第13話 2月3日 麒麟

文字数 1,927文字

昨晩のことである。

休日出社をし、業務をそつなくこなし、
軽い買い物をして帰宅。

20時前のことであった。

「ただいまー」

と言っても返事はなく、
その響きが余計に伽藍堂とした部屋を
淋しく感じさせる。

しかしだ、普段テレビもスマホもいじらない、
SNSとは無縁の私にもついに楽しみが出来たのだ。
それは「大河ドラマ」である!!!

…って、つきなみー。
…お前、ただのドラマ好きの中年ってだけだろ。

いやいやいや!

そもそも大河が好き、という訳ではなく、
戦国好きだからこそ、
敢えて陳腐なアイドルやモデル崩れの
はいゆう(わらい)を起用した
あの手のモノには興味がないのだが…

今回は違った!
2007年の風林火山以来となる!

まあ、同じ戦国好きの後輩に勧められ、
一話観たらハマった、というのが正解であり、
何よりも今作の表紙、とでも言うのか
あの一枚画の美しさに魅了されたことも
大きな理由としてあったのだが。

いや~、週に一回とは言え、
待ち遠しい何かがあることは嬉しい!

小学生のころ感じた、
「早く帰って○○したい!」
という、あの感覚に似ている。

まあ、金が無くて何にも無くて、
独りで淋しいことには変わりないけどね!

「よしよしよし、
 缶詰に韓国海苔、と。
 …準備万端!」

貰いものやら何やらで、
金欠の割には安酒(貰っておいて失礼な話だが)が
常備されており、軽いつまみさえ買えば
それで夜は事足りるのだ。

缶詰(オイルサーディン)が100円、
韓国海苔が8枚入り3パックで78円、
と消費税を入れても200円程度で済むのだから有難い。

あとは激安八百屋で買っておいた
キャベツと玉ねぎを薄くスライスして、
鰹節でもまぶして味付けポン酢かけりゃ重畳重畳!

放送時間まであと少し!
早々にシャワーを浴び、酒を用意し、
テレビの前でそれを待つ。

「はじまった!」

食い入るように見る。
酒を飲む。
肴をつまむ。
そして、食い入るように見る。
酒を飲む、以下繰り返し。

「いやぁ~、楽しかったぁあああ!
 来週も楽しみだなぁああああああ!!!」





はっ!!
何だこの虚しさは!?
テンションの落差が半端ねぇ!

子供のころ感じた祭りの後の静寂。
夏休み最後の日。
旅行の帰りに観る風景。

そして、
ふいに思い出す過去の情景。
家族で過ごした、他愛のない日曜日の夜。

こ、これが虚無というやつなのかあああああ!!!!!!

…って、んなわけねぇだろタコ助。

そんなもんまやかしだ。
前見ろ前!

人間、過去の記憶を美化するものさ。
それは思い出という名の単なる虚構だ。

伝言ゲームのように在らぬ背びれ尾びれが付いてゆき、
結句、自分の思い描いた形へと歪められる。

それをどうこう言うつもりはねぇが、
そんなもの、腹の足しにもならねぇし、
足枷でしかねぇさ。

そう、私は以前、7年同棲した女性がいて、
彼女には連れ子が二人いた。

情けない話だが、
ふとした時に、どうしてもあの情景を思い返してしまうのだ。

女性の方はどうでもいい。
一番は子供たちだった。
(言い方!その言い方ダメぇえええええ!!!)

そもそも子供も動物も嫌いな私だが、
(だからぁ、言い方!言い方ダメぇえええええ!!!)
あの子たちには何かこみ上げるものがあった。

…なーんてね。

まあ、昔話はつまらない。
話していても、つまらない!

前を向いて前進あるのみ!!!

そう、俺は金持ちになって
モデル崩れの姉ちゃんたちとタワマンで
乱〇パーティーするんだあああああああああああああああ!!!!!

…おい、クズ、タコ。
だからそういうのダメだって。
言い方も動機も不純。

極めてお前の存在が不純。

…てへっ♪
まあ、俺らしいからいくね!?

って良いわけねぇだろ莫迦!!!
夢ばっか見てんな中年野良猫!!!

いい歳こいてんだから
ちったぁ世のため人様のためになること何か考えろ!

…ですよねぇー(棒読み

はぁ~、しかし、どっかに膝枕してくれる
優しいお姉ちゃん落ちてねぇかなぁ~。

それ!莫迦それ!
言い方!そういう言い方する時点でもうクズ!

だからお前彼女も出来ねぇんだよタコ助!

ちくしょうちくしょう!
何にも無いけど命だけはある!
それだけで十分だあああああああ!!!

俺は何があっても
絶対ぇ生きぬいてやるぞおおおおおおおおおおお!!!!

って、そうだ。
マジで現金ねぇのどうしよう…。

…まあ、いっか!

さぁて、今日からも一週間がんばるぞい!
てきとーにぃ~。
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