第44話 2月20日 ライ麦とジョーク

文字数 740文字

暇だしお金もないし、
家族もいないし彼女もいない。
花を入れる花瓶もないので、書くことにした。

ふと思い出したことを。

それは、
ある映画を観たときのことだった。
私は世間が騒ぐほどの衝撃を感じ得なかったのだ。

その旨を相棒や後輩と飲んだ際に話すと、

「それはきっとお前がもうそれだからなんだよ。」
「あつさん、あのまんまですからね。」

なぞ、言われた。

思い返してみれば、確かに、
あの映画はある意味自身の絵日記のような気がしてならなかった。
だから私は退屈であった。

誤解を避ければ、斜に構えているわけでも、
否定的な意見を述べている訳でも何でもない。

あの映画を観て、この世界が揺れ動いているということは、
本当にこの世界はゆっくりと狂い始めているのかもしれない。

私は過去、父と経営していた会社を倒産させ、
酒と色に溺れ、妻に愛想を尽かされ、
家もなくし、身も心も壊れてしまい、
生活保護を受けていた時期もあった。

死ぬ勇気も、誰か幸せそうな連中を踏みつけることも、
この世界を炎に包むことも、何も出来なかった。

だから笑うことにした。

私の人生なのだから。

いずれ死ぬのだから。

こんな喜劇はないのだから。

だから私は、笑ったのだ。

あれから10年。
生きていて多くのことを学んだが、まだまだ生きていたい。

この世界は残酷に、そしてゆっくりと回り続けている。
何も変わらぬようで毎日が違う。

そして私も、
この私の喜劇という名の人生を歩み続けている。

だから私はあの映画を否定するつもりも、
あの映画が大好きだと言う人を非難するつもりもない。

ただ一つ言えることは、
「まだまだそこまで捨てたもんじゃねぇぜ。」

そういうことだ。
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