第37話 怒れるトルネオ
文字数 2,079文字
「もう無理ー」
「はあ?」
マルネロの眼前にエリンと炎が迫る。落ちてくるエリンを抱きとめたマルネロは迫り来る炎に身を固くした。流石に不味い。マルネロは思わず両目を固く閉じた。
「……防御壁」
正直、危ないところだった。ドラゴンの炎に飲み込まれる前に、誰かが防御魔法を展開してくれたようだ。魔法を展開してくれた主を求めてマルネロが視線を動かすとそこには……骸骨がいた。
……トルネオに助けられたと思うと、何か少しだけ悔しい。
古代種のドラゴンはそんなマルネロたちには興味を示さずに、魔人を追って上空へと飛び立って行く。
「スタシアナ、奴等を追え! アストリアが……」
クアトロが自分に治癒魔法をかけているスタシアナの体を押しのけようとしていた。
「クアトロ、動いちゃ駄目なのー」
スタシアナが手にした杖でクアトロの暗い灰色の頭を、ぼかっと殴った。クアトロはそのまま目を閉じて動かなくなる。
……スタシアナ、やる時はやるわね。でもクアトロ、今ので死んじゃうかも。まあ死んだら天使の力で生き返らせればいいのだけれども……。
マルネロは心の中で呟く。
「ひでえ有様だな。大負けだ」
そう言いながら姿を現したのは大剣を肩に担いだエネギオスだった。
「はあ? 何で人ごとなのよ? あんたがさっさと来ないから、こんなことになったのよ。この筋肉ごりら!」
マルネロがエネギオスにやり場のない怒りをぶつける。
「まあ魔人だけじゃなく古代種のドラゴンがいたんじゃ魔導師と天使には、ちと荷が重いな。それと、ごりら言うな」
エネギオスにも思うところがあるのだろう。マルネロの辛辣な言葉にも特に反論はしなかった。
「クアトロの様子はどうだ?」
エネギオスはスタシアナに視線を向けた。クアトロはスタシアナの膝の上に頭を置いて横たわっている。ぴくりとも動かない。
「大丈夫。血をたくさん流したから、気を失ってるだけですよー」
治癒魔法をクアトロに施しながら、スタシアナがそう言う。気を失っているのは出血のせいではなくて、スタシアナに杖で頭を殴られたせいなのではとマルネロは思う。
そこへ切断されたクアトロの片手を持って、エリンが戻ってきた。
「スタシアナ姉様……何かこれ、気持ち悪いんだけど……」
エリンがクアトロの片手をスタシアナに差し出す。スタシアナがエリンに、むーといった顔向ける。
エリンはスタシアナのその顔に気がつくと、ひっと喉の奥で声を出して顔を引き攣らせた。
「手は治りそう?」
マルネロはスタシアナにそう尋ねた。
「大丈夫ですよー。くっつかなかったら、生やすんですよー」
天使の力で手は生えるものなのだろうか。そう思ったマルネロだったが、真剣に治癒魔法を施すスタシアナの横顔を見て、口を開くのを止めた。
「まあ、あれだな。ろりろり姫をさらうだけでなく、俺の弟分をこんなにしたんだ。落とし前はつけさせて貰わないとな」
エネギオスが不敵な笑みを浮かべる。
「ぼくも許さないですよ。クアトロを傷つけたんですからね。あいつら、ゆっくりと消滅の刑なんですよー!」
スタシアナが何だかよく分からない刑を宣言している。
「それより、ヴァンエディオはどこなんですかー? こんな大事な時にー」
今度はヴァンエディオに八つ当たりしだしてスタシアナが、ぷんすかと怒り始める。
「申し訳ないですね、スタシアナさん。駆けつけるのが少しだけ遅くなりました」
「申し訳ないじゃないのー。クアトロに何かあったら、魔族の皆に天使の事務所総出でやりますからねー」
スタシアナが相変わらずぷんすかと怒りながら、どこかで聞いたような物騒なことを言う。大体、天使の事務所などあるのだろうか。
「ふむ。事務所総出は怖いですね。魔人にはゾンビカメムシに後をつけさています。アストリア様が連れ去られる場所も直に分かるかと」
流石にヴァンエディオはその辺りに抜かりがないようだった。壁に打ちつけられて気を失っていたダースがエリンに支えられながら姿を見せた。
血の気が失せた顔をしているのは、気を失っていたからだけではないのだろう。アストリアが連れ去られてしまった事実がダースを精神的に追い詰めているのは間違いなかった。
「まあまあ皆さん、そんなに悲壮感を漂わせなくても大丈夫ですよ」
トルネオがそう言いながら姿を見せた。
「古代種のドラゴンを引き連れた魔人に急襲されたのですから、仕方がないかと」
あの骸骨に慰められていると思うと、何だか腹が立ってくるマルネロだった。先ほどの助けられたことは置いといて、燃やしてやろうかしらとも思う。
「ただ、この不死者の王の主、クアトロ様を傷つけた罪。それは必ず贖って頂きます。未来永劫、不死者として使役して差し上げますよ」
トルネオが物騒なことを言い出す。とてもエミリー王国で、とんちきな仮面をつけてふざけていた骸骨とは思えない。それにしても、クアトロがいつからこのとんちきの主人となってしまったのだろうか。
「まずはクアトロ様の回復と我が配下のゾンビカメムシの報告を待つとしましょうか」
……そう仕切り始めるトルネオだった。
「はあ?」
マルネロの眼前にエリンと炎が迫る。落ちてくるエリンを抱きとめたマルネロは迫り来る炎に身を固くした。流石に不味い。マルネロは思わず両目を固く閉じた。
「……防御壁」
正直、危ないところだった。ドラゴンの炎に飲み込まれる前に、誰かが防御魔法を展開してくれたようだ。魔法を展開してくれた主を求めてマルネロが視線を動かすとそこには……骸骨がいた。
……トルネオに助けられたと思うと、何か少しだけ悔しい。
古代種のドラゴンはそんなマルネロたちには興味を示さずに、魔人を追って上空へと飛び立って行く。
「スタシアナ、奴等を追え! アストリアが……」
クアトロが自分に治癒魔法をかけているスタシアナの体を押しのけようとしていた。
「クアトロ、動いちゃ駄目なのー」
スタシアナが手にした杖でクアトロの暗い灰色の頭を、ぼかっと殴った。クアトロはそのまま目を閉じて動かなくなる。
……スタシアナ、やる時はやるわね。でもクアトロ、今ので死んじゃうかも。まあ死んだら天使の力で生き返らせればいいのだけれども……。
マルネロは心の中で呟く。
「ひでえ有様だな。大負けだ」
そう言いながら姿を現したのは大剣を肩に担いだエネギオスだった。
「はあ? 何で人ごとなのよ? あんたがさっさと来ないから、こんなことになったのよ。この筋肉ごりら!」
マルネロがエネギオスにやり場のない怒りをぶつける。
「まあ魔人だけじゃなく古代種のドラゴンがいたんじゃ魔導師と天使には、ちと荷が重いな。それと、ごりら言うな」
エネギオスにも思うところがあるのだろう。マルネロの辛辣な言葉にも特に反論はしなかった。
「クアトロの様子はどうだ?」
エネギオスはスタシアナに視線を向けた。クアトロはスタシアナの膝の上に頭を置いて横たわっている。ぴくりとも動かない。
「大丈夫。血をたくさん流したから、気を失ってるだけですよー」
治癒魔法をクアトロに施しながら、スタシアナがそう言う。気を失っているのは出血のせいではなくて、スタシアナに杖で頭を殴られたせいなのではとマルネロは思う。
そこへ切断されたクアトロの片手を持って、エリンが戻ってきた。
「スタシアナ姉様……何かこれ、気持ち悪いんだけど……」
エリンがクアトロの片手をスタシアナに差し出す。スタシアナがエリンに、むーといった顔向ける。
エリンはスタシアナのその顔に気がつくと、ひっと喉の奥で声を出して顔を引き攣らせた。
「手は治りそう?」
マルネロはスタシアナにそう尋ねた。
「大丈夫ですよー。くっつかなかったら、生やすんですよー」
天使の力で手は生えるものなのだろうか。そう思ったマルネロだったが、真剣に治癒魔法を施すスタシアナの横顔を見て、口を開くのを止めた。
「まあ、あれだな。ろりろり姫をさらうだけでなく、俺の弟分をこんなにしたんだ。落とし前はつけさせて貰わないとな」
エネギオスが不敵な笑みを浮かべる。
「ぼくも許さないですよ。クアトロを傷つけたんですからね。あいつら、ゆっくりと消滅の刑なんですよー!」
スタシアナが何だかよく分からない刑を宣言している。
「それより、ヴァンエディオはどこなんですかー? こんな大事な時にー」
今度はヴァンエディオに八つ当たりしだしてスタシアナが、ぷんすかと怒り始める。
「申し訳ないですね、スタシアナさん。駆けつけるのが少しだけ遅くなりました」
「申し訳ないじゃないのー。クアトロに何かあったら、魔族の皆に天使の事務所総出でやりますからねー」
スタシアナが相変わらずぷんすかと怒りながら、どこかで聞いたような物騒なことを言う。大体、天使の事務所などあるのだろうか。
「ふむ。事務所総出は怖いですね。魔人にはゾンビカメムシに後をつけさています。アストリア様が連れ去られる場所も直に分かるかと」
流石にヴァンエディオはその辺りに抜かりがないようだった。壁に打ちつけられて気を失っていたダースがエリンに支えられながら姿を見せた。
血の気が失せた顔をしているのは、気を失っていたからだけではないのだろう。アストリアが連れ去られてしまった事実がダースを精神的に追い詰めているのは間違いなかった。
「まあまあ皆さん、そんなに悲壮感を漂わせなくても大丈夫ですよ」
トルネオがそう言いながら姿を見せた。
「古代種のドラゴンを引き連れた魔人に急襲されたのですから、仕方がないかと」
あの骸骨に慰められていると思うと、何だか腹が立ってくるマルネロだった。先ほどの助けられたことは置いといて、燃やしてやろうかしらとも思う。
「ただ、この不死者の王の主、クアトロ様を傷つけた罪。それは必ず贖って頂きます。未来永劫、不死者として使役して差し上げますよ」
トルネオが物騒なことを言い出す。とてもエミリー王国で、とんちきな仮面をつけてふざけていた骸骨とは思えない。それにしても、クアトロがいつからこのとんちきの主人となってしまったのだろうか。
「まずはクアトロ様の回復と我が配下のゾンビカメムシの報告を待つとしましょうか」
……そう仕切り始めるトルネオだった。