第64話 魔族を虐めちゃ駄目
文字数 2,098文字
「お、おい、スタシアナ! 危ないぞ!」
クアトロはそう叫んだが、それがスタシアナたちに聞こえたのかどうか……。
「だ、大丈夫でしょうか、スタシアナさん……」
アストリアがスタシアナとエリンの後ろ姿をみながら心配げに言う。
「ま、まあ、スタシアナも天使ではあるからな。大丈夫だとは思うが……」
根拠は同族であるということだけだったが、クアトロは取り敢えずそう言った。他にアストリアを安心させるような言葉も見つからない。
「クアトロ様、天使の一群がこちらに向かってきます。急ぎ撤退を!」
ヴァンエディオが急かすように声をかけてきた。
「わかった。アストリア、ダース、行くぞ!」
「え、で、でもヴァンエディオさんは?」
「私は少しだけここで彼らを惹きつけておきます。その間にアストリア様はお逃げ下さい」
「で、ても……」
「皆、アストリア様をお守りするために集まったのです。ならば最後まで守られることに徹して下さい」
ヴァンエディオにしては珍しく、少しだけ声を荒げていた。そんなヴァンエディオの思いを汲み取ったのかアストリアが頷いた。
「分かりました。ヴァンエディオさん、お気をつけて」
アストリアがそう言って一礼をするとヴァンエディオはその端正な顔に笑みを浮かべた。巷で魔人の笑みと評されるあの笑みだ。
「アストリア、行くぞ!」
クアトロはアストリアをそう促した。クアトロの傍にはこれまでに四将の誰かが必ずいた。だが、気がつけば皆が散り散りとなっている。
あの四将たちだ。不測の事態はないとは思うが、一抹の不安を覚えるのも事実だった。
その不安を飲み込みながらクアトロはアストリア、ダースと共に撤退を開始するのだった。
総崩れとなった魔族たちを見て、四か国連合の人族たちは息を吹き返したようだった。混乱の中で撤退を始めた魔族たちの背後から俄然と襲いかかって来る。
そんな敗走する魔族たちを援護しようとトルネオが一人で前に進み出た。
思えば妙な運命だなとトルネオは思う。気がつけば自分には何の得もないのに魔族の手助けをしているのだ。しかし、それが嫌な気持ちではなくて愉快な気持ちになってくるのが自分でも少しだけ不思議だった。
まあいいでしょう。手助けの報酬として天使と魔人の骨でも頂きましょうか。
トルネオはそう独りごちると、展開した魔法陣からスケルトンを呼び出し始めた。
トルネオによって展開された魔法陣から幾多ものスケルトン兵が現れると、四か国連合の将兵たちがそれを見てたちまち恐慌をきたし始めた。
それを見る限りでは、やはり人族は根源的に骸骨を忌み嫌うようだった。
「何か傷つく皆さんの反応ですね……」
自身も骸骨姿であるトルネオはそう呟いた。
恐慌をきたした人族を援護するためか、十体ほどの天使がその原因を作ったトルネオの周囲を取り囲んだ。
「貴様、不死者か? 何故ここで魔族に与している」
天使の一人がそう問いかけてきた。どこぞの魔人とは違って、問答無用ということでもないらしいとトルネオは思う。
「ふむ。天使が相手ですと流石に少々分が悪いですかね」
さてどうしたものかとトルネオが考えていた時だった。上空から黒い物体が急速に落下して来て、トルネオと天使たちの間に立ちはだかった。
「トルネオ、何を遊んでいるんですか? 遊んでいるぐらいなら、ぼくと天上に行くんですよー!」
黒い翼を広げたスタシアナが背後のトルネオにそう言った。
「待ってよー。スタシアナ姉様ー」
次いでエリンも姿を見せた。
「これはこれはスタシアナさんとエリンさん、いつも可愛らしくてお美しいですね」
そんなトルネオの言葉にスタシアナはえへへと笑っている。しかしすぐに表情を変えると正面の天使たちと対峙した。
「スタシアナ様……スタシアナ様では?」
天使の一人が自分たちと対峙した少女を見て、信じられないといったような声を上げた。
「クアトロと魔族を虐めちゃ駄目なんですよー」
そんな天使たちの様子などは気にもしないで、スタシアナはそう言いながら両手を天使たちに向けて翳した。
「え……え?」
そのスタシアナの様子に不穏なものを感じたのか天使たちに動揺が走った。
「だ、駄目、スタシアナ姉様。怒られますよ!」
エリンの忠告も虚しくスタシアナが翳した両手から金色の光が発せられた。
「消滅!」
叫ぶ間もなく天使たちが金色の光に包まれると、跡形もなく消え去ってしまう。
「あ、ああ……やっちゃた」
エリンががっくりと肩を落としている。
これはこれは随分と過激ですね。
流石にトルネオも驚いて心の中で呟いた。
スタシアナは背後にいるトルネオを振り返ると、天真爛漫といった言葉がよく似合う笑顔をみせた。
「さあ、トルネオ、邪魔はいなくなったので一緒に天上に行くんですよー」
天真爛漫な笑顔でそう言っているスタシアナの横にいるエリンは、スタシアナがしでかしたことの大きさで既に半泣きとなっている。
やれやれですね。不死者と天使は相性が悪いのですが、スタシアナさんが言うのであれば仕方がないでしょうか。ま、天上に行くのも面白そうですしね……。
トルネオは心の中でそう呟いたのだった。
クアトロはそう叫んだが、それがスタシアナたちに聞こえたのかどうか……。
「だ、大丈夫でしょうか、スタシアナさん……」
アストリアがスタシアナとエリンの後ろ姿をみながら心配げに言う。
「ま、まあ、スタシアナも天使ではあるからな。大丈夫だとは思うが……」
根拠は同族であるということだけだったが、クアトロは取り敢えずそう言った。他にアストリアを安心させるような言葉も見つからない。
「クアトロ様、天使の一群がこちらに向かってきます。急ぎ撤退を!」
ヴァンエディオが急かすように声をかけてきた。
「わかった。アストリア、ダース、行くぞ!」
「え、で、でもヴァンエディオさんは?」
「私は少しだけここで彼らを惹きつけておきます。その間にアストリア様はお逃げ下さい」
「で、ても……」
「皆、アストリア様をお守りするために集まったのです。ならば最後まで守られることに徹して下さい」
ヴァンエディオにしては珍しく、少しだけ声を荒げていた。そんなヴァンエディオの思いを汲み取ったのかアストリアが頷いた。
「分かりました。ヴァンエディオさん、お気をつけて」
アストリアがそう言って一礼をするとヴァンエディオはその端正な顔に笑みを浮かべた。巷で魔人の笑みと評されるあの笑みだ。
「アストリア、行くぞ!」
クアトロはアストリアをそう促した。クアトロの傍にはこれまでに四将の誰かが必ずいた。だが、気がつけば皆が散り散りとなっている。
あの四将たちだ。不測の事態はないとは思うが、一抹の不安を覚えるのも事実だった。
その不安を飲み込みながらクアトロはアストリア、ダースと共に撤退を開始するのだった。
総崩れとなった魔族たちを見て、四か国連合の人族たちは息を吹き返したようだった。混乱の中で撤退を始めた魔族たちの背後から俄然と襲いかかって来る。
そんな敗走する魔族たちを援護しようとトルネオが一人で前に進み出た。
思えば妙な運命だなとトルネオは思う。気がつけば自分には何の得もないのに魔族の手助けをしているのだ。しかし、それが嫌な気持ちではなくて愉快な気持ちになってくるのが自分でも少しだけ不思議だった。
まあいいでしょう。手助けの報酬として天使と魔人の骨でも頂きましょうか。
トルネオはそう独りごちると、展開した魔法陣からスケルトンを呼び出し始めた。
トルネオによって展開された魔法陣から幾多ものスケルトン兵が現れると、四か国連合の将兵たちがそれを見てたちまち恐慌をきたし始めた。
それを見る限りでは、やはり人族は根源的に骸骨を忌み嫌うようだった。
「何か傷つく皆さんの反応ですね……」
自身も骸骨姿であるトルネオはそう呟いた。
恐慌をきたした人族を援護するためか、十体ほどの天使がその原因を作ったトルネオの周囲を取り囲んだ。
「貴様、不死者か? 何故ここで魔族に与している」
天使の一人がそう問いかけてきた。どこぞの魔人とは違って、問答無用ということでもないらしいとトルネオは思う。
「ふむ。天使が相手ですと流石に少々分が悪いですかね」
さてどうしたものかとトルネオが考えていた時だった。上空から黒い物体が急速に落下して来て、トルネオと天使たちの間に立ちはだかった。
「トルネオ、何を遊んでいるんですか? 遊んでいるぐらいなら、ぼくと天上に行くんですよー!」
黒い翼を広げたスタシアナが背後のトルネオにそう言った。
「待ってよー。スタシアナ姉様ー」
次いでエリンも姿を見せた。
「これはこれはスタシアナさんとエリンさん、いつも可愛らしくてお美しいですね」
そんなトルネオの言葉にスタシアナはえへへと笑っている。しかしすぐに表情を変えると正面の天使たちと対峙した。
「スタシアナ様……スタシアナ様では?」
天使の一人が自分たちと対峙した少女を見て、信じられないといったような声を上げた。
「クアトロと魔族を虐めちゃ駄目なんですよー」
そんな天使たちの様子などは気にもしないで、スタシアナはそう言いながら両手を天使たちに向けて翳した。
「え……え?」
そのスタシアナの様子に不穏なものを感じたのか天使たちに動揺が走った。
「だ、駄目、スタシアナ姉様。怒られますよ!」
エリンの忠告も虚しくスタシアナが翳した両手から金色の光が発せられた。
「消滅!」
叫ぶ間もなく天使たちが金色の光に包まれると、跡形もなく消え去ってしまう。
「あ、ああ……やっちゃた」
エリンががっくりと肩を落としている。
これはこれは随分と過激ですね。
流石にトルネオも驚いて心の中で呟いた。
スタシアナは背後にいるトルネオを振り返ると、天真爛漫といった言葉がよく似合う笑顔をみせた。
「さあ、トルネオ、邪魔はいなくなったので一緒に天上に行くんですよー」
天真爛漫な笑顔でそう言っているスタシアナの横にいるエリンは、スタシアナがしでかしたことの大きさで既に半泣きとなっている。
やれやれですね。不死者と天使は相性が悪いのですが、スタシアナさんが言うのであれば仕方がないでしょうか。ま、天上に行くのも面白そうですしね……。
トルネオは心の中でそう呟いたのだった。