第17話 野遊び
文字数 2,076文字
確かに気持ちがよいとクアトロは思った。日差しは柔らかくて、景色は丘一面が新緑に包まれていた。新鮮な空気を吸い込むと疲れも癒されてくる気がしてくる。マルネロがいたら、あんたのどこが疲れているのよと言われそうだったが。
もう一つ、クアトロの心を浮き立たせるものがあった。隣には風に揺れる明るい栗毛色の髪を押さえている美しい少女がいるのだ。ただ、その隣には難しそうな顔をしている自称護衛騎士のダースもいるのだったが。
「ん、この辺りが景色も良さそうですね。お昼にしましょうか」
アストリアがそう言って微笑む。
「あ、ああ、そうだな。そうするか」
その微笑みに一瞬、見惚れていたクアトロは少し顔を上気させて頷いた。
「ダース卿もこちらに来て下さいね」
「はい」
アストリアに促されてダースが近づいて来る。ダースの顔が少しだけ強張っているようにクアトロには思えた。クアトロもそうなのだったが、ダースもどのような顔をすればよいのか分からないといったところなのだろう。
「お二人共、お座り下さい」
アストリアにそう言われて、クアトロもダースも無言で頷きながら、新緑の上に腰を下ろした。
腰を下ろした三人の間を心地良い風が駆け抜けて行く。隣に座っているダースがいなければ、アストリアと二人で何てよい日なのかと感じるところなのだがとクアトロは思う。そして結局、ダースが邪魔なのだと結論づけるクアトロだった。
アストリアが、甲斐甲斐しく食べ物を敷物の上に並べ始めた。クアトロも手伝おうと手を伸ばしたのだが、アストリアにやんわりと拒否された。こういう時、殿方は大人しく待っていればよいとのことらしい。
クアトロは手持ちぶさたになり、何となくダースに視線を向けた。ダースも同じだったようで、クアトロに視線を向けて来た。二人の視線が合い、気まずさを覚えて互いにすぐさま視線を逸らす。
「……何かお二人、思春期の男女みたいになっていますよ」
アストリアが笑いを堪えるように言う。
「アストリア様、からかわないで下さい」
ダースが憮然とした顔でそう言うと、黒色の髪を片手でぐしゃぐしゃと掻き回した。それを見てアストリアは小さく笑って口を開いた。
「さあ、準備ができましたよ。いただきましょうか」
クアトロとダースは返事をして、アストリアが並べてくれた食事に手を伸ばす。
「うまいな」
クアトロは一口だけ食べて思わず呟いた。隣のダースも同意見なようで、うまいと言いながら食べている。
美人で料理も上手となれば怖いものなしだなと思って、クアトロがアストリアに目を向けるとアストリアは恥ずかしそうにして俯いた。
「おいしいと褒めてくれるのは嬉しいのですが、実は作ったのは私ではなくて、マルネロさんなんです」
「マルネロが?」
意外な名前が出てきてクアトロが思わず聞き返す。
「はい。あっ、でも私が作った物もありますよ。これですけど……」
アストリアが恥ずかしそうにして指をさしたものは……切ったパンに食材を乗せている物だった。
「……そ、そうか。でも、これもうまそうだな」
「アストリア様がお作りになられた物だ。うまいに決まっている」
ダースがよく分からない理由でそう言うと横から手を伸ばして、それを口に入れる。
「うん。おいしいです」
ダースの言葉に負けじとクアトロも手を伸ばして、それを口に入れる。
「ん、うまいぞ」
その二人の様子にアストリアは耳まで赤くして縮こまる。
「そんなに褒めないで下さい。パンに食材を載せただけなのですから」
「そ、そんなことはないぞ。何というか、何だ、そう、気持ちが感じられるんだ。な、ダース、そうだよな」
クアトロは慌ててダースに同意を求める。
「そ、そうですね。アストリア様の優しさが感じられます」
「もういい加減にして下さい。そこまで言われてしまうと、馬鹿にされている気がしてきます」
「そ、そうか。でも、本当においしかったぞ」
クアトロの言葉にダースも同意を示して頷いている。
「ありがとうございます。それにしてもマルネロさんは、とてもお料理が上手だったんですよ」
「それは初耳だな。意外と言えば意外だが」
クアトロはマルネロとはそこそこの長い付き合いとなるのだが、料理が上手などとは聞いたことがなかった。ましてや、マルネロが料理をしている姿を見たこともないし想像もつかない。クアトロの中にあるマルネロは、爆炎魔法を楽し気にぶっ放している姿だけだ。
「マルネロさん、調理の火加減が抜群に上手なのですよ」
「そ、そうか。マルネロは炎を扱うのが得意だからな」
「クアトロさん、魔法の話ではないですよ。火加減の話なのですからね」
アストリアが少しだけむくれる。クアトロは少しだけむくれたアストリアの顔も可愛いと思うのだった。顔の造形が整っている大人びた美しい顔立ちをアストリアはしているのだが、むくれたりすると、まだ子供らしさが顔を覗かせて非常に可愛らしくなるのだった。
こんなことを言うとまた皆にろりこん大魔王などと言われてしまうだろうから、今の感想は自分の胸の奥に秘めておこうとクアトロは思う。
もう一つ、クアトロの心を浮き立たせるものがあった。隣には風に揺れる明るい栗毛色の髪を押さえている美しい少女がいるのだ。ただ、その隣には難しそうな顔をしている自称護衛騎士のダースもいるのだったが。
「ん、この辺りが景色も良さそうですね。お昼にしましょうか」
アストリアがそう言って微笑む。
「あ、ああ、そうだな。そうするか」
その微笑みに一瞬、見惚れていたクアトロは少し顔を上気させて頷いた。
「ダース卿もこちらに来て下さいね」
「はい」
アストリアに促されてダースが近づいて来る。ダースの顔が少しだけ強張っているようにクアトロには思えた。クアトロもそうなのだったが、ダースもどのような顔をすればよいのか分からないといったところなのだろう。
「お二人共、お座り下さい」
アストリアにそう言われて、クアトロもダースも無言で頷きながら、新緑の上に腰を下ろした。
腰を下ろした三人の間を心地良い風が駆け抜けて行く。隣に座っているダースがいなければ、アストリアと二人で何てよい日なのかと感じるところなのだがとクアトロは思う。そして結局、ダースが邪魔なのだと結論づけるクアトロだった。
アストリアが、甲斐甲斐しく食べ物を敷物の上に並べ始めた。クアトロも手伝おうと手を伸ばしたのだが、アストリアにやんわりと拒否された。こういう時、殿方は大人しく待っていればよいとのことらしい。
クアトロは手持ちぶさたになり、何となくダースに視線を向けた。ダースも同じだったようで、クアトロに視線を向けて来た。二人の視線が合い、気まずさを覚えて互いにすぐさま視線を逸らす。
「……何かお二人、思春期の男女みたいになっていますよ」
アストリアが笑いを堪えるように言う。
「アストリア様、からかわないで下さい」
ダースが憮然とした顔でそう言うと、黒色の髪を片手でぐしゃぐしゃと掻き回した。それを見てアストリアは小さく笑って口を開いた。
「さあ、準備ができましたよ。いただきましょうか」
クアトロとダースは返事をして、アストリアが並べてくれた食事に手を伸ばす。
「うまいな」
クアトロは一口だけ食べて思わず呟いた。隣のダースも同意見なようで、うまいと言いながら食べている。
美人で料理も上手となれば怖いものなしだなと思って、クアトロがアストリアに目を向けるとアストリアは恥ずかしそうにして俯いた。
「おいしいと褒めてくれるのは嬉しいのですが、実は作ったのは私ではなくて、マルネロさんなんです」
「マルネロが?」
意外な名前が出てきてクアトロが思わず聞き返す。
「はい。あっ、でも私が作った物もありますよ。これですけど……」
アストリアが恥ずかしそうにして指をさしたものは……切ったパンに食材を乗せている物だった。
「……そ、そうか。でも、これもうまそうだな」
「アストリア様がお作りになられた物だ。うまいに決まっている」
ダースがよく分からない理由でそう言うと横から手を伸ばして、それを口に入れる。
「うん。おいしいです」
ダースの言葉に負けじとクアトロも手を伸ばして、それを口に入れる。
「ん、うまいぞ」
その二人の様子にアストリアは耳まで赤くして縮こまる。
「そんなに褒めないで下さい。パンに食材を載せただけなのですから」
「そ、そんなことはないぞ。何というか、何だ、そう、気持ちが感じられるんだ。な、ダース、そうだよな」
クアトロは慌ててダースに同意を求める。
「そ、そうですね。アストリア様の優しさが感じられます」
「もういい加減にして下さい。そこまで言われてしまうと、馬鹿にされている気がしてきます」
「そ、そうか。でも、本当においしかったぞ」
クアトロの言葉にダースも同意を示して頷いている。
「ありがとうございます。それにしてもマルネロさんは、とてもお料理が上手だったんですよ」
「それは初耳だな。意外と言えば意外だが」
クアトロはマルネロとはそこそこの長い付き合いとなるのだが、料理が上手などとは聞いたことがなかった。ましてや、マルネロが料理をしている姿を見たこともないし想像もつかない。クアトロの中にあるマルネロは、爆炎魔法を楽し気にぶっ放している姿だけだ。
「マルネロさん、調理の火加減が抜群に上手なのですよ」
「そ、そうか。マルネロは炎を扱うのが得意だからな」
「クアトロさん、魔法の話ではないですよ。火加減の話なのですからね」
アストリアが少しだけむくれる。クアトロは少しだけむくれたアストリアの顔も可愛いと思うのだった。顔の造形が整っている大人びた美しい顔立ちをアストリアはしているのだが、むくれたりすると、まだ子供らしさが顔を覗かせて非常に可愛らしくなるのだった。
こんなことを言うとまた皆にろりこん大魔王などと言われてしまうだろうから、今の感想は自分の胸の奥に秘めておこうとクアトロは思う。