第55話 2月25日 一本のビール

文字数 1,446文字

今日は給料日。
たまには贅沢もいいものだ。
鶏むね肉以外の肉。
高級サラミやパルミジャーノ・レッジャーノ。
缶詰じゃない魚や珍味。
そしてそれらに合わせたビールやワイン。

はぁ~、最高の一時である。



…という妄想を、独り抱きかかえ、
私は最寄り駅へと到着した。

憔悴しきった心持でもって、
トボトボと家路をたどるのである。

なぁ~に辛気くせぇ面してんだよ!俺!

…て、てんめぇ。

まぁさ、ねぇものはねぇんだ。ぐっと堪えよう!
あ、あとな、良い技教えてやる。
食べたい物をだな、想像して、
それを食べた時のことを集中して思い出す。
するとあら不思議、口中にはその味がめいっぱ…

知るかぁあああああああああああああああああああ!!!!
俺は本物が食いてぇえええ!!!
いい加減に本物が食いてぇえええええええええええええ!!!!!

…いやぁ~、
いつもの居酒屋で美味い刺身は食ってるからいいじゃん。

全然記憶ねぇえええええええええええええええええ!!!!
…つーかお前よぉ、クソ莫迦中年野良猫よぉ。

あいあい。

よくもまあ10万も返済するのに土曜日あんだけ散財出来たなぁ!!!

…う~ん、まぁね!

誉めてねぇえええええええええええええええええええ!!!!
少しでもお前にアドバイスしたり、
励ましたり、どうにかしようと考えていた俺が莫迦だったぁああ!!!
お前は、俺は、病気だぁあああああああああああああああああ!!!

いやいや、ノミとかダニいえねぇし、せいびょ…

うるせぇえええええええええええええええええええ!!!!

だからさぁ~、まったくねぇって訳じゃねぇんだしさぁ、
何もそんなに落ち込まんでもいいじゃない?

…俺はな、俺自身へのご褒美を与えたいだけだ。
あすぶお姉ちゃんたちにじゃねぇ、
…俺自身にだ!!!!!

んじゃあ、何かワインでも買ってけーるか。

ダメぇええええええええええええええええええ!!!!

ん~だよぉ、欲しいったりダメったり、
忙しい奴だなぁ。

ダメダメダメ!!!
我慢!!!

正直俺は安酒でも何でもいいし、肴だって何でもいいしな。

…俺はそんなの嫌だ!!!!

ぜいたくぅ~…

それお前ぇなぁああああああああああああああああああああ!!!!
高級ドリンク飲ませまくり、
記憶無くなるまでお姉ちゃんらとあすび、
どっから見てもお前ぇなぁああああああああああああああああああああ!!!

まあ、お前は俺なんだしさ、いいじゃん!

だから記憶がねぇえんだよぉおおおおおおおおおおお!!!
…はぁ~、疲れた。
…もう、やめた。
…中年野良猫相手にすっと疲れる。

う~んむ、疲れるの語源は憑かれるだと思ったぞ。

やっぱ手前ぇじゃねぇか中年野良猫ぉおおおおおおおおおおおお!!!!


確かに、先月程金が無いわけではない。
しかし、先月のように運よく後から金が入るという見込みは無い。
だから、今月は本当に考えなければならぬのだ。

ご利用は計画的に。とは、よく言ったものだ…。
はぁ~、気を付けよう。
気を、引き締めてやってゆこう!

そんなぁ気ぃ張ってても疲れっちまうぜぇ~?

元凶は黙ってろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


私は理性と本能の狭間でもって、
ただただ手持ちが少ないという事実を受け止め、
ゆっくりと湯舟に浸かった。
しかし、それでもと、今日はビールを一本だけ、購ったのであった。
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