第18話 2月6日 恋慕

文字数 3,556文字

激励を頂き、野良猫絶好調だぜぇええええええええええ!!!

…でも、お金はないのよね。

そんな昨晩のことである。

20時過ぎ。
いつものように残業をし、業務をこなした。

「いやぁ~。尽きた…。うん、尽きた。」
「しかしあつさん、店長さん辞めちゃったんですね。」
「おぉう。まあ仕方ねぇで済ませなくちゃならねぇが、
 淋しいよなぁ。」
「何かあったんですかねぇ?」
「う~ん、夜の商売って、何だかんだでっかいグループ会社で
 やっててさ。そんで何店舗も運営してたりするのよ。
 そのくせして薄給。おまけに保険やらなんやら、
 社会的な保証は全くないらしいしな。」
「…結構きついんですねぇ。」
「ああ。資格も経験も学歴も不問だが、
 努力や根性、野心やら野望やら、
 そんなもんが必要になってくるんじゃねぇかな。」
「大変そうですねぇ。」
「彼は人一倍真面目だったし、
 誰にも相談できず、内に色々と抱えてしまったんじゃねぇかな。」
「あつさん。」
「ん?」
「どうせ金ないんですよね?」
「お前!先輩に向かって何て言い方すんだよ!
 …まあ、そうだけど。」
「軽くいきませんか?いつもの安居酒屋でよければですけど。
 ああ、でも、そのあとのガールズバーは無しですよ。」
「あ、あああああああ、あああああああああああ!!!!!
 あざぁあああああああああああああああっす!!!」

義理堅い後輩だ。

私は後輩や女性に奢ってもらおうと、
性根が野良猫な性質なもんで
恥じらいも何も無い。
(…最低だな)

とはいえ!
やはり飲みに行けば奢るか多めに出すことを常としている。
(ほんとかぁ!?…怪しいなぁ)

ホントだ!

彼はそれをいつも覚えており、
時折こうしてご馳走をしてくれるのだ。

ありがてぇ!!!

そして私たちはいつもの行きつけの居酒屋へと向かった。

この後輩は私の紹介で今の会社へ来てくれた。
変わり者で、余り人付き合いも上手くはない。

見た目は丸く大きく厳ついので、
どうしても他人から距離を置かれがちなのだが、
仕事はでき、頼りにもなり、性根は真面目な良い奴なのだ。

そもそも人間の本質を見抜くことほど、難しいことはないだろう。

彼はそれをどこか達観していて、
それでも構わないと思っているらしい。
しかし、私の言うことだけは聞いてくれる。
数少ない有難い味方だ。

そして、彼は絶賛婚活中なのである!

いつの日か、
「婚活!?なんで、どうしたの急に!」
「何言ってるんですか!あつさんがやれって言ったんじゃないですか!」
…え~っとぉ、記憶にございません。

自分の言葉に責任を持ちたいと先述したことは何だったのであろうか…

たしかに、
「いいかい、とにかく体験こそ全てだ。モノづくりの基本だ。
 体験を体験せしめることこそ、俺たちの責務だ。」
何てカッコつけたりしているものなぁ。

やだぁ、中年野良猫可愛い♪

可愛くない莫迦!
お前行動と言動が伴っていない典型的なダメ人間だ!
もっとしっかりしろ!

…はいはい。

そして我々は居酒屋に就き、
慣れた感じでいつもの肴を注文し、
そして早々到着したビールで乾杯!

業務の内容や職場の話になる。
彼は俺が曲解していたり、
間違っているのでは?
と、そう感じたことをちゃんと伝えてくれるのだ。

その実、私は意固地にだけはならない。
相棒は酔うと却って意固地になってしまい、
「はいはい」と私がなだめるのだが、

私は正鵠を射ていれば、相手が誰であろうと、
「そうか、なるほど。」と聞き入れることが出来る。

しかし、屁理屈や揚げ足取りなどは嫌いで、
軽く聞き流す。
大口も、虚言も、愚痴も、同様に聞き流す。

そんな後輩と色々と話していると
いきなり彼は切り出した。

「ところであつさん。」
「なんじゃい。」
「あつさんは恋愛がしたいんですか?」
「はぁ!?なんだぁ?急に。」
「いえ、以前暮らしていたあの人も、キャバクラのあの人のことも、
 何か引きずっているように感じているんですよ。」
「…」
「結局、あのキャバ嬢の人って、この街でまだ働いているんですよね?」
「まぁ、らしいな。」
「じゃあ、お金あったらすぐに逢いにいけるじゃないですか。」
「う、うん。」
「逢いたいと思います?」
「う~ん、何か煮え切らない終わり方だったし、
 お金に余裕が出来ればなぁ…」
「そこです!」
「うわ!なんだよ急に!」
「そこですよ。また、恋愛したいんじゃないですか?」

大したものだ。
その実、俺は今年の夏で39歳になる。
※うっわクソジジイ!」
うるせい!

で、その日を迎えても尚彼女に対したシコリが残っていれば、
一度逢いに行こうと、そう考えていたのだ。
でも、もう恋愛はしたくないのが本音で
どちらかと言えば、ただただ、私は安らぎが欲しかった。

木漏れ日の下を、腕を組みながら、特に何を話すわけでもなく、
ただ散歩して、飯食って、酒飲んで。
一緒に寝て、一緒に起きて。
互いを尊重し支えあう。それがいいのだ。

って気持ち悪ぃからぁあああああああああああああああああ!!!
自分に酔ってる中年一番気持ち悪ぃからぁあああああああああ!!!
もうね、さんざっぱら食い散らかしてきたんだから、
野良猫のまんまでいいの!俺!
夢見るなよ俺ぇえええええええ!!!

ああああああああああああああああああああああああ!!!!

…ふぅ、話を戻そう。

「いや、恋愛は、正直したくない。」
「もしあつさんが、「俺はまだ恋愛してたいんだぁー!」って、
 そういうなら俺は止めませんよ。」
「うん。」
「でも、そうでないのなら。行くべきではありません。」
「たしかになぁ。うん、俺はぁ、恋愛よりも安らぎだよなぁ。」
「ならやめましょう!」
「だなぁ。逢うってなったら同伴で、飯奢って1万くれぇだろ。
 そっから同伴料が90分で1万8千円、更にドリング代やら
 タックスやらで、総額4万近くになるしな。」
「そうですよ!4万ですよ?4万。旅行行けますよ!」
「ああ、そうだ。そうだな!
 よし、旅行行こう!それに使おうと思ってた金、
 全部そっちに使うわ!」
「はい!そうしましょう!俺もご一緒しますよ。」

諭された。大した後輩だ。本当に大事にしたい。

でも、でも、でも、
やっぱり恋がしたぁああああああああああああああああいいいいい!!!

…莫迦。ほんと莫迦。もう一度言う、莫迦!
万年発情中年野良猫がうるせぇんだよ気持ち悪ぃなああああ!!!
芸能人でも何でもねぇんだから、
お前なんて相手にしてくれる女性なんているわけねぇだろ!!!!

てへっ♪

そもそも、お前、今年の抱負とか抜かしてた
「健全」
あの言葉はどうなった?

…は、はぁ…

おい!どうなったんだタコ助!
まだ1ヶ月も経ってねぇのに「健全」の「け」の字も
見当たらねぇし、「不健全」そのまんまじゃねぇかあああああああ!!!

…ま、まぁね♪

可愛くねぇえええええええええええええええええええ!!!!!
マジで改心しろぉおおおおおおおおおおおおお!!!

夜も更け、
「さて、そろそろ行きますか。」
「いやぁ、悪いな、ご馳走様!」
「いえいえ、俺の方こそ大分使ってもらってますしね。
 そういうのも止めれば、少しは生活楽になるんじゃないですか?」
「てへへっ♪」
「…」
「あ、そうだ。」
「なんです?」
「この後、ガールズバーは奢ってくれないの?」

ああああああああああああああああああああああ!!!
もうそういうところぉおおおおおおおおおお!!!
ほんっとダメ、ほんっと、もう一度、ほんっとそういうとこ!!!

「…あつさん。帰りますよ。」
「う~ん、いいじゃん!」
「ダメです。帰りますよ。」
「…わーったよ、わーった。」

ふぅ、あぶないあぶない。
これで良し。

しかしだ、あれ、俺一人でいけんじゃね?
と、全財産を見ながら思ったことは、
これを読んでくれてる人と、私だけの秘密♪

だめぇえええええええええええええええええええええ!!!!!
そういう考え方ほんっともうやめろ莫迦!!!
死んでもお前は治りそうもねぇな中年野良猫ぉおお!!!

全財産1600円とチョット。

金が無くてホント良かったと思った、

ああ、寒さが染みる、そんな凍てつく夜であった。

うるせい莫迦!マジで猛省だ猛省!
…はぁ~、マジでどうすっかなぁ、給料日まで。

まぁとにかく生きてるし、
昼休み後もがんばるぞい!

みなさんも、良い午後をお送りくださいね!
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