第42話 御利用者本位

文字数 1,119文字

皆さんは、御利用者本位という言葉を聞いたことはありますか?

簡単に言えば、『利用者(お年寄り)の立場に立った支援を行うこと』です。

ご存知の通り、介護士は今、人手不足であり、毎日のように時間に追われ、業務に追われています。
しかし、そこで『職員が〇〇をしたいから』という理由で、介護の方法を決めてしまうと、誰のための介護なのか?分からなくなってしまいます。

そのため、『御利用者本位』という言葉が介護業界ではよく聞かれるのです。

あくまでも御利用者が最優先で、職員のことはそのあとだ、ということですね。

介護士は介護をする仕事でありますし、その考え方は至極当然と言って良いでしょう。

しかしこの考え方は、介護職にとって当たり前のことであると同時に、現場では、頭を悩ませるものでもあります。


例えば……
ある御利用者が、着替えをするのに『肌を見せたくない』『恥ずかしい』と言っていたとします。
その御利用者は、着ている服から食べ物が腐ったような気持ち悪い臭いがしており、ご家族からも、着替えさせてくれと頼まれているとします。
ところが、介護士がいくら頼んでも、『着替えたくない』『肌を見せたくない』と言い、着替えてくれません。介護士が別の場所にいても、『着替えたくない』と言います。


この場合、どうするのが『御利用者本位』だと思いますか?

御利用者本人は、恥ずかしい、着替えたくないと訴えていますが、その通りにしてしまうと、悪臭を周囲にまき散らしてしまいますし、なにより、衛生状態が良くないでしょう。

だからといって、本人の希望を無視して、無理やり着替えさせたとして、それは『御利用者本位』でしょうか?

なんでも本人の言う通りにすることが『御利用者本位』ではありませんが、本人の希望を聞き入れず、ああしろ、こうしろと言うことは、どこまでが許される範囲でしょうか?

ひょっとしたら、その『無理やり』着替えさせている現場をカメラで切り取られ、『虐待をしている』なんて言われるかもしれません。


皆さんは、どうするのが良いと思いますか?


もちろん介護士もプロですから、現場では、そういった御利用者を何人も相手にしており、いろいろな方法を考え、なんとか着替えをしていただいています。

ですが、それが本当に正しい方法なのか?
本人のためになっているのか?

それは、誰にも分かりません。

介護士は、介護士の視点から、正しいと思うことを行っているだけです。


皆さんは、一般的に考えれば間違っているかもしれないけど、どうしても譲れないこだわりはありますか?
それを、一般的な考えのもと、こうしろ、ああしろと言われたらどうですか?


なにが、正しいのか?
考えれば考えるほど、分からなくなりますね。



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