第11話 名前の価値

文字数 752文字

自分の名前を覚えてもらおうと、真剣に努力したことはありますか?
学校でも会社でも、お互いに、名前は自然と覚えるものであり、わざわざ覚えてもらうために努力することは少ないと思います。

しかし、介護の世界においては、御利用者(お年寄り)に名前を覚えてもらうことは、至難の業です。

多くのお年寄りは認知症を持っており、中には自分の子供や配偶者の名前すら忘れてしまう方もおられます。

そのため、長年連れ添ったわけでもない、昨日今日出会った介護職員の名前を覚えてくださる方は極々小数なのです。

毎日毎日、トイレ、食事、入浴といった様々なケアをしていても、相手は自分の名前すら覚えていない……。
何度自己紹介をしても『はじめまして』になってしまう……。
そんなことは日常茶飯事です。


一方で、『名前を覚えてもらえない』と常日頃から思っているため、覚えてもらえた時の喜びは、他のどの職種より大きいと感じています。

職員を呼ぶ時、お年寄りが名指しで『〇〇さん』と呼んでくれた時、介護職員は『覚えてくれてる!』と感動すら覚えます。

普通に生きていれば、名前を呼ばれることは当たり前で、それに対して、何かを思うことはないでしょう。

しかし介護職員は、他の誰よりも『名前の価値』を知っています。

お互いの名前を知り、覚えて、それを呼び合う。

これは、日々、当たり前に行なっていることではありますが、それが失われている世界もあるのです。


あなたの親や兄弟、恋人、親友が、あなたの名前を忘れてしまい、何度教えても覚えてくれない。

そんな未来を想像したことはありますか?

当たり前だからこそ、それが失われた時を想像しておらず、ショックを受けるのだと思います。

大切な人と名前を呼び合えているこの瞬間を、大切にしてください。

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