第37話 声をあげるということ

文字数 1,749文字

介護士ではない、福祉に関わった経験がない人に、こんなことを言われた経験があります。


『介護は大変って話はよく聞くけど、だからと言って、介護士で団結して行政に訴えるとか、デモをするとか、そういう話はないよね。どうしても無理なら、ストライキでもすれば良いんじゃない? 介護士側も強気でいけば良いのに』


正論ですね。
これを聞いた時、私はそう思いました。

正論です。
その通りです。

実際、介護士は、それぞれが辛いとか辞めたいとか言っていますが、それをどうにかしようと団結しているという話を聞いたことがありません。

では何故、団結できないのか?

以下、私が考えた理由です。


・日々の業務が大変で、それをこなすことに精一杯になってしまう。
→待遇に不満があったとしても、仕事をしながら、プラスアルファで、さらに別の活動をできるほどの体力、気力が残っていない。



・そもそも、待遇改善を考えるような組織や組合が存在しない。
→看護や教育の場では、組合があるという話を聞いたことがあります。しかし、介護では、そういったモノは存在しません。そのため、それぞれが勝手に声をあげる他に方法がないという点。
……私の勉強不足だったらすみません。少なくとも、私は聞いたことがないです。



・ストライキなどの強力な方法が取れないということ
→全国でまとまらなくても、施設単位であれば、ある程度職員がまとまることは可能です。しかし、例えば、ストライキを起こす場合、施設を利用している御利用者の対応を誰がするのか?という問題が発生します。
自分ではご飯も作れない、トイレにも行けない、少し動けば転んでしまうような、そんな人たちがたくさんいるのです。

そういう人たちを放り出して、『待遇改善を求めるため、ストライキを起こします!』と、勝手に仕事を放棄したら、どうでしょうか?

皆さんが、その人たちの家族だったら、どう思われますか?
命に関わる仕事をしている以上、簡単に『ストライキでもすればいいじゃん』と考えるわけにはいかないのです。



・まず、まとまるための話し合いをする場がなかなか作れないという点
→介護はシフト制の不規則勤務ですので、『何かやろう!』と動き出したとしても、仲間を集める段階で、その人とシフトが合わなかったりすると、そもそも話をする場が作れないということが起こってきます。
これは、勤務内でもよく起こることです。委員会や、企画立案で特定の職員と組むことがあるのですが、シフトの都合でその人となかなか会えず、話し合いが一向に進まないということは、よくあります。

そんな状況では、団結しようにもできませんよね。




……などなど。

それぞれ、反論があるのも分かります。

例え、非難されようとも、介護の実情を訴えるため、無理にでもストライキを起こすという手段もあるでしょう。

言い訳ばかり考えていないで、無理をしてでもやらなければ、なにも変わらないというのも分かります。

ないのなら、組合をつくれば良いじゃないかと思われるでしょう。
全くもって、その通りです。

言われなくても、そんなことは分かっています。分かっていますが、

……おそらくですが、
介護士がまとまらない1番の理由は、

『そんな気力、体力がない』

だと思います。

誰かがやってくれれば応援はするけど、だからとて、自分も中心メンバーとして頑張るとか、そんなことはとてもじゃないけど無理。

今の生活を維持するだけで精一杯。


今の現場職員は、そんな感じだと思います。


言いたいことは沢山ある。
待遇改善をもっとして欲しい。
政府がもっと真面目に、きちんと取り組んで欲しい。
メディアがもっと介護現場に入ってきて欲しい。


そんな思いがありながら、日々、体力、精神ともにすり減らし、誰もが実行に移せないのです。


もしも、この声が届くなら。


メディアの方でも、
行政の方でも、
どなたでも構いません。

どこの施設、どこの介護事業所でも良いと思います。

美談を集めたり、『頑張っていること』を取材したりするのではなく、現場職員の本音を、聞いてください。


下手なドキュメンタリーを作っている暇があるのら、介護士や、福祉に関わる人間を集めて、本音を聞く番組を組んでみてください。


余程、そちらの方が面白いのではないでしょうか?


介護士は、今、疲弊し切っています。


届け介護士の声。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み