

…う~んと、
「おなか空いた~!(ひよこまーく)」

がっはっはっは!!!
はい、きましたぁああああああ!!!!
営業きましたぁあああああああああ!!!!
一斉送信きましたぁあああああああああああ!!!

…ほんとに腹減ってただけなのかもしんねぇじゃん。

んなわけあるかタコ助!!!
…で、引っかかって、ねぇよな?

…ああ。無視したよ。

よしよしよし!!!
でかした!!野良猫!!!珍しくでかした!!!

でもまあ、金無かったしね。

…はっ!?
金あったらすぐ連絡してたのか?

うん。





営業だってことくらい、
一斉送信だってことくらい解ってるよ。
でもさ、男として、
あいつが傍に居てほしい時くらい、傍に居てやりてぇじゃん。

…えーっとね、
ぜんっぜんかっこよくねぇからぁあああああああああああ!!!
スカシテルだけですからぁああああああああああああ!!!
優しさとか男らしさ、はき違えてますからぁああああああああああ!!!

うるせぇなぁちくしょう!!!!!
そんなこと解ってるよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!

解ってんなら何でそこまですんだ?
…ほんと、莫迦なのか?

ああ、莫迦でも虚けでも何でも構わねぇ。
ただ俺は、自分の心に嘘をつきたくねぇだけだ。

…うっわぁ、中年野良猫だっせ!つーかきっしょ!
やっぱ莫迦なだけだ!!!

うるせいぇ!何とでも言え!!!

でもまあ、そこまで腹くくってんならいいんじゃないの?
だって、そんなのフタ子くれぇなもんだしな。

うるせぇうるせぇ。

ああ、で、中年野良猫は返事返したのか?

うん、えっとね、
「おはよう どうした? ゴメン、昨日寝てた。」

…味気ねぇ。

そんなもんだろぉ!?
長々とコメント書くのダリィし、それなら電話するわ!

…それもそうか。
確かに、実際その時間にゃあ寝てる時もあるし、
そのことを奴さんだって知ってるだろうし、
金が無い、って真実伝えるくれぇなら、
まぁそんくれぇのが丁度いいかもな。

おう。

で、返事は何てきたんだ?

…まだ来てねぇ。





…なんだよ。



ぷぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!
ざまぁああああああああああああああああああああ!!!!
クソ莫迦中年野良猫ざまぁああああああああああああああ!!!!!

うるせいうるせいうるせぇえええええええええええええいいい!!!

なあおっさん、ちったぁ目覚ませ。
所詮商売女なんざぁ強かなもんさ。
身に沁みてんだからぁ、ちったぁ成長しろよ。

大丈夫、解ってるよ。

ま、それならいいけどぉ~。
それ以前、行きたくたってぇ2週間はいけねぇからなぁ。
なんたって金が無いんだから。

…おう。

せいぜい、こういうことが二度と起きぬよう、
猛省するんだな。
上手くやりくり出来ていりゃあ、
フタ子の居てほしい時に、居てもやれたんだぜ?

…はいはい。そんなんじゃねぇよ。
ただの太客な。…中年野良猫だよ。



理性と本能のやりとりを客観する面白さ。
そこから悟る現実とやるせなさ。

私は何とも言えない面持ちでもって、
独り、安酒を呷った。
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