第60話 魚群骸骨団
文字数 1,536文字
「……貴様、不死者か? 世の理を乱す奴がぬけぬけと私の前に現れるな」
魔人の男が不快げに言う。
「ふむ、あなた、魔人ですよね。魔人って何かいつも上から目線で、しかも勿体ぶっていて好きになれないですね」
トルネオは人差し指を伸ばして顎に当てると、こてっと首を傾げて見せた。
どんな見得なのよとマルネロは思う。全然可愛くない。強いて言えば間が抜けていて、相手を馬鹿にしている。
「そう言えばわたし、スタシアナさんと一緒にいい物を作ったんですよ。丁度よい機会ですのでお見せしましょう」
トルネオが両手を宙に翳した。すると魔人の男の真上にある空間が揺らいだように見えた次の瞬間、その何もない空間から大人ほどの大きさがある白い物体がばらばらと落ちてきた。
……何体もの骸骨だった。
あっという間に魔人の男を覆い尽くして骸骨の小山が出来上がる。しかも骸骨たちは互いに重なりあって魔人の男を押さえつけているようだった。
何とも原始的な……。
それに何よりも見た目が気持ち悪い……。
「さあ、マルネロさん! 秘技、魚群骸骨団に押さえ込まれている間に特大魔法を」
トルネオが得意げにマルネロに向かって言い放つ。
魚じゃなくて骸骨なのだから名付け方がおかしいと言いたいところだったが、マルネロはその言葉を飲み込んで慌てて魔力を集中する。
「爆炎!」
その言葉とともにマルネロから放たれた炎の渦が骸骨の小山を飲み込んだ。
「ふむ、空間転移で逃げられましたかね」
マルネロの放った炎が霧散した後の塵がひとつもない床を見て、トルネオが呟いた。
「そのようね。でも助かったわ、トルネオ」
マルネロが素直に礼を述べた。真上から大量の骸骨が降ってくるというあまりにふざけた策だったためか、魔人も意表を突かれて対処しきれなかったのかもしれない。
「いえいえ、皆さんがご無事でよかったです」
トルネオはそう言って、かっかっかと笑っている。そこへダースが浮かない顔のままで近づいてくるとエリンにその顔を向けた。
「エリン殿、やはりヴェリアス様は……」
その言葉にエリンが珍しく申し訳なさそうな顔をしながら首を左右に振った。
「スタシアナ姉様だったら何とかなるかもしれないけど……」
「そうですか……」
天使とて生命の生き死に関して万能というわけにはいかなのだろう。それにしてもとマルネロは思う。
「これだけの騒ぎがあっても屋敷にいる他の人間が出てこないのは、どういうことなのかしら?」
「ゾンビカメムシからの報告では、屋敷の人間は全てが殺されているようですよ」
トルネオの言葉にマルネロは顔を顰めた。
「……流石にそれは酷いわね」
マルネロの中で怒りが膨れ上がってくる。正直、人族の生き死になどにはあまり興味がないマルネロだった。だが、無関係の人族もいたのではと思うと、やるせない気持ちにはなる。
「ねえ、エリン、あの魔人が言っていたミネルって何者なの?」
「ミネル様は天使長様よ。配下の天使がうじゃうじゃいてよ」
天使の世界を詳しくは知らないが、要は偉い天使ということらしい。となると、このエリンやスタシアナもミネルとやらには逆らえないものなのだろうか。
それとも彼女たちは堕天使という位置付けだから問題ないのだろうかともマルネロは思う。
それにしてもあの魔人、その天使に訊いてみろと言っていた。ということはある程度、互いに顔見知りということなのだろうか。
天使と魔人に接点があるとは俄には信じられない話だ。
疑問がマルネロの中に次々と生まれてくる。
「さあ皆さん、新手がくるとも限りません。ここは一旦、撤退するのが最善ですよ。それなりの収穫もあったようですからね」
深みに入り込んでいくマルネロの思考をトルネオがそう言って止めるのだった。
魔人の男が不快げに言う。
「ふむ、あなた、魔人ですよね。魔人って何かいつも上から目線で、しかも勿体ぶっていて好きになれないですね」
トルネオは人差し指を伸ばして顎に当てると、こてっと首を傾げて見せた。
どんな見得なのよとマルネロは思う。全然可愛くない。強いて言えば間が抜けていて、相手を馬鹿にしている。
「そう言えばわたし、スタシアナさんと一緒にいい物を作ったんですよ。丁度よい機会ですのでお見せしましょう」
トルネオが両手を宙に翳した。すると魔人の男の真上にある空間が揺らいだように見えた次の瞬間、その何もない空間から大人ほどの大きさがある白い物体がばらばらと落ちてきた。
……何体もの骸骨だった。
あっという間に魔人の男を覆い尽くして骸骨の小山が出来上がる。しかも骸骨たちは互いに重なりあって魔人の男を押さえつけているようだった。
何とも原始的な……。
それに何よりも見た目が気持ち悪い……。
「さあ、マルネロさん! 秘技、魚群骸骨団に押さえ込まれている間に特大魔法を」
トルネオが得意げにマルネロに向かって言い放つ。
魚じゃなくて骸骨なのだから名付け方がおかしいと言いたいところだったが、マルネロはその言葉を飲み込んで慌てて魔力を集中する。
「爆炎!」
その言葉とともにマルネロから放たれた炎の渦が骸骨の小山を飲み込んだ。
「ふむ、空間転移で逃げられましたかね」
マルネロの放った炎が霧散した後の塵がひとつもない床を見て、トルネオが呟いた。
「そのようね。でも助かったわ、トルネオ」
マルネロが素直に礼を述べた。真上から大量の骸骨が降ってくるというあまりにふざけた策だったためか、魔人も意表を突かれて対処しきれなかったのかもしれない。
「いえいえ、皆さんがご無事でよかったです」
トルネオはそう言って、かっかっかと笑っている。そこへダースが浮かない顔のままで近づいてくるとエリンにその顔を向けた。
「エリン殿、やはりヴェリアス様は……」
その言葉にエリンが珍しく申し訳なさそうな顔をしながら首を左右に振った。
「スタシアナ姉様だったら何とかなるかもしれないけど……」
「そうですか……」
天使とて生命の生き死に関して万能というわけにはいかなのだろう。それにしてもとマルネロは思う。
「これだけの騒ぎがあっても屋敷にいる他の人間が出てこないのは、どういうことなのかしら?」
「ゾンビカメムシからの報告では、屋敷の人間は全てが殺されているようですよ」
トルネオの言葉にマルネロは顔を顰めた。
「……流石にそれは酷いわね」
マルネロの中で怒りが膨れ上がってくる。正直、人族の生き死になどにはあまり興味がないマルネロだった。だが、無関係の人族もいたのではと思うと、やるせない気持ちにはなる。
「ねえ、エリン、あの魔人が言っていたミネルって何者なの?」
「ミネル様は天使長様よ。配下の天使がうじゃうじゃいてよ」
天使の世界を詳しくは知らないが、要は偉い天使ということらしい。となると、このエリンやスタシアナもミネルとやらには逆らえないものなのだろうか。
それとも彼女たちは堕天使という位置付けだから問題ないのだろうかともマルネロは思う。
それにしてもあの魔人、その天使に訊いてみろと言っていた。ということはある程度、互いに顔見知りということなのだろうか。
天使と魔人に接点があるとは俄には信じられない話だ。
疑問がマルネロの中に次々と生まれてくる。
「さあ皆さん、新手がくるとも限りません。ここは一旦、撤退するのが最善ですよ。それなりの収穫もあったようですからね」
深みに入り込んでいくマルネロの思考をトルネオがそう言って止めるのだった。