第46話 ぽてぽてぽてぽてっ
文字数 2,056文字
ぶち切れ魔導師が、ひと声もなく倒れ込んだ。さっきの魔法、あと少しでも魔法壁の展開が遅れていたら、自分も消し炭ひとつさえも残すこともないままで燃えつきていただろうとエリンは思う。
……死んじゃったのかしらとエリンは心の中で呟く。
「おーい」
エリンは足の先でマルネロの赤い頭を突っついてみた。
……反応はない。
が、息はしているようだった。どうやら急激に魔力を使い果たした反動で気を失ったらしい。
あんな見たこともない特大魔法を二度も続けてぶっ放せば、それも当然というものだった。危うくエリンも巻き添えになるところだったのだ。いや、巻き添えにするつもりだったのか。
そう考えると怒りが湧いてくる。エリンはマルネロの頭の近くにしゃがみ込むと、えいっとばかりにぼてっとマルネロの赤い頭を叩く。
……反応はない。
もう一度、ぽてっと叩いてみる。
……やはり反応はない。
ぽてぽてぽてぽてっ。
……。
……。
マルネロから何かしらの反応がないと、どうやら嫌がらせも面白くないらしい。
「まあ、今日はこれぐらいにしといてあげるわ」
エリンは立ち上がるとそう高らかに宣言してみせた。
一方、さて困ったとエリンは思う。マルネロが目を覚ますまでここにいるべきか。それとも引きずって連れて行くべきなのか。
目を覚ますまでここにいるのは得策ではないのよねとエリンは思う。
他の魔人と出喰わす可能性があるし、何よりエリンとしては別れたスタシアナと早く合流したかった。
エリンはむんずとマルネロの片足を掴むと、ずるずる引き摺って二歩、三歩と歩き出した。
……重い。
エリンは心の中で呟いた。爆乳の分だけ重いのだろうと結論づけたエリンであったが、結論づけたところで状況が変わるはずもなく……。
「本当に何につけても残念な爆乳ね」
エリンは溜息混じりに一人で呟いた。
「……仕方ないわね。今日だけ特別でしてよ」
エリンはぴくりとも動かないマルネロの傍にしゃがみ込んだ。そして、マルネロに向けて両手をかざすと自分の魔力を注入し始めるのだった。
「まさかここまで来るとはね。ガリスたちはどうしたのかしら? まさかやられた訳じゃないでしょうね」
そんなことを言いながら女性の魔人が姿を表した。
「どうせその辺で休んでいるんだろう。俺たちに面倒ごとを押しつけたに違いないな」
次いで長身の魔族が姿を見せる。次から次へと魔人が出てきて切りがないとクアトロは思う。いい加減、苛ついてくるというものだ。
「お前ら魔人は何人いるんだ? 出てくるならまとめて出てこい。面倒だ!」
姿を見せた二人の魔人に向かってクアトロはそう吠えた。それを聞いてエネギオスが苦笑を浮かべる。
「お、調子が出てきたな。いかにもクアトロらしい言い方じゃねえか」
「うるさい! 次から次へと出てきやがって俺はもううんざりだ。さっさとあの時の魔人をぶん殴って、アストリアを助けたら帰るぞ!」
そうエネギオスに噛みつくクアトロを見て、魔人の女性が目を丸くする。
「自信があるのね。魔人なんか眼中にないって感じで。きっと頭が悪いのね。あなた魔族の王でしょう?」
「うるさい。やるならさっさと来い。もう話しているのも飽きた」
クアトロが長剣を抜き払った。
「アニシャ、魔族と魔人の格の違いを教えてやるか」
長剣を抜いたクアトロを見て長身の魔人が一歩前に踏み出した。
「そうね、ローレン。あの人族の娘も生意気だったしね」
アニシャが薄く笑う。
「貴様ら、アストリアを知っているのか。どこにいる?」
「アストリア? 人族の娘のことかしら。どこかで震えてるんじゃないかしら」
アニシャが冷たく言い放つ。
それを聞いてクアトロはそうかと思う。ならばこの魔人にもう聞くことはない。後は代償を払ってもらうだけだ。
アストリアを連れ去ったあの魔人に連なる者としての代償は払ってもらわなければならない。
「あら、黙っちゃって。怒ったのかしら。魔族の王は?」
黙り込んだクアトロを見て、アニシャが嘲笑の言葉を投げかけた。
「うるさい。お前は死ね」
「はあ?」
アニシャが片眉を不快げに跳ね上げた。
クアトロが前方にゆらりと動いた。次の瞬間にはアニシャの眼前にクアトロの姿がある。
「えっ……」
「遅い!」
クアトロが長剣を一閃した。アニシャの首から上が床の上にごろりと転がる。その両目は驚愕を表したままで見開かれている。
「なっ……!」
ローレンと呼ばれた魔人は驚きの声を発すると、飛びすさって後方に距離をとった。
「相変わらず怒らせると怖いな、クアトロは……」
クアトロの背後からエネギオスのそんな言葉が聞こえてきた。
「ただ少し不用意だな。相手の実力もわからないままで近づくもんじゃない。だから片腕を斬り飛ばされたりするんだ」
エネギオスは続けてそう言ってくる。クアトロは背後を振り返るとエネギオスを睨みつけた。それを見てエネギオスは両肩を少しだけ竦めて呆れた表情を浮かべた。
「ア、アニシャ……貴様!」
ローレンはそう叫びながら長剣を抜き払った。
……死んじゃったのかしらとエリンは心の中で呟く。
「おーい」
エリンは足の先でマルネロの赤い頭を突っついてみた。
……反応はない。
が、息はしているようだった。どうやら急激に魔力を使い果たした反動で気を失ったらしい。
あんな見たこともない特大魔法を二度も続けてぶっ放せば、それも当然というものだった。危うくエリンも巻き添えになるところだったのだ。いや、巻き添えにするつもりだったのか。
そう考えると怒りが湧いてくる。エリンはマルネロの頭の近くにしゃがみ込むと、えいっとばかりにぼてっとマルネロの赤い頭を叩く。
……反応はない。
もう一度、ぽてっと叩いてみる。
……やはり反応はない。
ぽてぽてぽてぽてっ。
……。
……。
マルネロから何かしらの反応がないと、どうやら嫌がらせも面白くないらしい。
「まあ、今日はこれぐらいにしといてあげるわ」
エリンは立ち上がるとそう高らかに宣言してみせた。
一方、さて困ったとエリンは思う。マルネロが目を覚ますまでここにいるべきか。それとも引きずって連れて行くべきなのか。
目を覚ますまでここにいるのは得策ではないのよねとエリンは思う。
他の魔人と出喰わす可能性があるし、何よりエリンとしては別れたスタシアナと早く合流したかった。
エリンはむんずとマルネロの片足を掴むと、ずるずる引き摺って二歩、三歩と歩き出した。
……重い。
エリンは心の中で呟いた。爆乳の分だけ重いのだろうと結論づけたエリンであったが、結論づけたところで状況が変わるはずもなく……。
「本当に何につけても残念な爆乳ね」
エリンは溜息混じりに一人で呟いた。
「……仕方ないわね。今日だけ特別でしてよ」
エリンはぴくりとも動かないマルネロの傍にしゃがみ込んだ。そして、マルネロに向けて両手をかざすと自分の魔力を注入し始めるのだった。
「まさかここまで来るとはね。ガリスたちはどうしたのかしら? まさかやられた訳じゃないでしょうね」
そんなことを言いながら女性の魔人が姿を表した。
「どうせその辺で休んでいるんだろう。俺たちに面倒ごとを押しつけたに違いないな」
次いで長身の魔族が姿を見せる。次から次へと魔人が出てきて切りがないとクアトロは思う。いい加減、苛ついてくるというものだ。
「お前ら魔人は何人いるんだ? 出てくるならまとめて出てこい。面倒だ!」
姿を見せた二人の魔人に向かってクアトロはそう吠えた。それを聞いてエネギオスが苦笑を浮かべる。
「お、調子が出てきたな。いかにもクアトロらしい言い方じゃねえか」
「うるさい! 次から次へと出てきやがって俺はもううんざりだ。さっさとあの時の魔人をぶん殴って、アストリアを助けたら帰るぞ!」
そうエネギオスに噛みつくクアトロを見て、魔人の女性が目を丸くする。
「自信があるのね。魔人なんか眼中にないって感じで。きっと頭が悪いのね。あなた魔族の王でしょう?」
「うるさい。やるならさっさと来い。もう話しているのも飽きた」
クアトロが長剣を抜き払った。
「アニシャ、魔族と魔人の格の違いを教えてやるか」
長剣を抜いたクアトロを見て長身の魔人が一歩前に踏み出した。
「そうね、ローレン。あの人族の娘も生意気だったしね」
アニシャが薄く笑う。
「貴様ら、アストリアを知っているのか。どこにいる?」
「アストリア? 人族の娘のことかしら。どこかで震えてるんじゃないかしら」
アニシャが冷たく言い放つ。
それを聞いてクアトロはそうかと思う。ならばこの魔人にもう聞くことはない。後は代償を払ってもらうだけだ。
アストリアを連れ去ったあの魔人に連なる者としての代償は払ってもらわなければならない。
「あら、黙っちゃって。怒ったのかしら。魔族の王は?」
黙り込んだクアトロを見て、アニシャが嘲笑の言葉を投げかけた。
「うるさい。お前は死ね」
「はあ?」
アニシャが片眉を不快げに跳ね上げた。
クアトロが前方にゆらりと動いた。次の瞬間にはアニシャの眼前にクアトロの姿がある。
「えっ……」
「遅い!」
クアトロが長剣を一閃した。アニシャの首から上が床の上にごろりと転がる。その両目は驚愕を表したままで見開かれている。
「なっ……!」
ローレンと呼ばれた魔人は驚きの声を発すると、飛びすさって後方に距離をとった。
「相変わらず怒らせると怖いな、クアトロは……」
クアトロの背後からエネギオスのそんな言葉が聞こえてきた。
「ただ少し不用意だな。相手の実力もわからないままで近づくもんじゃない。だから片腕を斬り飛ばされたりするんだ」
エネギオスは続けてそう言ってくる。クアトロは背後を振り返るとエネギオスを睨みつけた。それを見てエネギオスは両肩を少しだけ竦めて呆れた表情を浮かべた。
「ア、アニシャ……貴様!」
ローレンはそう叫びながら長剣を抜き払った。