第47話 食いやがった
文字数 2,182文字
「大きな声でうるさいのです。クアトロを虐めるのは駄目なんですよー」
高い天井の上空から不意に聞こえてきた声に反応して、ローレンが斜め左上に顔を向けた。それと同時に、ローレンの体は金色の光に包まれる。
やがて光が霧散した後には、それまでローレンが立っていた辺りから僅かな湯気らしき物が立ち昇っていた。
「……おいおい、容赦がないな。ろりろり姫の居場所を知っていそうだったが、クアトロもスタシアナにしてもいきなり殺しちまってどうするんだ?」
エネギオスが呆れたように言う。
「エネギオスは何もしないくせに、さっきから文句ばっかりなんですよー」
空中からスタシアナがエネギオスを睨みつけている。スタシアナにとってクアトロへの批判は、エネギオスでも許さないといった感じらしかった。
「まあ、あの魔人が素直に口を割るとも思えないですから。それよりも、アストリア様が心配です。先を急ぎましょう」
ダースが間を取り持つようにそう言った。それにアストリアのことが心配なのは偽りがないところなのだろう。クアトロは軽く頷いて長剣を鞘に収めた。その時、嫌な気配をクアトロは感じる。
「何の騒ぎだ?」
その言葉と共に姿を見せたのはアストリアを連れ去った魔人だった。背後には配下らしき魔人が一人だけ控えている。
「待て、クアトロ!」
問答無用で飛びかかろうとするクアトロをエネギオスが鋭く制した。クアトロは心の中で舌打ちをして思い止まる。
「エネギオス、クアトロの邪魔をしちゃ駄目なのー」
それを見てスタシアナが上空からエネギオスに文句を言う。
「……スタシアナ、少しだけ黙っていてくれ」
エネギオスは渋い顔をしながら言うとクアトロに顔を向けた。
「お前も少しは落ち着け。相手は逃げやしねえよ。ろりろり姫の無事を確認するのが先だ」
そんなことは言われるまでもないと言い返そうかと思ったクアトロだったが、その言葉を辛うじて飲み込んだ。
「おやおや、あなたがナサニエルさんでしょうかね?」
そんな言葉と共にヴァンエディオが姿を見せた。その背後にはマルネロやエリン、そしてトルネオの姿も見える。さほど心配していた訳でもないのだが、皆が無事だったらしいとクアトロは思う。
マルネロの顔が青白くて体がふらふらしているのは、どうせとんでもない魔法をぶっ放して魔力が底を尽きそうなのだろう。
「どういうことだ? なぜ俺の名をしっている。ここにいたローレンやアニシャ、それに他の者はどうした?」
ナサニエルの声には不快げな響きが多分にあった。
「知るか、馬鹿」
クアトロがさらりと言い放つ。それを聞いてエネギオスやヴァンエディオが苦笑を浮かべる。マルネロは青白い顔をしながらも、子供じゃあるまいしと呟いていた。
「それよりもアストリアはどこだ? 言え! 言わないと殺す。言っても殺す!」
クアトロが毅然と言い放った。
「馬っ鹿じゃない! 交渉になってないじゃない。子供の方がもっとましな言い方をするわよ!」
マルネロが我慢できないとばかりに口を開いた。ヴァンエディオやエネギオスは苦笑というよりも最早、笑いを堪えている感じだった。
「お、おい、魔族の王、クアトロ。流石に言い方があるだろう。アストリア様は相手の手中にあるんだぞ」
呆れて口を開けていたダースが、気を取り直したのかクアトロに言う。
「うるさい。こういうのは分かりやすい方がいいんだ。余計なことは言わない方がいい」
「いやいや、分かりやすいも何も、余計なことしか言ってないぞ」
ダースが言い返す。それを受けてクアトロがダースに言い返そうとした時、ナサニエルが口を開いた。
「魔族ども、いい加減にしろ。どういう理由でお前らがここにいるのかは知らないが、お前ら全員死ね!」
その額には見事な太い血管が浮き出ている。
「……お前ら全員死ねって……魔人の言うこともそこの馬鹿ちんろりこん大魔王と大して変わらないのね」
マルネロの言葉に額の上に浮き出たナサニエルの血管が更に太くなった。
……馬鹿ちんろりこん大魔王……。
何か自分の形容詞、長くなってないかとクアトロが思った時だった。建物全体が震えて轟音と共に天井が崩れ落ちてくる。
スタシアナとエリンが即座に防壁の魔法を展開したようだった。クアトロ達に向かって落ちてきた天井の残骸は次々と防壁によって弾かれていく。
やがてぽっかりと空いた天井から顔を覗かせたのは巨大なドラゴンの顔だった。
「来たか、古代種。その首、俺が貰う!」
エネギオスが大剣を構えて一歩前に進み出た。その顔は妙に嬉しそうだった。
……その首、俺が貰うって、どこの武芸者だよとクアトロは心の中で呟いた。
「こいつはいい。呼びもしないのに来るとはな。おい、古代種、こいつらがあの人族の仲間だ。お前らが嫌いな天使もいるぞ」
ナサニエルの言葉に触発されたのか、古代種のドラゴンはその長い首を伸ばして来た。その口から吐かれる火炎に備えて、スタシアナとエリンが身構えた。
「……あっ」
思わず間が抜けた声を出したクアトロだった。古代種のドラゴンはその大きな口を開けると、ナサニエルの背後にいた魔人を頭から齧りついたのだった。
叫び声を上げる間もなく、魔人の腰から上がなくなり、残された下半身が血を噴き出しながら床に倒れる。
……こ、こいつ、食いやがった。
クアトロは心の中で呟く。
高い天井の上空から不意に聞こえてきた声に反応して、ローレンが斜め左上に顔を向けた。それと同時に、ローレンの体は金色の光に包まれる。
やがて光が霧散した後には、それまでローレンが立っていた辺りから僅かな湯気らしき物が立ち昇っていた。
「……おいおい、容赦がないな。ろりろり姫の居場所を知っていそうだったが、クアトロもスタシアナにしてもいきなり殺しちまってどうするんだ?」
エネギオスが呆れたように言う。
「エネギオスは何もしないくせに、さっきから文句ばっかりなんですよー」
空中からスタシアナがエネギオスを睨みつけている。スタシアナにとってクアトロへの批判は、エネギオスでも許さないといった感じらしかった。
「まあ、あの魔人が素直に口を割るとも思えないですから。それよりも、アストリア様が心配です。先を急ぎましょう」
ダースが間を取り持つようにそう言った。それにアストリアのことが心配なのは偽りがないところなのだろう。クアトロは軽く頷いて長剣を鞘に収めた。その時、嫌な気配をクアトロは感じる。
「何の騒ぎだ?」
その言葉と共に姿を見せたのはアストリアを連れ去った魔人だった。背後には配下らしき魔人が一人だけ控えている。
「待て、クアトロ!」
問答無用で飛びかかろうとするクアトロをエネギオスが鋭く制した。クアトロは心の中で舌打ちをして思い止まる。
「エネギオス、クアトロの邪魔をしちゃ駄目なのー」
それを見てスタシアナが上空からエネギオスに文句を言う。
「……スタシアナ、少しだけ黙っていてくれ」
エネギオスは渋い顔をしながら言うとクアトロに顔を向けた。
「お前も少しは落ち着け。相手は逃げやしねえよ。ろりろり姫の無事を確認するのが先だ」
そんなことは言われるまでもないと言い返そうかと思ったクアトロだったが、その言葉を辛うじて飲み込んだ。
「おやおや、あなたがナサニエルさんでしょうかね?」
そんな言葉と共にヴァンエディオが姿を見せた。その背後にはマルネロやエリン、そしてトルネオの姿も見える。さほど心配していた訳でもないのだが、皆が無事だったらしいとクアトロは思う。
マルネロの顔が青白くて体がふらふらしているのは、どうせとんでもない魔法をぶっ放して魔力が底を尽きそうなのだろう。
「どういうことだ? なぜ俺の名をしっている。ここにいたローレンやアニシャ、それに他の者はどうした?」
ナサニエルの声には不快げな響きが多分にあった。
「知るか、馬鹿」
クアトロがさらりと言い放つ。それを聞いてエネギオスやヴァンエディオが苦笑を浮かべる。マルネロは青白い顔をしながらも、子供じゃあるまいしと呟いていた。
「それよりもアストリアはどこだ? 言え! 言わないと殺す。言っても殺す!」
クアトロが毅然と言い放った。
「馬っ鹿じゃない! 交渉になってないじゃない。子供の方がもっとましな言い方をするわよ!」
マルネロが我慢できないとばかりに口を開いた。ヴァンエディオやエネギオスは苦笑というよりも最早、笑いを堪えている感じだった。
「お、おい、魔族の王、クアトロ。流石に言い方があるだろう。アストリア様は相手の手中にあるんだぞ」
呆れて口を開けていたダースが、気を取り直したのかクアトロに言う。
「うるさい。こういうのは分かりやすい方がいいんだ。余計なことは言わない方がいい」
「いやいや、分かりやすいも何も、余計なことしか言ってないぞ」
ダースが言い返す。それを受けてクアトロがダースに言い返そうとした時、ナサニエルが口を開いた。
「魔族ども、いい加減にしろ。どういう理由でお前らがここにいるのかは知らないが、お前ら全員死ね!」
その額には見事な太い血管が浮き出ている。
「……お前ら全員死ねって……魔人の言うこともそこの馬鹿ちんろりこん大魔王と大して変わらないのね」
マルネロの言葉に額の上に浮き出たナサニエルの血管が更に太くなった。
……馬鹿ちんろりこん大魔王……。
何か自分の形容詞、長くなってないかとクアトロが思った時だった。建物全体が震えて轟音と共に天井が崩れ落ちてくる。
スタシアナとエリンが即座に防壁の魔法を展開したようだった。クアトロ達に向かって落ちてきた天井の残骸は次々と防壁によって弾かれていく。
やがてぽっかりと空いた天井から顔を覗かせたのは巨大なドラゴンの顔だった。
「来たか、古代種。その首、俺が貰う!」
エネギオスが大剣を構えて一歩前に進み出た。その顔は妙に嬉しそうだった。
……その首、俺が貰うって、どこの武芸者だよとクアトロは心の中で呟いた。
「こいつはいい。呼びもしないのに来るとはな。おい、古代種、こいつらがあの人族の仲間だ。お前らが嫌いな天使もいるぞ」
ナサニエルの言葉に触発されたのか、古代種のドラゴンはその長い首を伸ばして来た。その口から吐かれる火炎に備えて、スタシアナとエリンが身構えた。
「……あっ」
思わず間が抜けた声を出したクアトロだった。古代種のドラゴンはその大きな口を開けると、ナサニエルの背後にいた魔人を頭から齧りついたのだった。
叫び声を上げる間もなく、魔人の腰から上がなくなり、残された下半身が血を噴き出しながら床に倒れる。
……こ、こいつ、食いやがった。
クアトロは心の中で呟く。