第80話 根絶やし
文字数 2,040文字
だけれども、果たして自分は守られる価値があるのだろうか。クアトロの花嫁という立場でしかない自分に……。
「おい、大丈夫か、アストリア?」
……え?
クアトロの急な問いかけにアストリアは不思議そうな顔をする。
「お腹でも痛いのか? むーといった顔をしているぞ?」
「もう、また女の子にそんなことを訊いて。お腹なんて痛くありません! 考えているんです」
いつだったかこれと同じような会話をしたような気がする。アストリアはそう思いながら苦笑した。
「そ、そうか。ならば安心だ」
クアトロはアストリアが怒り出したとでも思ったのか、少しだけ焦る素振りを見せていた。そんなクアトロを可愛らしく感じてアストリアは更に苦笑を浮かべた。
「……アストリア、何も心配する必要はないぞ。お前を連れ出した時から、俺はお前を守ると決めた。ただそれだけだ」
「……はい」
アストリアは頷きながら、果たして自分には守られるような価値があるのだろうかと再び考えるのだった。
「……来たようですね」
翌朝、ヴァンエディオが呟くように言う。
「やれやれだな。魔人、天使どもは真面目だな」
エネギオスがゆっくりと大剣を手にして立ち上がった。
「アストリア、行ってくるわね」
マルネロもそう言ってアストリアに声をかけると皆に続いて立ち上がった。昨日の夜まで魔力が底をつきかけて、へろへろだったはずなのに恐るべき回復力だった。爆乳魔導師の異名を持つだけのことはあるなとクアトロは思う。
「ダース、アストリアを頼むぞ」
クアトロの言葉にダースが無言で頷いた。
「皆さん、気をつけて。決して無茶はしないで下さい」
アストリアの言葉に皆がそれぞれの表情で頷く。
「アストリア、心配するな。ちょっと行ってくるぞ」
クアトロは少しだけ微笑むと足を進めた。続いてエネギオス、ヴァンエディオ、そしてマルネロが付き従う。
「それにしてもスタシアナは何をしてるのかしら。トルネオやエリンと天上に行ったんじゃなかったの? まったく、どこで遊んでいるんだか。肝心な時にいないんだから」
マルネロの言葉にクアトロは苦笑する。ただ確かに天上に行ったきりなのは気になるところではある。天上ではスタシアナもエリンも天使たちにとって同族ではなくて、堕天使として排除すべき元同族となっているかもしれないのだ。
しかも一緒にいるのがトルネオだ。あのおっさん骸骨が天上で何かの役に立つとも思えない。
そんな状況にふと一抹の不安を覚えるクアトロだった。
クアトロたちが神殿の外に出ると空は神々しい光で満ちていた。これも神とやらの威光というものなのだろうかとクアトロは思う。
その光と共に天使たちが降りてくる。その数は数百では収まらないようだった。魔族数人を相手に大騒ぎだなとも思ったりもしたが、それだけ天使たちが大切にしている大事な物がこの神殿にあるということなのだろう。
「……何か……数が多いわね」
隣りでマルネロが呟いた。流石に顔が引き攣っているのかもしれない。
「おい、エネギオス、出番だぞ。突っ込んで行け。心配するな。援護は俺とマルネロで……」
「……嫌だ」
エネギオスが即座に反論する。
まあ、それはそうだろうと思う。あんな天使の大群に一人で突っ込むのは死にに行くようなものだ。
ならばどうするか?
マルネロに特大の魔法をぶっ放させて……。
クアトロがそこまで考えた時だった。天使たちのほぼ中央にいた薄い茶色の髪をした天使が口を開いた。
「不遜な魔族の王とは貴様か? 我ら同胞をも誑かしおって……」
「同胞……スタシアナやエリンのことか。おい、スタシアナたちはどうした?」
「質問に質問を返すな。低脳な魔族が!」
その天使は怒りを露わにした。
「低能呼ばわりされるのは心外ですね。こちらもあなた方の質問に答える義理はないのですから。それより私も気になりますね。スタシアナさんたちはどうされたのですか?」
ヴァンエディオがそう割って入ってきた。ヴァンエディオの言葉に天使は少しだけ笑った。嫌な笑い方だった。それを見たクアトロの背筋に嫌な予感が走る。
「……ここに」
その言葉に合わせてどさっと目の前の大地に投げ出された物があった。
いや、物ではなかった。金色の髪をした少女。その背にはクアトロがよく見知った漆黒の翼がある。
続いてもう一つ、大地に投げ出された。薄い灰色の髪をした少女。その背には白い翼がある。
大地に投げ出された二人の少女。両者共に胸から下の体がなく、上半身だけがまるで千切れてしまった人形のように、大地で無造作に横たわっていた。
マルネロの息を飲む気配がある。
エネギオスが無言で大剣を引き抜く。
ヴァンエディオの両目が細くなる。
想像したこともない光景だった。
信じられない光景だった。
クアトロの中で様々な感情が瞬時に焼き切れた気がする。同時に脳裏でぷすぷすと泡立つものを感じる。
「……貴様ら天使は今、ここで根絶やしだ」
長剣を抜き払ったクアトロが低い声でそう呟いた。
「おい、大丈夫か、アストリア?」
……え?
クアトロの急な問いかけにアストリアは不思議そうな顔をする。
「お腹でも痛いのか? むーといった顔をしているぞ?」
「もう、また女の子にそんなことを訊いて。お腹なんて痛くありません! 考えているんです」
いつだったかこれと同じような会話をしたような気がする。アストリアはそう思いながら苦笑した。
「そ、そうか。ならば安心だ」
クアトロはアストリアが怒り出したとでも思ったのか、少しだけ焦る素振りを見せていた。そんなクアトロを可愛らしく感じてアストリアは更に苦笑を浮かべた。
「……アストリア、何も心配する必要はないぞ。お前を連れ出した時から、俺はお前を守ると決めた。ただそれだけだ」
「……はい」
アストリアは頷きながら、果たして自分には守られるような価値があるのだろうかと再び考えるのだった。
「……来たようですね」
翌朝、ヴァンエディオが呟くように言う。
「やれやれだな。魔人、天使どもは真面目だな」
エネギオスがゆっくりと大剣を手にして立ち上がった。
「アストリア、行ってくるわね」
マルネロもそう言ってアストリアに声をかけると皆に続いて立ち上がった。昨日の夜まで魔力が底をつきかけて、へろへろだったはずなのに恐るべき回復力だった。爆乳魔導師の異名を持つだけのことはあるなとクアトロは思う。
「ダース、アストリアを頼むぞ」
クアトロの言葉にダースが無言で頷いた。
「皆さん、気をつけて。決して無茶はしないで下さい」
アストリアの言葉に皆がそれぞれの表情で頷く。
「アストリア、心配するな。ちょっと行ってくるぞ」
クアトロは少しだけ微笑むと足を進めた。続いてエネギオス、ヴァンエディオ、そしてマルネロが付き従う。
「それにしてもスタシアナは何をしてるのかしら。トルネオやエリンと天上に行ったんじゃなかったの? まったく、どこで遊んでいるんだか。肝心な時にいないんだから」
マルネロの言葉にクアトロは苦笑する。ただ確かに天上に行ったきりなのは気になるところではある。天上ではスタシアナもエリンも天使たちにとって同族ではなくて、堕天使として排除すべき元同族となっているかもしれないのだ。
しかも一緒にいるのがトルネオだ。あのおっさん骸骨が天上で何かの役に立つとも思えない。
そんな状況にふと一抹の不安を覚えるクアトロだった。
クアトロたちが神殿の外に出ると空は神々しい光で満ちていた。これも神とやらの威光というものなのだろうかとクアトロは思う。
その光と共に天使たちが降りてくる。その数は数百では収まらないようだった。魔族数人を相手に大騒ぎだなとも思ったりもしたが、それだけ天使たちが大切にしている大事な物がこの神殿にあるということなのだろう。
「……何か……数が多いわね」
隣りでマルネロが呟いた。流石に顔が引き攣っているのかもしれない。
「おい、エネギオス、出番だぞ。突っ込んで行け。心配するな。援護は俺とマルネロで……」
「……嫌だ」
エネギオスが即座に反論する。
まあ、それはそうだろうと思う。あんな天使の大群に一人で突っ込むのは死にに行くようなものだ。
ならばどうするか?
マルネロに特大の魔法をぶっ放させて……。
クアトロがそこまで考えた時だった。天使たちのほぼ中央にいた薄い茶色の髪をした天使が口を開いた。
「不遜な魔族の王とは貴様か? 我ら同胞をも誑かしおって……」
「同胞……スタシアナやエリンのことか。おい、スタシアナたちはどうした?」
「質問に質問を返すな。低脳な魔族が!」
その天使は怒りを露わにした。
「低能呼ばわりされるのは心外ですね。こちらもあなた方の質問に答える義理はないのですから。それより私も気になりますね。スタシアナさんたちはどうされたのですか?」
ヴァンエディオがそう割って入ってきた。ヴァンエディオの言葉に天使は少しだけ笑った。嫌な笑い方だった。それを見たクアトロの背筋に嫌な予感が走る。
「……ここに」
その言葉に合わせてどさっと目の前の大地に投げ出された物があった。
いや、物ではなかった。金色の髪をした少女。その背にはクアトロがよく見知った漆黒の翼がある。
続いてもう一つ、大地に投げ出された。薄い灰色の髪をした少女。その背には白い翼がある。
大地に投げ出された二人の少女。両者共に胸から下の体がなく、上半身だけがまるで千切れてしまった人形のように、大地で無造作に横たわっていた。
マルネロの息を飲む気配がある。
エネギオスが無言で大剣を引き抜く。
ヴァンエディオの両目が細くなる。
想像したこともない光景だった。
信じられない光景だった。
クアトロの中で様々な感情が瞬時に焼き切れた気がする。同時に脳裏でぷすぷすと泡立つものを感じる。
「……貴様ら天使は今、ここで根絶やしだ」
長剣を抜き払ったクアトロが低い声でそう呟いた。