第83話 鬼みたいな顔
文字数 1,543文字
その後は一方的な展開だった。古代種のドラゴンの参戦で天使たちは既に総崩れとなっており、加えて天使たちを率いていたミネルがクアトロによって葬り去られたために天使たちは早々に撤退を開始してしまった。
魔人たちもバスガル候を始めとした魔族たちに急襲をされて、態勢を立て直すことができないままに撤退。さらにその背後から遅れて参戦してきたマルネロの特大魔法を放たれて屍累々の有様だった。
全ての天使と魔人が撤退した後、バスガル候がクアトロの下へやってきた。やはり、バスガル候の右手首から先は消え失せていた。
どんな事情で失ったのかは知らないが、利き手ではない片手で魔人たちを相手にしてあの大剣を自在に操れるのだから、やはり化け物といっていい爺さんだとクアトロは改めて思う。
「クアトロ、無事か?」
「助かったぞ、バスガル候」
クアトロが素直に礼を述べるとパスガルが豪快に破顔した。
「ほれ、この右手の仇をとったまでだ。それよりもクアトロのところにちびっ子がいただろう。姿が見えないが、どこにいるのだ? ちと、この右手が治らんものかと思って……」
バスガルはそこまで言うと、表情を曇らせているクアトロの様子に気づいたようだった。バスガルがクアトロの横にいたマルネロに視線を向けると、マルネロが無言で赤い頭を左右に振る。それでバスガルは全てを理解したようだった。
「……そうか。相手はあの天使どもか?」
クアトロが無言で頷く。
「そうか。ならば、これぐらいでは気が収まらんな。軍備を整えたら天上に攻め入るぞ。いい機会だ。魔族は天使を従えることにする。おい! グリフォード、どこだ? 急ぎ軍備を整えるぞ。グリフォード!」
勝手に天使を従えるなどと決めつけると、バスガルは声高に息子の名を呼びながら将兵の中に消えて行った。
「……クアトロ、大丈夫?」
マルネロが黙したままのクアトロに声をかけた。クアトロは頷いたものの自責の念に囚われていた。何故あの時、スタシアナやエリンを天上に行かせてしまったのだろうかと。
現状、こちら側の立ち位置を考えれば、スタシアナやエリンが天上の天使たちに敵視されるのは当然だった。
「クアトロ……」
奥歯を噛み締めるクアトロにマルネロもかける言葉がないようだった。
その時、クアトロとマルネロの真正面にある空間が揺らぎ始めた。やがて揺らぎの中からはいつもの素っ頓狂な声が聞こえてくる。
「あれえ? クアトロ様、どうしたんですか。珍しく深刻な顔をしてますね。お腹でも痛いんですか?」
「トルネオ……」
新手と思っていたのかマルネロが少しだけ安堵の声を出す。
「それにしても凄い魔族の数ですね。この感じでは天使も魔人も撃退しちゃったんでしょうか? いやあ、急いで駆けつけたのに意味がなかったようですね」
トルネオはどこまでも能天気にそんなことを訊いてくる。
「……トルネオ、スタシアナやエリンと一緒だったんじゃないのか?」
クアトロの問いかけにトルネオは大きく頷いた。
「ええ、一緒でしたよ。それが聞いてくださいよ、クアトロ様。天上でミネルとかいう鬼みたいな顔をした天使たちに囲まれてしまいましてね。いやあ、やっぱり、わたしと天使は相性が悪いですね。どうにもならないので、わたしだけは何とか逃げ出した次第で……へ?」
そこまで言うとトルネオが、びくっと肩を震わせて二歩、三歩と後ずさりを始める。
「あれ? クアトロ様もマルネロさんも凄く恐い顔ですよ。何だか鬼みたいな顔になっていますよ。それにクアトロ様は剣を抜いてるし、マルネロさんの手の平には炎の玉があるような。嫌ですよ。そんな冗談は……」
「トルネオ、貴様、スタシアナたちがどうなったと……」
クアトロが怒気を発しながら一歩を踏み出す。その時だった。
魔人たちもバスガル候を始めとした魔族たちに急襲をされて、態勢を立て直すことができないままに撤退。さらにその背後から遅れて参戦してきたマルネロの特大魔法を放たれて屍累々の有様だった。
全ての天使と魔人が撤退した後、バスガル候がクアトロの下へやってきた。やはり、バスガル候の右手首から先は消え失せていた。
どんな事情で失ったのかは知らないが、利き手ではない片手で魔人たちを相手にしてあの大剣を自在に操れるのだから、やはり化け物といっていい爺さんだとクアトロは改めて思う。
「クアトロ、無事か?」
「助かったぞ、バスガル候」
クアトロが素直に礼を述べるとパスガルが豪快に破顔した。
「ほれ、この右手の仇をとったまでだ。それよりもクアトロのところにちびっ子がいただろう。姿が見えないが、どこにいるのだ? ちと、この右手が治らんものかと思って……」
バスガルはそこまで言うと、表情を曇らせているクアトロの様子に気づいたようだった。バスガルがクアトロの横にいたマルネロに視線を向けると、マルネロが無言で赤い頭を左右に振る。それでバスガルは全てを理解したようだった。
「……そうか。相手はあの天使どもか?」
クアトロが無言で頷く。
「そうか。ならば、これぐらいでは気が収まらんな。軍備を整えたら天上に攻め入るぞ。いい機会だ。魔族は天使を従えることにする。おい! グリフォード、どこだ? 急ぎ軍備を整えるぞ。グリフォード!」
勝手に天使を従えるなどと決めつけると、バスガルは声高に息子の名を呼びながら将兵の中に消えて行った。
「……クアトロ、大丈夫?」
マルネロが黙したままのクアトロに声をかけた。クアトロは頷いたものの自責の念に囚われていた。何故あの時、スタシアナやエリンを天上に行かせてしまったのだろうかと。
現状、こちら側の立ち位置を考えれば、スタシアナやエリンが天上の天使たちに敵視されるのは当然だった。
「クアトロ……」
奥歯を噛み締めるクアトロにマルネロもかける言葉がないようだった。
その時、クアトロとマルネロの真正面にある空間が揺らぎ始めた。やがて揺らぎの中からはいつもの素っ頓狂な声が聞こえてくる。
「あれえ? クアトロ様、どうしたんですか。珍しく深刻な顔をしてますね。お腹でも痛いんですか?」
「トルネオ……」
新手と思っていたのかマルネロが少しだけ安堵の声を出す。
「それにしても凄い魔族の数ですね。この感じでは天使も魔人も撃退しちゃったんでしょうか? いやあ、急いで駆けつけたのに意味がなかったようですね」
トルネオはどこまでも能天気にそんなことを訊いてくる。
「……トルネオ、スタシアナやエリンと一緒だったんじゃないのか?」
クアトロの問いかけにトルネオは大きく頷いた。
「ええ、一緒でしたよ。それが聞いてくださいよ、クアトロ様。天上でミネルとかいう鬼みたいな顔をした天使たちに囲まれてしまいましてね。いやあ、やっぱり、わたしと天使は相性が悪いですね。どうにもならないので、わたしだけは何とか逃げ出した次第で……へ?」
そこまで言うとトルネオが、びくっと肩を震わせて二歩、三歩と後ずさりを始める。
「あれ? クアトロ様もマルネロさんも凄く恐い顔ですよ。何だか鬼みたいな顔になっていますよ。それにクアトロ様は剣を抜いてるし、マルネロさんの手の平には炎の玉があるような。嫌ですよ。そんな冗談は……」
「トルネオ、貴様、スタシアナたちがどうなったと……」
クアトロが怒気を発しながら一歩を踏み出す。その時だった。