第49話 物忘れ

文字数 1,057文字

認知症と聞くと、『物忘れ』を連想する人が多いと思いますが……老化による物忘れと、認知症による物忘れの違いをきちんと説明できる人は、少ないのではないでしょうか?

単なる物忘れは、お年寄りに限った話ではありません。
日常生活の中でも、『ド忘れした!』という経験がある人は多いと思います。
例えば……

『何かを取るためにリビングに行ったのに、何を取るためにリビングに行ったのか忘れてしまった』

とか、

『大事な物だから、忘れないように玄関に準備して置いていたのに、出発する時に結局、置いてきてしまった』

とか、こんな感じでしょうか。
きっと若い方でも一度や二度、経験していることだと思います。


仮に、このような物忘れを、『老化による物忘れ』か、『認知症による物忘れ』か、どちらかに分類するのであれば、

これは、『老化による物忘れ』に分類されます。

何故かというと、『忘れてしまったことを認識できているから』です。

はじめの例では、『何かを取りに来たこと』をきちんと覚えており、忘れてしまったことを認識しています。
二つ目の例では、『玄関に大事な物を準備したこと』を覚えています。


これが、認知症になると、こうなります。


『リビングに何かを取りに来たが、リビングに来たら、何故、自分がリビングにいるのか分からなくなった』

『大事な物だから、玄関に準備して置いていたが、なぜ、大事な物を玄関に置いていたのか分からず、置いてきた。又は、置いてきたことすらも忘れてしまう』


認知症の場合、『記憶そのものが抜け落ちてしまう』ため、あとになってから思い出すことは不可能なのです。
誰かに指摘されたとしても、その記憶がないため、『そう言えばそうだった!』となることもありません。

『忘れたことを忘れている』状態ですので、単なる物忘れとは別物です。


よく、介護士の中にも、認知症の方に対して、咄嗟に『さっき〇〇と言ったじゃない!!』と言ってしまう人がいますが、はっきり言って、無意味です。
むしろ、記憶にないことで怒られたり、注意される分、『そっちがなにを言っているんだ!』と怒られてしまうこともあります。


もちろん、認知症ーーアルツハイマー病などは病気ですから、人によって様々で、程度の差はあります。認知症と診断されていても、きちんと会話が成立し、そうは見えない方もいらっしゃいます。

しかし、いわゆる、『ド忘れした!』という状態とは、全く違う状態であることは、なんとなくでも理解していただけたでしょうか?

認知症の方々を理解するひとつのきっかけになれれば幸いです。


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