第52話 叔父貴、お久しぶりです
文字数 2,040文字
流石に約二万の将兵がいきなり問答無用で襲ってくることはないとは思うが、正直いい気分ではない。それにバスガル候と共に二万の将兵が、仮に襲ってきたとしたら逃げ切れるだろうか。そんなことはないとは思いつつも、クアトロ自身に一抹の不安があるのも事実だった。
そんなことを考えつつ、クアトロたちが仁王立ちとなっているバスガル候の前に進み出るとバスガル候が口を開いた。
「久しいな、クアトロ」
体も大きければ声もやたらに大きい。隣でアストリアが目を白黒させている。全く持って元気な爺さんだとクアトロは思う。
「バスガル候、この兵の数、我らが王の御前では不敬かと……」
ヴァンエディオが呟くように言う。
「ヴァンエディオか。相変わらず可愛げがない。王国からの離脱を表明した以上、わしはクアトロの臣下ではない」
「我々の王であることには変わりがありません。であれば、一定の敬意は持って頂きますよ」
「……ほう、嫌だと言ったら?」
バスガル候の返答を聞いてヴァンエディオの両目が細くなる。
「止めろ、ヴァンエディオ。俺は気にしない」
これでは互いに話にならないと思いながら、クアトロが止めに入る。
「……叔父貴、お久しぶりです」
エネギオスがそう言って頭を軽く下げた。
……叔父貴ってどこぞのヤ○ザかよとクアトロは思う。
「エネギオスか。お前も久しいな」
「ここは俺の顔に免じて引いちゃくれねえか?」
益々どこぞのヤ○ザの会話になってきたとクアトロは思う。
「我が弟の弟弟子の弟子にあたるお前の言葉でも、今回は聞き入られぬな」
……弟だらけで最早、関係性がよくわからない。
「マルネロ、おい、マルネロ!」
クアトロは背後にいるマルネロに何とかしろと声をかけた。マルネロが渋々といった感じで前に進み出た。
「えへっ、は、はーい、バスガル候」
マルネロが似合わない言葉を使ってバスガル候に片手を振った。
「おおう、これはこれはマルネロ殿!」
マルネロに声をかけられるとバスガル候は急に相好を崩す。
……何だ、この爺さんとクアトロは心の中で呟いた。
「マルネロ殿もいらしていたとは」
バスガル候はマルネロを大のお気に入りにしているとは聞いていたが、ここまでとは……。
であれば……。
「……争っちゃいやあんとか何とか言え」
マルネロの背後でクアトロが小声で言う。途端にマルネロの片頬が引き攣る。
「バスガル候、魔族同士で争うのは止めましょう。ヴァンエディオやエネギオスも謝罪に伺ったのですよ」
「じゃないとマルネロ、困っちゃうのおって言え」
クアトロが再び背後で呟く。何か面白くなってきた。マルネロの両頬が引き攣る。
「でなければ、私が困ります。私はバスガル候とは争いたくはないのです」
「違うぞ! 腰をくねらせて、マルネロ、困っちゃうのおだ!」
「あんたねえ、いい加減にしなさいよ!」
マルネロが怒りの表情でクアトロを振り返った。すると、バスガル候が慌てたように口を開く。
「ま、待ってくれ、マルネロ殿。あなたを困らせるつもりなどはないのだ……」
何をどう勘違いしたのか、バスガル候がそんなことを言い出した。よく分からないが、エネギオスと同じで頭が脳筋だからだろうとクアトロは結論づける。
「父上、マルネロ殿をあまり困らせるのも得策ではないかと」
ここで今まで黙っていた息子のグリフォードが切り込んできた。いいぞ、いいぞとクアトロは思う。
バスガル候が難しい顔で黙り込む。マルネロが困るぐらいで何を悩んでいるのだろうかとクアトロは思ったが口には出さない。
「よし、分かった。ここはわしが矛を収めよう。マルネロ殿を困らせるのはわしの本意ではないからな」
……ちょっと何言ってるのか分からない。
クアトロはそう考えつつも、どうやら事は収まったのだと思う。
「ところでクアトロ……」
これまでのことがなかったかの如く、バスガル候がクアトロを普通に呼びかける。
「……そちらのお嬢さんは? どうやら人族のようだが」
まあ、もっともな質問だなと思う。
「花嫁のアストリアだ」
「……ほう、噂の……」
だから何の噂なのだとクアトロは思う。
「バスガル、あまり近づくなよ。アストリアが怯える」
「クアトロさん、失礼ですよ。私は怖くなどはないですよ」
アストリアにやんわりと嗜められる。嗜められてしゅんとしたクアトロを見て、バスガルが豪快に笑う。
「わしも一目置く魔族の王を一言で意気消沈させるとは、なかなかの御仁のようで。いやあ、愉快、愉快」
何だかよく分からないが、とにかくアストリアは気に入られたらしい。
「だがこのお嬢さん、鍵となる人族だぞ」
「ほう、バスガル候、何かご存知のようで……」
そう訊いてきたヴァンエディオにバスガル候が視線を向けた。
「嫌だ、お前には教えてやらん」
どうやらバスガル候はヴァンエディオが嫌いらしい。
「父上、それは余りにも子供じみているかと……」
グリフォードが諌めようとするが、バスガル候にはそれを聞き入れるつもりは微塵もないようであった。
そんなことを考えつつ、クアトロたちが仁王立ちとなっているバスガル候の前に進み出るとバスガル候が口を開いた。
「久しいな、クアトロ」
体も大きければ声もやたらに大きい。隣でアストリアが目を白黒させている。全く持って元気な爺さんだとクアトロは思う。
「バスガル候、この兵の数、我らが王の御前では不敬かと……」
ヴァンエディオが呟くように言う。
「ヴァンエディオか。相変わらず可愛げがない。王国からの離脱を表明した以上、わしはクアトロの臣下ではない」
「我々の王であることには変わりがありません。であれば、一定の敬意は持って頂きますよ」
「……ほう、嫌だと言ったら?」
バスガル候の返答を聞いてヴァンエディオの両目が細くなる。
「止めろ、ヴァンエディオ。俺は気にしない」
これでは互いに話にならないと思いながら、クアトロが止めに入る。
「……叔父貴、お久しぶりです」
エネギオスがそう言って頭を軽く下げた。
……叔父貴ってどこぞのヤ○ザかよとクアトロは思う。
「エネギオスか。お前も久しいな」
「ここは俺の顔に免じて引いちゃくれねえか?」
益々どこぞのヤ○ザの会話になってきたとクアトロは思う。
「我が弟の弟弟子の弟子にあたるお前の言葉でも、今回は聞き入られぬな」
……弟だらけで最早、関係性がよくわからない。
「マルネロ、おい、マルネロ!」
クアトロは背後にいるマルネロに何とかしろと声をかけた。マルネロが渋々といった感じで前に進み出た。
「えへっ、は、はーい、バスガル候」
マルネロが似合わない言葉を使ってバスガル候に片手を振った。
「おおう、これはこれはマルネロ殿!」
マルネロに声をかけられるとバスガル候は急に相好を崩す。
……何だ、この爺さんとクアトロは心の中で呟いた。
「マルネロ殿もいらしていたとは」
バスガル候はマルネロを大のお気に入りにしているとは聞いていたが、ここまでとは……。
であれば……。
「……争っちゃいやあんとか何とか言え」
マルネロの背後でクアトロが小声で言う。途端にマルネロの片頬が引き攣る。
「バスガル候、魔族同士で争うのは止めましょう。ヴァンエディオやエネギオスも謝罪に伺ったのですよ」
「じゃないとマルネロ、困っちゃうのおって言え」
クアトロが再び背後で呟く。何か面白くなってきた。マルネロの両頬が引き攣る。
「でなければ、私が困ります。私はバスガル候とは争いたくはないのです」
「違うぞ! 腰をくねらせて、マルネロ、困っちゃうのおだ!」
「あんたねえ、いい加減にしなさいよ!」
マルネロが怒りの表情でクアトロを振り返った。すると、バスガル候が慌てたように口を開く。
「ま、待ってくれ、マルネロ殿。あなたを困らせるつもりなどはないのだ……」
何をどう勘違いしたのか、バスガル候がそんなことを言い出した。よく分からないが、エネギオスと同じで頭が脳筋だからだろうとクアトロは結論づける。
「父上、マルネロ殿をあまり困らせるのも得策ではないかと」
ここで今まで黙っていた息子のグリフォードが切り込んできた。いいぞ、いいぞとクアトロは思う。
バスガル候が難しい顔で黙り込む。マルネロが困るぐらいで何を悩んでいるのだろうかとクアトロは思ったが口には出さない。
「よし、分かった。ここはわしが矛を収めよう。マルネロ殿を困らせるのはわしの本意ではないからな」
……ちょっと何言ってるのか分からない。
クアトロはそう考えつつも、どうやら事は収まったのだと思う。
「ところでクアトロ……」
これまでのことがなかったかの如く、バスガル候がクアトロを普通に呼びかける。
「……そちらのお嬢さんは? どうやら人族のようだが」
まあ、もっともな質問だなと思う。
「花嫁のアストリアだ」
「……ほう、噂の……」
だから何の噂なのだとクアトロは思う。
「バスガル、あまり近づくなよ。アストリアが怯える」
「クアトロさん、失礼ですよ。私は怖くなどはないですよ」
アストリアにやんわりと嗜められる。嗜められてしゅんとしたクアトロを見て、バスガルが豪快に笑う。
「わしも一目置く魔族の王を一言で意気消沈させるとは、なかなかの御仁のようで。いやあ、愉快、愉快」
何だかよく分からないが、とにかくアストリアは気に入られたらしい。
「だがこのお嬢さん、鍵となる人族だぞ」
「ほう、バスガル候、何かご存知のようで……」
そう訊いてきたヴァンエディオにバスガル候が視線を向けた。
「嫌だ、お前には教えてやらん」
どうやらバスガル候はヴァンエディオが嫌いらしい。
「父上、それは余りにも子供じみているかと……」
グリフォードが諌めようとするが、バスガル候にはそれを聞き入れるつもりは微塵もないようであった。